ほぼ予定通りに浦原さんが現れて俺を死神化し、ルキアのもとへと送り出した。 どうせ今頃はコンの義魂丸をヌイグルミから俺の身体に移し変えて留守番でもしていろと言い付けているに違いない。 そんな浦原さんの態度にコンのヤツは戸惑ってんだろうなぁ・・・と考えつつ、俺はなるべく急いで空中を駆けていた。 早くしないと石田がヤバい。 『前回』俺が駆けつけた時には恋次に止めを刺されそうになってたからな。 それなら一応『今回』はアイツがなるべく怪我を負わないうちに到着できればいいと思う。 ・・・と、俺は本当にそう思ってたんだ。 けれど現実ってのはそんなに上手くいかないものらしい。 つまり俺が駆けつけた時に見たのは、石田がシャツを赤色に染めて地面に倒れるシーンだったのだ。 「石田っ!」 思わず名前を呼んで恋次の前に立ち塞がった。 『前回』は色々いっぱいいっぱいでルキアのことしか見ていなかった気もするが、『今回』は一度体験したことを繰り返しているのだからより多くのものを気に掛けることが出来る。 しかも俺はわざとこうなるよう石田に仕向けたのだから、その幾ばくかの罪悪感も手伝って意識はしっかり石田にも向いていた。 よく見れば傷も決して深くないと判るが、それでも今この場で一番の重傷者に眉間の皺が深まるのを感じながら、俺は恋次をひたと見据える。 「これ以上は止めてもらうぜ。」 「はっ?なんだテメー、いきなり出てきやがって・・・一体ドコの所属だ。しかも、」 こちらが構えた斬魄刀に目を向けて、恋次はゴクリと息を呑んだ。 「何なんだそのバカでけえ斬魄刀は・・・!?」 同じ台詞をありがとう恋次。 とは言っても、本人にはそんな自覚無ェんだけどな。 だから「そりゃどうも。」と軽い調子で答えれば、恋次の表情に怒りが現れた。 斬魄刀の大きさは霊圧の大きさだとされているから、俺の態度に自分が馬鹿にされていると感じたのかも知れない。 いやいやそんなこと無いぞ、恋次。 今の俺の斬魄刀は白哉に簡単に折られちまうくらいモロいやつなんだから。 中身の無い風船なんだよ。 何もかも見かけだけってな。 「一護!?」 「よう、ルキア。」 こちらの突然の登場に驚いていたルキアだが、ようやくその状態から抜け出せたらしい。 俺の名を呼ぶ声に答えれば、彼女は常の気丈な態度とは裏腹に焦ったような表情を浮かべた。 「莫迦者、何故来たのだ・・・!」 それはこれからの話をスムーズに進めるため・・・とは流石に言えず、「わかってんだろ?」と横目で話しかける。 なんとも都合の良い言葉だ。 この状況でそれを言ってしまっては、ルキアが勘違いをするのも当然といえよう。 そして俺は嘘をついたことにはならない。 ルキアは「自分の保身の為に俺がお前を見捨てると思ったか?」とか、そういう風に思っているんだろうな。 相手に真実を明かさず話を進めていく部分はもしかして浦原さんにでも似たのだろうか、なんて冗談8割強くらいで考えつつ、身体はいつでも攻撃に反応できるよう構えをとる。 そんな俺にルキアはもう一度「莫迦者!」と告げると、嬉しいのか悲しいのか怒っているのか判断のつかない微妙な表情を浮かべてみせた。 きっと俺がルキアを気に掛けていたと実感できて嬉しいと感じ、そして、否しかし、俺が白哉達に敵うはずもないと絶望を抱いているのだろう。 加えて俺の自意識過剰かも知れないが、俺が戦いに負けて傷つくことを恐れているとか。 白哉が俺に止めを刺さないよう、わざと俺を嫌うような態度を取って見せた『前回』の彼女の姿が脳裏を掠める。 自分の身を犠牲にしてまで俺を助けようとしてくれた彼女の姿が。 ルキアの中で渦巻いているであろう二律背反な感情の原因となっていることを申し訳無く思いながら、俺はルキアの台詞によってよりいっそう鋭さを増した恋次の視線を受け止めていた。 「そうか・・・読めたぜ。てめえがルキアからチカラを奪った人間かよ・・・!」 「ご明察。さて、じゃあどうする?」 「殺す!!」 蛇尾丸を振り上げ飛び掛ってきた恋次を視界の中央に捉えながら俺は心中で呟いた。 お手柔らかに、と。 それとあと付け加えるとしたら、頼むから白哉は手を出すな、とかな。 |