ドン・観音寺のことがあってからコッチ、ずっと奇妙な出来事が続いている。
ルキアの持ってる伝令神機が幾度虚の出現を知らせようとも、俺達が現場に向かった時にはその気配が全くない・というものだ。
彼女は「もしかして機械が壊れたのでは。」と些か心配しているようだが、まぁ『前回』にてその答えを知ってしまった俺としては「ああ、ついに来たか。」くらいの認識でしかなかった。

つまり答えは簡単。
滅却師である石田が本格的に動き出したということ。

俺はその事をルキアに打ち明けるでもなく、伝令神機が電子音を奏でる度に(テスト期間であるにも拘わらず)死神化して町を駆けずり回っていた。
もしかしたら石田が滅却仕損ねた虚が出てくるかも知れないし、それにテスト勉強の方も笑えるくらいスムーズに進んでいたからである。
・・・後者は『前回』を経験したなら当たり前のことだが。


とにかくそんなワケで九割方無駄足を踏んで、それでも一割くらいはきちんと虚を昇華して。
俺達は学生らしく夏休み前の期末考査に挑んだ。












鬱陶しいテストが終わったその日の夜。
またもや伝令神機に指令が入ってルキアと俺は指定された場所へと向かった。
当然そこには虚の姿など無く、俺達は無駄足を踏んでしまう。

「またか・・・」
「そうだな。」

まさかずっと昔に滅んだはずの滅却師の手によって虚が消されているのだとも言えず(だって普通は信じられないだろう)、俺は短くそう返すだけ。
まぁ居るよりは居ない方が良いだろう・と付け足しつつ、近くに転がしてあった体に戻る。
そうして彼女と会話をしていると暗がりの奥から徐々に硬質な足音が近づいて来た。

「こんばんは。黒崎くん。朽木さん。」

静かな落ち着いた声でそう呼ばれるのは何だか久しぶりだった。
『前回』では大虚のことがあって以来、「黒崎!」と小うるさく呼び付けにされていたから。
自然と漏れ出そうになる苦笑をギリギリ身の内で留めて俺は声のした方に振り向く。

「・・・石田。」

相変わらずおかしなカッコしてんなぁ、と思ってしまったのは勿論秘密。
視線の先ではよく映画で見るような神父が着ている服の白いバージョンっぽいのを身に纏ってクラスメイトの石田雨竜が冷たい目で此方を見据えていた。

「黒崎くん、きみは霊が見えるんだよね?」
「・・・・・・。」

その問いに俺は何も返さない。
『前回』なら焦って「そんなこと有るはずない。」と答えていたが、『今回』までそんな態度を取る必要性など全く無いからだ。
案の定、俺が黙っていても石田は特に気にする素振りも見せず世間話の勢いで「新しい虚が来たね。」と囁いた。
ハッとしてルキアが伝令神機の液晶画面を覗く。
すると一瞬遅れてピピッという電子音が発せられた。

「一護、本当に指令が来たぞ!場所は・・・」
「あっちだよ。」

そう言って石田は一方を指差す。

「その程度もわからないで、キミはそれでも死神か?」

嘲りながらそう言って石田は右手を前に出し、弓道とは逆の構えで矢を放った。
放たれた光の矢は遠くの空を漂っていた虚に見事命中してその霊圧を消し飛ばす。
驚愕に見開かれる顔(ルキアは本気、俺は外見上)を視界に収めて石田ははっきりと告げた。

「石田雨竜。滅却師。・・・・・・僕は死神を憎む。」
「何・・・?」
「わからないかい、黒崎一護。こう言ってるんだ。君を憎む・と。」

まるで人を睥睨するかのように。
そう、奴は『今回』も憎たらしい口を叩いてくれた。












―――第一学年 一学期 期末考査上位成績者
順位:1
氏名:黒崎一護
クラス:3
得点:898

・・・惜しい。あと一問だったか。

『今回』における“同級生・石田雨竜”ではなく、“滅却師・石田雨竜”との出会いがあった次の日。
廊下に張り出された成績表を見ながら俺が抱いた感想はそれだった。
『前回』では訳の解らないことにイライラしっぱなしだった俺だが、『今回』はその『前回』に色々と経験しているのでそんな状態に陥るはずもない。
ただ出題される問題をあらかじめ知っていたためにそれ相応の結果を得ることが出来たという、些か裏技的な期末考査の順位をのんびりと眺めていた。

