予定していた通りに物事は進み、俺は現在、大虚に引き続き突然現れた浦原商店店主の顔を見詰めていた。 「・・・浦原さん、」 「言ったでしょう?助けに来ましたよーん♪って。・・・キミを含め、朽木サンは大事なお得意様っスからね。ピンチには喜んで駆けつけさせて頂きますよ。」 深く被った帽子で表情の殆どを隠し、浦原さんは楽しそうに口元を歪める。 その口から零れ落ちた「それにアタシはキミ自身にも少々興味がある。」なんて台詞は聞かなかったことにしよう。響きが怪しすぎて背筋に冷たいものが走る。 おそらくコンを助ける際に瞬歩を使ったのが原因だろうが・・・まさか、それが原因でこんな事をわざわざ口にされるとは思ってもみなかった。 「周りの雑魚はあたしらが引き受けますんで。黒崎サンは思う存分、あいつを相手にしてくださいな。」 言って、浦原さんが指差した先には空の罅割れから徐々に姿を現わし始めた大虚。 『前回』は大虚が撃ち出した虚閃に引きずられる形で霊力を急上昇させていたが、流石に一度体験したこととして、『今回』はわざわざそこまでする必要は無い。 斬月の本当の威力は出せないにしても(なんたって今俺が持ってる斬魄刀は斬月じゃねぇ)、俺の中にある霊力をある程度表に出すことは出来る。 いくら霊圧の調整が苦手だからと言って尸魂界で散々やってきた経験を持ちながら刀の一振りに霊圧も乗せられない、なんてことは有り得ないからな。 と言うわけで、俺は浦原さんに一度頷き返すと、石田の制止も振り切って大虚の前へと飛び出した。 緩慢な仕草で対象が此方を見据えようとする合間に、まずは軽めの一撃。 込められた霊圧が刃となって大虚の仮面を抉る。 怒ったのかどうかは知りようも無いが、俺からの攻撃を受けた大虚は僅かに傾いた体勢を立て直した途端、先程まで虚共を刺し貫いていた舌を此方に伸ばしてきた。 「っ、」 ―――ドンッ!!! こんなものの攻撃を受けたらどんなことになるか想像に難くない。 俺より大きな体をしている虚の真ん中にぽっかりと穴が開くのだから、俺自身なら上半身と下半身がおさらばしてしまうだろう。 加えて攻撃を受けた箇所はミンチ決定。 大虚の一撃を横目に、随分エグい死に方を想像して眉間に皺が寄った。 まあ、そんな想像も攻撃を避けられるからこそやっていられるようなものなのだが。 続いて舌を引っ込めた大虚は再度それを撃ち出してくる。 二撃目も一撃目と何ら変わることなく回避。 だが、一撃目と二撃目の間に舌が完全に口腔内へと収納されたにも関わらず、三撃目は二撃目の舌の回収を途中で撓ませるまでに留まり、前よりも早く放たれた。 「ちっ!」 大きく舌打ち。 回避出来なくも無いが、ガンガン突いて来る攻撃に対して嫌気がさした。妙に此方のリズムを崩すやり方にも。 今度は避けることなく斬魄刀を構え直す。 斬月があればもっと楽だろうに・・・とは思いつつも無い物ねだりは出来ないので、その思考は脇に置いておくとして。 俺はタイミングを計り霊圧が乗った一撃を襲い来る舌に叩き込んだ。 ああ。やっぱり斬月とは違うな。 目的通り大虚の舌を切り落とすことは出来たが、手応えの違和感に何とも言えない気分になる。 今この身に宿る死神の力が自分自身の物ではなく、紛い物、ルキアから借り受けたものでしかないからだろうか。 これじゃあ追い払うことは出来ても昇華までは出来ねえな、と痛みに叫ぶ大虚を見上げながら呟いた。 あの時、あの雨の時、俺はグランドフィッシャーを倒せなかったのだ。だから当然と言えば当然だろう。 この状態でそこまで出来る実力は、たぶん、無い。 二回目ゆえか、随分冷静に物事を見られるようになっていた自分に少しばかり驚きつつ、俺は「ならさっさとやる事やっちまうか。」と斬魄刀を下段に構えた。 舌を切られて攻撃の気配を無くした大虚。再び俺を認識して何か手を打ってくるまでもうしばらく掛かりそうだ。 撒餌で現世に現れ、そして此処に集まってきていた雑魚虚。あいつらは浦原さん達がいるから俺なんて見向きもしない。 だから、今がチャンス。 刀身に霊圧を込め、標的を見据えて俺は思い切り斬り上げた。 渾身の一撃はほぼ『前回』と同じような軌跡を描いて大虚の巨体を両断。 足元から始まり仮面のすぐ横を抜けて行った攻撃に大虚は地響きのような悲鳴を上げ、空を裂いて還って行く。 その辺にいた雑魚虚も浦原商店店員達のおかげで大方片付き、俺はほっと息をついた。 とりあえず今回の出来事は予定通りに済んだと言えるだろう。 石田と会話して喧嘩して共闘して、大虚が現れて浦原さんも現れて俺が大虚を追い返す。 細かいところは違うが、大筋で『前回』と一緒だ。 尸魂界からの偵察機とやらは俺の目で捉えることが叶わなかったが、たぶんそちらも上手くいってるんじゃないかと思う。 なんとなく、だけれども。 いや、なんとなくだろうが如何だろうが、上手くいってもらわないと意味が無いのだが。 虚達の登場によって罅割れ、そして補修の始まった青空を見上げながら、近くに誰もいないのを良いことに俺はポツリと呟いた。 「次は恋次と白哉か・・・。鎖結と魄睡壊されんのはヤだなぁ。」 痛いんだって。ホント。 |