石田を尾行して本人に勘付かれる・・・・・・・・・クリア。
(ついでに「バカみたいに霊力の垂れ流し」云々とコケにされる。)
俺が死神の力を得たのに最初から気付いていたと知らされる・・・・・・・・・クリア。
ルキアの正体も知っているとご報告・・・・・・・・・クリア。
霊絡を出現させ、死神のそれは紅色だと指摘される・・・・・・・・・クリア。

『前回』に起きたことを忠実に再現し、今のところは順調。
教室を出る前に決心した通りに笑えるくらい容易く物事は進んで行き、俺は今、敵意をありありと滲ませた双眸でもって石田から睨み付けられていた。

そして、

「僕は滅却師。虚を滅却する力を持つもの・・・」

石田が名乗りを上げて、

「勝負しないか、黒崎一護。死神と滅却師とどちらが優れているか。解らせてあげるよ。死神なんてこの世に必要ないってことをさ。」

見事、第一段階は全てクリアされた。
碌でもない、けれど必要不可欠な勝負を申し込んできた石田の顔から視線を逸らすことなく、俺は口端を吊り上げる。

「いいぜ?その勝負、乗ってやるよ。」

『前回』は少々渋ったりもしたが『今回』はそこまで詳しくなぞる必要も無いだろう。
省略できるものは省略してやるという考えの下、俺はさっさと義魂丸を取り出してそれを飲み込んだ。
体から無理矢理引き剥がされるような感覚の後にコンが此方を驚いた表情で見詰めているのが目に入って、その頭に叩くような感じで軽く触れる。

「コン、これから起こる事をルキアに報告してくれ。お前の足が頼りだ。・・・それと、俺の体のことも頼む。」

石田には聞こえないよう囁き、訝しむコンに苦笑を向けた。
だがそんなコンに詳しく説明している暇もなく、俺は再び石田に向き直ると「で、勝負のルールは?」と問いかける。

「これで勝負しよう。」

言って、石田が胸ポケットから取り出したのはお菓子のような小さい塊。
それが何か知っている俺としては(それが自分で必要だと決心した事であっても)眉間の皺が深まるのを止められない。
石田はそんな俺の様子を「その小さな塊は何だ?」と言う意味で取ったのだろう。
此方が質問する必要もなく、対虚用の撒餌であることを明かしてくれた。

「集まってきた虚を24時間以内に多く倒した方の勝ち・・・ってのはどうだい?わかりやすくていいルールだろ?」
「ふざけんな。たかが死神と滅却師の勝負ごときに町中の人間を危険に晒す気か?てめぇ、何様のつもりだ。」

自分で言っといて何だが、『今回』ばかりは俺自身にとっても耳の痛い話だな。
ホント、何様のつもりだ?“俺”は。
内心で苦笑していると石田は即座に声を荒げてレンズ越しに俺を睨む。

「うるさいんだよ!御託がさ!」

そして、パキン、と高い音を立てて粉々に砕け散る撒餌。
熱くなった石田には、もう己を止める気など欠片も無いのだろう。
俺の視線の先、強い意志の込められた黒い双眸が普段より冷静さを欠いたまま狭められた。

「他の人間の心配なんて必要ない!集まった虚は一匹残らず僕が滅却するんだから!・・・さぁ始めよう。君が“ごとき”と称したこの勝負を!」











と言うことで勝負が始まり、俺はすぐさま石田から離れて虚退治へと向かった。
きちんと意識していれば虚の気配も判るのでいちいち伝令神機に頼るまでもない。・・・『前回』は焦って「とにかくルキアのケータイ!」って感じになってたけどな。
そしてコンはと言えば、今の状態をルキアに知らせるように頼んだ通り、早々に別れている。

「よっと!」

一人で街中を走り回りながら遭遇した虚を一刀両断。
小さな掛け声と共にまた一体昇華して、破片となった虚の体が全て消え去るのを眺めることもせずに次の目的地に向かって走り出す。
現在進行形の出来事に関して、その成功のための第一段階が石田から勝負を申し込まれる・というものであり、第二段階は大虚が現れるまで町の人達を虚から護る・というもの。(ちなみに第三段階=最終段階で、大虚を倒すもしくは撃退する・というものだ。)
しかしいつ頃大虚が現れたかなんて覚えちゃいないので、何か異変を感じるまでなるべく沢山の虚を倒すことぐらいしか出来ないのである。

「はいまた一体。」

霊を襲おうとしていた小型の奴に向かって背後から一閃。
襲われそうだった男の霊は目の前で起こった事態に混乱を極めているようだったが、それをいちいち足を止めてまで説明してやる時間も義理も無い。
腰を抜かしているのをそのままに、地面を蹴って大きく跳躍。
屋根の上を飛び移るように移動しながら一番近くにいる虚を察知し、その方向へと疾駆する。
ちなみに霊圧の高い夏梨が居そうな所については早々に虚の排除は完了してある。
チャドと井上に関しては、各人の能力が目覚めるので大丈夫だろう。
むしろ俺が駆けつけても無駄になるだけかも知れない。
下手をすればマイナスか。庇った所為で能力が目覚めないかも知れないんだからな。
なるべく多くの虚の霊圧を察知出来るようにと神経を張り巡らせながら移動していた俺は、しかしふと異変を感じて空を見上げた。

