今日は学校を休んでおふくろの墓参りに来ていた。
晴天の下、流れ落ちる汗を拭って6年前のあの日とは正反対の天気に目を細める。 ところで昨夜俺の話を聞いてもらったルキアだが、今日は予め言っておいたので妹達の前に突然現れるなんてことは無い。 頃合を見て姿を見せてくれるだろう。 ・・・あ。親父がテンション上げまくってる。 おー。夏梨ナイスシュート。 ポケットに両手を突っ込んだまま見ていれば、夏梨に坂から蹴り落とされた親父が何やら激しく喚いていた。 そんなこんなで俺達四人はおふくろの墓を掃除したり花を供えたりした後、墓前で手を合わせる。 ついさっきまで煩くしていた親父もこの時ばかりは静かだ。 しばらくそうして、後は毎年通り自由行動。 夏梨と遊子は二人でどこかへ行き、親父もいつの間にかいなくなってた。 俺は一人、おふくろの墓前に立って脇に下ろした両手を握り締める。 ―――今度こそ仇を討つから・・・母ちゃん。 「・・・一護。」 「ルキアか。」 背後からかけられた声に振り返らぬまま返す。 相変わらず霊圧を感じるのは得意じゃなくて、今みたいに意識して無い場合なんかは特にそうだ。 やろうと思えば霊絡を出すことも出来るし、チャドの時のようにきちんと把握することも可能なのだが・・・ 思った以上におふくろへの想いは弱くない・ということらしい。 それは家族なのだから当たり前かもしれないが、そうだとすれば「想い」より「懺悔」が勝っているのか。 いくら悔やんでも悔やみきれない、いくら謝っても許されないことをしたと思う。 ・・・別に、親父に言われた言葉を忘れたわけじゃない。 なんでオマエを責めんのよ? 真咲が死んだのは誰のせいでもねぇよ。 ただ俺の惚れた女は自分のガキを守って死ねる女だった・ってことさ。 ウジウジしてんなよ。悲しみなんてカッコいいモンを背負うにゃ、オメーはまだ若すぎんのよ。 あの言葉に一体どれだけ救われたことか。 でもやっぱり失ったものが大き過ぎたのだ。 ルキアの方に向き直り苦笑を浮かべた。 彼女は一瞬悲しそうな顔をしたが、それもすぐ元に戻って他愛の無い会話を始める。 どうにも表情を取り繕うのが下手らしい。俺は。 こうしてすぐ他人に悟られ、そして要らぬ心配をかけてしまうのだから。 「そういや、コン来てるか?」 「ったりめーだっつーの!なんたってオレは姐さんの一番弟子だぜぇ?」 「コン、後ろで騒ぐな。それともとより貴様を弟子にした覚えは無い。」 「そんなぁ・・・」 姐さんヒドイっス。 そう言ってルキアのリュックから飛び出してきたコンは地面に手を付いて「よよよ・・・」と泣き崩れる。 俺は問答無用でそいつを掴み上げ、ルキアの前に差し出した。 そして、 「ルキア、こいつ義魂丸に戻しといてくれ。なんか嫌な予感がする。」 もちろん本当のところは「予感」ではなく「予定」だ。 もうすぐ俺は死神化しなくてはならない。・・・アイツを、グランドフィッシャーを相手にするために。 俺に掴まれ「離せぇぇえ!!」と叫ぶ、つまるところルキアの目の前で彼女が顔をしかめるくらい騒いでいたコンは、あっさりとヌイグルミから取り出されてしまった。 抜き出した義魂丸を俺の手に乗せながらルキアは肩をすくめる。 「貴様の予感は良く当たるからな。」 「本当はこんな予感、当たって欲しくなんかねーんだけど。」 コンをポケットに入れ、俺も肩をすくめた。 『前回』において、よく覚えていないどころかすっかり忘れてしまっている虚のことも多々あるが、案外しっかり覚えているものも少なくはない。 だから場所や時間が大体分かっている場合は「嫌な予感がする」とか何とか言って、尸魂界からの指令が来る前に現場もしくはその近くまでルキアを連れて行く事があるのだ。 最初のうちは不審がってなかなか応じてくれなかったが、そんな事が二回三回と起こると彼女もすんなり了承してくれるようになった。 そして今回も同じようにして事前に彼女の協力を仰ぐ。 騙しているようで心苦しいが、何の根拠もなく「俺は未来を知っている。虚が出るのは何時で何処だ」なんて言っても信じてもらえるはずが無いので仕方ないと思うことにする。 俺は知っている未来から少しでも良策を捻り出すため、頑張っていくしかないのだ。 ころり・と義魂丸をポケットの中で転がし、胸の内だけで苦笑を漏らした。 |