・・・いや。のんびり、と言うのは間違いか。

横ではケイゴが「信じらんねぇ!!!」とオーバーリアクションで騒いでいる。
水色も俺の今回の成績は予想外だったらしく、暴れていると言っても過言では無いケイゴに何の注意も促さない。
まあ確かに今までの俺なら成績上位者として名前が載っても、どうせそれ程高い順位じゃなかったしな・・・。
ケイゴの声をBGMにそんなことを考えてみたりするが、これも現実逃避というやつなのだろうか。(何から逃避しているのかと言えば、もちろん五月蝿過ぎるケイゴへの対処だ。)
だが、いつまでもこんな所で突っ立っている訳にもいかない。
俺は小さな溜息を一つ零して左腕を動かした。

「ぐおっ!?」

左腕が引っ掛けたのは非常に煩くしてくれていたケイゴの首だ。
目標を的確に捉えた腕はイイ感じに相手からカエルが潰れるような声を引き出して騒ぎをストップさせる。

「ほらケイゴ。いつまでもゴチャゴチャ言ってねぇで教室に戻るぞ。・・・水色、お前もそんな顔して突っ立ってんなよ。」
「ちょ、いち。一護、マジで苦し・・・」
「あ、ああ。そうだね。戻ろっか。」

ケイゴのことは綺麗に無視して(さすが水色)、向けられるのはいつもどおりの笑顔。
それからは「すごいね、一護。」なんて賛辞を貰いながら、俺達は教室へと戻った。
水色のリアクションが『前回』と著しく違うのは、やはり上がり過ぎた順位の所為なのか?
・・・ま、だからって何か困ったりする訳でも無いんだが。

ちなみにチャドの順位は『前回』と同じく11位・・・ではなく、俺の所為で12位だった。それでも凄いな、チャド。




教室に戻って帰る準備をした後は、各自解散と言った感じでチャドはバイト、ケイゴは家の用事、水色はデートを理由にさっさと出て行った。(水色の放課後の予定を聞いてケイゴが騒いだのは言わずとも分かることだろう。)
俺はと言えば『今回』も『前回』をなぞるべきなのかどうか迷いつつ、現在、石田の様子を伺っている。
帰宅する石田について行けば強制的に虚との戦闘になってくるだろう。
そしてついて行かなければ何事も無いはず。とりあえず今日の時点では、と言う注釈がつくかも知れないが。
それが判っているのだから普通は石田の後なんかつけずに俺は俺で帰るべきなんだろう。
しかし本当にそれをしてしまって良いのか少々気に掛かっていたりもする。
今日、この後。『前回』と同じことをしなければチャドの力も井上の力も目覚めないのではないか?と思うのだ。
それに尸魂界へ行く時、そうでなくてもルキアが白哉達に連れて行かれる時、石田が何かしらの行動を起こしてくれるかどうかも正直怪しくなってくる。

更に付け加えると、今回の騒動を起こさなければルキアを連れ戻すために尸魂界からの使者が来ないかも知れない・・・と言うことがある。

『前回』における浦原商店での修行中にジン太がぽつりと零していたのを小耳に挟んだテッサイさんが更にぶつぶつと呟いていたのを俺が聞いた(ややこしいな。)程度なのだが、どうやらあの大虚騒動の際に尸魂界から偵察用の小型の機械が送り込まれていたらしい。
当時は俺も「それがどうした。」としか思っていなかったのだが、今考えればあの時にルキアが見つかってしまったのではないだろうか。
となると、『今回』も石田と競い合ってそれから大虚を退治する・・・というイベントを起こさなければ、最終的にルキアの魂魄の中に崩玉を残したままになってしまう。

それだけは駄目だ、と。何故だか解らないが強く思った。
アレは、崩玉は危険なものだ。そんなものをルキアの中に残しておくわけにはいかない、と。藍染から知らされた崩玉に関する知識以上に、強く。
それまでの過程を知っていても、藍染の所為でどれだけルキアに辛い目をさせるのか解っていても、そう直感した。



・・・・・・・・・結局、俺が選んだのは『前回』をなぞること。
と言うことで、教室を出た石田の後を追って俺も鞄を手に取った。



























一護が異常なほど崩玉に危機感を覚えるのは・・・また、いずれ。(随分先のことになりそうだ)


(07.04.28up)










<<  >>