「さて。」 机の上に置かれた手紙を見つめて俺はそう呟く。 何だかんだで学生生活と死神業代行をしているうちに、とうとうこの時期が来てしまったようだ。 手紙を手に取り中身を確認すると、どこか懐かしく感じる「た」の多い文章。 コンはおらず、もちろんルキアもいない。 つまりは今日が俺と護廷十三隊六番隊主従との初顔合わせとなるわけだ。 現時点において死神化できない俺は特にやれることも無い。 せいぜいがトイレに捕われているはずのコンを救出するくらいか。 しかしまあ、そのための先日の一芝居・・・大虚出現前、虚と戦ってる最中に石田の過去話を聞いたり俺の過去話を語ったりしたわけだから、必要な時間は稼げているだろう。 石田には悪いと思ってるけどな。 で、俺はその時間を使って浦原さんに死神化させてもらうわけだが、その後はどう行動しようか? 『前回』通りなら白哉にぶっ刺されて重傷。 その後、浦原さんに助けられて説教されて死神になるための修業・・・という流れになる。 しかしハッキリと言おう。こんなのは危険すぎる。 『前回』上手くいったからと言って『今回』もその通りになる確率なんてどれくらいのものだろう。 白哉は前と同じ所を寸分違わず刺すだろうか。 俺は前と同じ立ち位置に半歩もずれず立っていることが出来るだろうか。 浦原さんは手遅れになる前にこの身を治療してくれるだろうか。 やってることは同じでも完璧に一致するかどうかなんて、有り得なくはないだろうが有り得ないと言いたくなるようなものだ。 そんなわけで、きっちり『前回』をなぞるのは気が進まなかった。 あと、やっぱり刺されるのは嫌だしな。 「案その一。浦原さんが来るのを待って死神化し、恋次達と適当に戦ってルキアが連れ去られるのを待つ。案その二。いっそのことルキアを助けに行かず、浦原さんの所に直に弟子入り。・・・不審がられるよな。でも浦原さんも崩玉のこととか、俺にやらせたい事もあるだろうし。」 手紙を元の位置に戻しながら、思考の整理も兼ねて呟く。 これからの行動によって俺が無事尸魂界に行けるかどうか変わってくる可能性だってあるし、もちろん他の事にも影響が出てくるだろうから。 絶対に起こさなきゃいけない出来事はルキアの誘拐と俺の本当の意味での死神化。 ではそのためにすべき事は何だろう。 前者はすでに事態が動き始めているから大丈夫。俺がこれから何もせずとも、白哉達は勝手にルキアを連れて帰っちまう。 問題は後者だ。 大丈夫だろうとは思うが、決してその未来は確実なものなんかじゃない。 だって総合的な実力から言えば俺より夜一さんの方がずっと上だし(特に隠密行動とかは月とスッポン以上の差がある)、そうなると俺を中心に尸魂界へ送り込むより夜一さん単体で送り込んだ方が成功率が上がる・・・と、浦原さんが判断する可能性も捨て切れないのだ。今の状態では。 「やっぱ刺される方のシナリオで行くべきか?いやいや、しかし危険度が。でも尸魂界に・・・」 堂々巡りな思考を持て余す。 部屋に誰もいないのをいいことにぶつぶつと繰り返し呟き、ベッドに腰を下ろした。 窓から見上げた夜空には満月。 視線を下げれば窓のサッシが目に止まる。 『前回』は気付けなかったが、浦原さんはどうやってこんな所に登場できたのだろう。 よじ登ってきた、というのはあまりにも格好が悪いので考えないことにするとして、あの人はどうやら死神だったらしいから、やはり霊子を固めて作った床みたいなものを使って登ってきたのだろうか。 そんなどうでもいいことを考えながらゴロリとベッドに横になる。 「・・・いっそのこと俺が繰り返してることバラしちまうか。いや、それはちょっと早計ってやつかな。どうせバラすなら修行中でもいいだろうし。・・・そもそも白哉を相手にすんのが間違ってんだよな。恋次なら今の俺でも何とかなるかも知れないが・・・・・・よし!」 腹筋の力で勢いよく起き上がり、置時計で時刻を確認する。 午前一時。まだ幕は上がっちゃいない。 「白哉じゃなくて恋次に負けてみるか。テキトーに気絶したフリでもすりゃ、案外何とかなるかも知んねぇ。そんで白哉が出張ってきたら退散。浦原商店に逃げ込めば何とかなるだろ・・・不本意だけど。」 どうせ斬月も無いのに無理矢理戦って下手打っちまったら意味無ぇし、けれども戦わずに浦原さんの信用を得るのも無理な話だ。 だからその辺りで折り合いをつけておくのがベストなのだろう。 らしくはないかも知れないが、結局のところ不完全な攻略本を読んでいるような今の俺の状況では、そんな予定を組み立てる他に良い案が思い浮かばない。 身体の奥の方でもやもやしたものがあったけれども無視して、俺はコンを助け出すべく立ち上がる。 あと一時間ほどで始まるのだ。 それまで「ネエさん!!」と騒ぐだろうヌイグルミをどうあしらおうか考えながら、消臭スプレーってどこだっけ?と呟き、俺は頭を掻いた。 |