「オラオラオラオラァ!!!」

―――ギンッギンッギンッギンッ

恋次の繰り出す一撃一撃を慎重に見極め、受け止めながら、タイミングを計る。
いつ自分が相手の斬撃を受けて吹き飛ぶか、というタイミングを。
この場で白哉を相手にしないためにも恋次と戦っている間に決着をつけなければならないからだ。
しかもその勝敗は必ず俺の負けという形として。
斬月が無くとも頭の中に経験は残されていたので攻撃を躱すことも受け止めることもかなり容易に出来たが、やはり恋次ならまだしも白哉を打ち負かすほどの力は持っていないので、駆けつける前に組み立てた予定を忠実にこなせるよう神経を張り詰める。

これは甘い。吹き飛ぶには少々威力不足。
これは強すぎる。下手に喰らえばヤバいだろう。

そういう風に最適な一撃を待ちながら俺はデカいだけの斬魄刀を操っていた。
そしてついに。

(これだ!)

荒い息をつくという演技も加えながら対応していた時に、ようやく待ち望んでいた状態が出来上がった。
恋次は自分の優勢を信じて疑わず攻撃の手が若干弱まり、けれどもルキアのことを思ってか本来の鋭さはまだ残っている。
これなら疲れているように見える俺がまともに喰らってしまっても違和感は無いだろうし、受け手の俺自体もそんなに大きなダメージは負わないだろう。

そうと決まればこちらも手を緩めて隙を作る。
恋次が斬り込めるように。また、俺が上手い具合に深すぎる傷を負わないように。

「終わりだ!」

ザシュという効果音がつきそうな勢いに襲われ、左肩が一瞬で燃えるように熱くなる。
それどころか勢い余って壁に激突。後頭部を強打する(ように見せかける)。
崩れ落ちる俺の身体にルキアの必死な声が向けられた。
ピクリとも動かなくなったこの身を見た彼女は、今どんな表情を浮かべているのだろう。

少し離れたところから恋次の「はっ!」と吐き捨てる声が聞こえた。

「弱ぇくせにイキがってんじゃねーよ。テメーは死んでチカラはルキアに還る。ハナからルキアを追いかけるようなマネなんざしなけりゃ逃げられたかもしんねーのにな。」

大きなお世話だ。こっちにも考えがあって動いてんだよ。
身動きできない「はず」だから、俺は舌打ちしたくても出来ないまま無音で告げる。
ザリと音を立てて近づいてくるのは恋次か。
草鞋がアスファルトに擦れて独特な音を立てながら倒れ伏す俺のすぐ目の前までやって来て、そして止まった。
いやしかし、チャキと鍔鳴りの音が聞こえるのは気のせいだろうか。
何とも嫌な予感がして、俺は先刻以上に神経を張り詰めた。





「じゃーな。」

マジかよ!?

何をされるのか気付いたのと行動に移ったのはほぼ同時。
こちらの背中に向かって突き立てられんとしていた一撃に対し、身体を捻ることで最も喰らってはいけない場所への攻撃を相手に判らない程度に躱す。
狙われたのは魄睡。
霊力の発生源であるそこを壊すことによって俺――少なくとも死神としての俺――を完璧に殺すつもりだったんだろう。
それをギリギリで躱して、けれども人間としてはかなり危険な一撃を受けて口から呻き声が出る。
痛い。確かに痛い。
しかしこれはこれで、より俺の敗北にリアリティが出ていいんじゃないかという思考も無きにしも非ずだった。
案の定、恋次は既に俺に背を向けているし、白哉も帰る気でいるようだ。
ルキアだけが俺の視線に気付いて振り返って見せたが、『前回』の時もそうだったように、俺の生存確率を上げるためあえて見ないフリをする。
恋次に促され、穿界門へと歩みを進めるルキア。
一羽の地獄蝶を纏わりつかせ、それが唯一の抵抗であるかのようにゆっくりと門の向こう側へと消えて行った。
障子戸の形をした門がパタンと閉じ、やがてその姿さえ薄れさせていくのを見つめながら、俺はようやくといった感じで息を吐き出す。

「石田ぁ、生きてるか?」
「・・・・・・・・・」
「・・・返事がない。ただの屍のようだ。」
「・・・・・・・・・」
「気絶してんのか。・・・って、うわ。雨まで降ってきやがった。」

冷たい感触を全身で受け止めながら虚しい独り言を呟き、そのうち来るであろう浦原さんを待って俺は目を閉じた。



























なんかもう既に一護の思考が大分壊れてきたような気がしないでもない。


(07.07.08up)










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