「上手いことずらしましたねえ、魄睡ンところ。これもワザと?」 「ああ。まさかとどめとばかりに“ぐさっ”といかれるなんて思ってなかったから正直かなり焦ったんだけどな。」 そんな会話を一方は布団の上、もう一方はその傍らにあぐらをかいて交す。 もちろん前者が俺で後者が浦原さんだ。 傷も動いて差し障りない程度に回復し、それから一眠りさせてもらった俺は現在、今回のことについて色々と浦原さんに話している最中である。 とりあえず、なるべく軽症で済ませるために赤髪の死神と手を抜いたまま戦い、黒髪の方は相手にしないようにしていたということは話した。 相手との実力差を理解した上での判断だと。 どうせルキアは連れて行かれてしまうのだから、次からのことを考えて怪我はなるべく軽い方が良いだろ? じゃあ何故あの場所へ向かいルキアの誘拐を阻止しようとしたのか。ずっと家に居れば良かったのではないか・・・という質問が来ると思っていたのだが、それは無かった。 おそらく浦原さんは、俺が家を飛び出したのはまだ相手の力量を知らなかったからこそ出来たことで、相手――特に黒髪の死神こと白哉――を前にして初めて自分との差を理解し、今回のような結果になったと考えてくれたのではないかと思う。 実際は違うけどな。 浦原さんが気付いていない重要なことは、今回の目的がルキア誘拐の阻止ではなく、俺が死神にやられることによって浦原さんに修行をつけてもらうためだったということだ。 これがなくては尸魂界に行けたって何も出来ない。 おそらくジダン坊と当たった時点でアウトだ。 これは俺が“二度目の俺”を体験していることを知らない人々には到底思いつかないものだろうけどな。 RPGの二周目(俺)と一周目(その他)の差は大きいってことだ。「考え方」的な意味で。 で、問題はその差と、差が生じた原因(つまり繰り返していること)を浦原さんに教えるかどうかということだ。 教えてそれを信じてもらえれば、この先のことは結構スムーズに進むように思える。 ま、最後がアレだったから相手には「大丈夫なのか・・・?」と思われるかも知れないが、その辺りは一回分多い経験で何とかするとして。(この辺り、楽観視しないと話が先に進まない。) しかし信じてもらえなければ、ただの頭が沸いた人間に見られてしまう。 それは痛い。あらゆる意味で痛すぎる。 だからどうせなら繰り返している証拠も一緒に示せた方が良いだろう。 しかし夜一さんが実は女性だったとか、浦原さんが昔、十二番隊の隊長だったとか、そういう過去由来の知識では駄目だ。 どこかの誰かから聞いたものだと言われればそれでオシマイ。 誰に聞いたものか悪い予想でも立てられてしまっては尸魂界行きすら怪しくなる。 ・・・やはり今のところは黙っていた方が得策なのかも知れない。 後手に回るのはあまり歓迎出来ないが、必要になった時かもしくは更に確かな証拠に思い至った時にでも教えることにしよう。 「黒崎サーン、戻ってきてくださーい。」 「・・・悪い、考え事してた。」 ついこれからのことを考えるのに没頭して他が疎かになってしまっていたようだ。 浦原さんの声で意識を外に向け直し、苦笑する。 返ってきたのは大袈裟な溜息だ。 「朽木サンが連れて行かれたってのに随分と余裕じゃないっスか。」 「ンなことねえよ。こっちも色々考えてる。」 「尸魂界に行く手立てすら無いのに?」 なんて白々しい言い方だよ、浦原さん。 思わず笑っちまいそうになるだろ。 「でも本当に無いってワケでもないんじゃねーの?あんたンとこは死神相手の商売が本業なんだって聞いてる。だったら尸魂界へ行く方法も知ってるんじゃないか?」 「・・・敏い子は嫌いじゃないっスよ。」 「そりゃ良かった。あと、嫌いじゃないついでにもう一つ。」 「なんっスか?」 「俺を、強くしてくれないか。今度は絶対に勝たなきゃいけねえから・・・アイツらに。」 俺が真剣な声で言ったからか。 帽子で隠れている浦原さんの顔が一瞬、驚いているように見えた。 もうひと押しかも知れない。 それまで顔だけ向けていたのを身体ごと相手の方に向けて布団の上で正座する。 いや、これは土下座だ。 布団の上に手をついて頭を下げる。 「頼む。俺を強くしてくれ。弱者が敵地に乗り込んだって、それはただの自殺だ。・・・俺は死にに行く理由に他人を使うなんてしたくない。」 昔、言われた台詞を思い出す。 『前回』のことだから言った本人が覚えているはずもないのだが、それでも正面から息を呑む気配がした。 この言葉はあの時どうしようもなく焦っていた俺を落ち着かせ、導いてくれた大事な言葉だ。 だから込められた想いもひとしお。 それが相手に伝わったのかも知れない。 ククッと笑い声が聞こえて俺は顔を上げる。 鋭い目が帽子の奥から此方を射抜いていた。 「いいでしょう。アタシがキミを強くして差し上げます。そして朽木サンを助けに行ってらっしゃいな。」 |