浦原さんに断界通り抜けの際の諸注意を聞き、夜一さんからは覚悟の程を確かめられた後、俺達はついに穿界門をくぐった。 『前回』と同じ条件だった所為か、走っている途中に石田は拘流に捕まりかけ、それをチャドが無理矢理助け出し(俺は見ていただけ。斬月の柄に手を掛けることすらしていない。なんせ下手に手を出しても夜一さんに怒られるだけだし)、そのあと拘突が現れて、しかし井上のお陰でなんとか断界を通り抜けることが出来た。 そう言えば、確かこの拘突に追いかけられたのが原因で『前回』は七日分過去に戻っちまったんだよな。 「・・・お。」 着地の衝撃で舞い上がっていた土煙がようやく収まりだす。 初めて見る風景に些か興奮気味なのか、石田の話し声がいつもより大きい。 その傍らで夜一さんは尸魂界の地理的説明を始め、俺達は黙って耳を傾ける。 俺の立ち位置から右手に見えるのは周囲よりも整えられた街並み―――瀞霊廷。 こちらとあちらの間に大きな溝があるのを確認しながら(あそこに瀞霊壁が降って来るわけだな)、『前回』と同じ愚を犯すつもりも無いので、この先どうしようかと思考を働かせてみた。 とりあえず、ジダン坊と空鶴さんは味方につけておいた方が良いよな。 俺が藍染にやられた後、現れた三人の門番を倒してくれたのはあの二人だし。 『前回』聞かされた藍染の話が本当なら、瀞霊壁もそろそろ落とされる頃だろうから、同じようにジダン坊と戦うだけで事は足りる。 ただ、市丸ギン(だっけ?あの銀髪の死神)がジダン坊の腕を切り落とすのは止めたって構わないよな。 止められるものならって注釈はつくけど。・・・まあ、やってみないと分からない。 そうこうしているうちに大きな地響きを伴って瀞霊壁が落とされた。 夜一さんが「早すぎる・・・」と呟いたのはイイ線いってると思う。 だからって藍染惣右介が俺達の襲来を予想して瀞霊壁をすぐ落とせるようにしていた・と言うつもりは無い。 まだ浦原さんにも夜一さんにも俺が繰り返していることの証拠を見せていないからだ。 と言うか、そんな証拠になるものなんて本当にあるのだろうか? 今のところ一番いい証拠になりそうなのは、俺が既に卍解可能であるということ。(まだ卍解が出来ることは教えていないのだ。実は。) 普通、死神になるのと同時に卍解まで可能な死神なんていないからな。 しかし生憎、俺は普通とは違う境遇にあるので、いまいち決め手に欠けてしまうのだ。 ・・・些か完璧を求めすぎだろうか。 まあ、どうしても信じてもらわなければならない時が来れば、その時に持っている証拠になりそうなもの全部出して賭けに出るしかないのかもしれない。 「夜一さん、あそこに立ってるデカいやつって門番なのか?」 「ああ、ジダン坊か。奴はあの白道門の番人で、尸魂界全土から選び抜かれた豪傑の一人じゃ。」 「じゃあ、アイツを倒せば中に入れんのか。」 「そうじゃ。しかしそう容易いことではないぞ。」 そう言って鋭い視線を向けてくる黒猫に俺は苦笑でもって返す。 「でもアイツ程度が倒せないようじゃ、これから戦うかもしれない他の死神になんて勝てるわけないだろ?・・・だから俺一人でやらせてくれないか。」 「自分の力を過信するほど愚かなことはないぞ。」 「過信じゃない。自信だ。それに攻略法も一応あるぜ。」 ジダン坊を懐柔するための、な。 俺の台詞をどう受け取ってくれたのかは分からないが、それでも一応は良い感じで取ってくれたらしく、金の眼を少しだけ優しくして夜一さんは口を開いた。 「・・・ふん、まぁよい。喜助からお前の実力はある程度聞かされておる。」 「すまねえ。じゃあ、行ってきます。」 「気をつけてな。」 あとは『前回』と一緒だ。 俺とジダン坊が一対一の勝負をして、二本の巨大な斧はバラバラ。 ジダン坊の涙腺もぶっ壊れ。 それを俺が慰めることでジダン坊は俺達に好意的な態度を見せてくれるようになった。 |