雨の音に紛れてカランカランと高めの音が近づいてくる。 下駄の音だ。 思い当たるのは一つだけ。 『前回』俺はこの時気絶しており、その詳細を知らないままなのだが、倒れた石田を見ても驚かない非一般人かつ下駄なんてものを履いている人間はあの人くらいだろう。 カラン、と最後に鳴らして歩みが止まる。 雨粒を弾く傘の音が近い。 “情け”なのか、振り続けていた雨が頭部だけとは言えども遮られた。 正直、今でも雨は苦手だからありがたい。 出来ることなら傷口辺りの雨も防いで欲しかったのだが、普通サイズの傘には無理だろうな。 「・・・黒崎サン、生きてますよね。」 「おう。・・・つーか随分と確信めいた言い方だな。」 上から降って来た声に苦笑つきでそう返す。 だってちゃんと見てましたから、という返事には少し驚いたが、浦原さんなら有り得ないことじゃない。 「赤い髪の死神と戦ってる時、実は本気じゃなかったんじゃないっスか?」 「なんでそんなこと訊くんだ。」 「キミ、コン君のことでアタシと会った時に見せてくれた動きと全然違いましたからね。」 よく見てるなぁ。凄い凄い。 でもこれってどうなるんだ。・・・ピンチ? 浦原さんの協力が得られないと尸魂界には行けねえし、いやでも浦原さんだって崩玉のことは何とかしたいだろうし・・・夜一さん単体でGOってことになるのか?それはマズイ。 不信感持たれたままだと駄目だよな。勿論、知らぬ存ぜぬも効かないだろう。 「どうしました?」 「いや・・・何をどう話せば良いのか考えてた。」 やっぱりちゃんと話すしかねえのかな。 信じてもらえるかどうかは怪しいところだけど、下手な嘘よりはよっぽど良いように思える。 しかしひとまずこの雨と怪我をどうにかしたい。 石田もあまり長いことあのままにしておくわけにもいかないだろうし、俺だってずっと痛みを感じたままだ。 人間では致命傷のこの傷も霊力が高いお陰で死神の身体ならなんとかなっているんだが、それでもなぁ。 まあ、と言うわけで。 詳しい話は後でするってことを約束し、俺は浦原商店で傷の手当てを受けることになった。 石田は浦原さんの怪しげな薬で回復した後、一人で家に帰ってしまっている。 こんな所でも『前回』と同じなんだなと感心しつつ、商店の客間の通された俺はそこで一時の休息を得た。 |