「・・・来た。」

視界の中に映り込んだのは青空に走った巨大な罅割れ。
虚の出現の際に生じた小さな罅割れが集まり、見る間にその大きさを広げて行く。
その罅割れに、否、そこから現れるであろう存在に心臓が一度だけ大きく脈打った。
期待か、恐怖か。高揚か、畏怖か。
起因となる感情の種類は自分自身でも解明不可能だが、体は微妙に、そして確かに、緊張と言う状態を示した。
僅かな緊張を纏った体を『前回』大虚と戦った場所へ向ける。
おそらく道中には(と言うより公園のすぐ傍だな、きっと)ルキアとコン、それに石田もいるだろう。
どうか誰も大きな怪我を負うことが無いようにと願いながら、俺は瞬歩で屋根を蹴った。











「っりゃ!!」

体は芋虫とダルマ落としの中間のような、対して顔は豚のような虚が一体。
掛け声と同時にぶった斬ったそれが白い破片となって消えていくのを今度はきちんと振り返って眺めながら、更にその視線の先にいるどこか安堵した様子の同居人ペアと驚いた様子のクラスメイトに笑いかけた。

「ったく、自分が襲われてちゃ世話ねーな。」

一撃で仕留めるつもりだったのだろう、弓を放った格好のまま良いとは言えない顔色をした石田にそう告げる。
途端、此方の台詞に眼鏡の奥の双眸が険しく狭められたが、石田が何か言う前に俺自身はさっさとルキア達の所へ向かった。

「大丈夫かルキア。・・・と、コン。」
「おいおい、オレはついでかよ。」
「ああ。何とかな。しかしこれからどうするつもりだ。この男・・・石田が蒔いた種。回収はそう容易ではないぞ。」

石田を一瞥し、ルキアは思案顔で唇を噛む。
コンがそのすぐ傍で「え、ネエさん。オレのこと無視っすか・・・?」などと喋っているが、生憎その相手をしていられるほど余裕が無いのだ。
斬っても斬っても増え続ける虚と、力がほぼゼロなルキア。
滅却師である石田も随分と疲れているようだし、コンに虚の昇華を期待できるほど楽観的じゃあない。
そうなると、あとまともに戦えそうなのは俺くらいで、終わりの見えないこの状況にルキアは必死になって対処を考えているようだった。

・・・まあ、ぶっちゃけそんな事は無駄なんだがな。

拡大を続ける上空の罅に視線を移し、ついでにその罅へと集まりだした虚も視界に入れて刀を持つ右手に力を込める。
カチャリ、と鍔鳴りの音。
それに気付いてかコンが俺を見遣り、そうして此方の視線を辿って驚愕の声を出した。

「っんだよ、あのヒビ・・・!なんかデカくなってきてるし、虚共もそこに集まって来てやがる・・・!」

ルキアと石田もその声を合図に空を見上げてコンと同様の表情を晒す。
此処に来てようやく気付いたらしく(当たり前と言えば当たり前か。先刻まで自分の目線の高さで虚がうようよしてたんだから)、驚きの後はルキアが表情を先刻よりも更に険しいものにし、石田も戸惑いを含みつつ憎らしげに空を睨み付けた。


「さてさて、これからどう動きますか。」

二人と一匹を一瞥し、視線を空へ戻してから呟いた独り言は己の口の中だけに留める。
とりあえずは、もう間も無く石田が虚の群れへと突っ込んで行くだろう。
俺はそれに少し遅れて駆けつければ良い。
石田と虚共の戦いに乱入し、『前回』のように滅却師と死神についての俺個人の見当違いな意見を告げて、滅却師・石田雨竜の過去を本人に思う存分語らせる。
そうすれば此方が「大人数相手のケンカなんてのは、背中合わせの方が上手くやれるモンだ。」とかそう言ったことを此方が言える展開に持っていけるはずだ。
あとは適当に共闘して、大虚と浦原商店一行の登場を待つばかり。

・・・と、そんな事を考えているうちに石田が弓を放って駆け出した。
虚の数と自身の状態を鑑みず無鉄砲に突っ込んで行くクラスメイトの背を見送って俺は無意識に呟く。

「滅却師、か。」

誇り高い一族。
虚を殺してしまう、滅却してしまう一族。
ゆえに、死神に滅ぼされた一族。
それプラス、石田雨竜と言う個人が持つ感情が合わさってアイツはこんな無鉄砲な行動をとってしまうのだろう。

一度体験した現実を今も当事者の一人でありながらまるで第三者視点のように感じつつ、そんな自分に気付いて俺は小さく苦笑した。



























現実だからこそ真剣にやってるはずなのに。
しかし、どこかゲームのような感覚が拭い去れない。
不完全な攻略本を読んでプレイするゲームのような。


(07.04.28up)










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