6月16日、朝。
目覚めはもちろん――― 「・・・最悪。」 いつもみたいに親父に起こされることは無かったが、代わりにヌイグルミ姿のコンから起きろという台詞を貰ってしまった。 『前回』同様、妙に厚みの無いライオンのヌイグルミに入れられたコンは、やはり『前回』同様、とてつもなくウルサイことこの上ない。 俺の呟きを聞いて「最悪ってなんだ!最悪って!あァ!?」と突っかかってくるヤツを軽くあしらい、時刻を確認。 そろそろ水色が迎えに来る時間だったので大慌てで服を脱ぎだした。 ・・・と、ボタンを外しながら自分の胸の中央に目をやる。 そこは特に何があるというわけでもなく、ただ"それなり"な見慣れたものだ。 しかし、どうしても違和感が拭えない。 だって俺は今もあの痛みを、あの悔しさを覚えてる。 ワケもわからず白刃に貫かれ、雨の中で悔しさに慟哭し、鋭い瞳に覚悟を教わり、そして――― ガラッ 「朝っぱらから五月蠅いぞ!落ち着いて更衣もできんではないか!」 押入れの引き戸が開いて制服に身を包んだルキアが顔を出した。 彼女が一人勝手に騒いでいたコンを踏みつけてしまったおかげで、またうるさくなったのを横目で見ながら、コッチはコッチで止まっていた着替えを再開する。 まぁ上半身くらいなら誰に見られようが気にするモンでもないし・と言うことで。 「おにーちゃーん!!」 バタバタと階段を上る音と共に遊子の声。 騒いでいた一人と一匹が急いで押入れの中に隠れたのと同時に廊下へと続くドアが開いた。 「あのねーもう小島くんが・・・」 「うわっマズ。」 既に水色が来てしまったらしい。 とりあえず親父の部屋の窓から「家に上がってもう少し待ってくれ」と頼んでから、先に行くルキアを見送り、とっとと一階へ下りた。 途中、腕時計に表示された日付に顔をしかめながら。 いつも通り学校行って、いつも通り授業受けて。 そして家に帰って来た後、明日に向けての騒がしい家族会議。 明日は6月17日。2度目の6年目。 5年間今まで通りだった墓参りが俺の中でまた別の意味を持った日だ。 ・・・グランドフィッシャー・・・おふくろの仇。 アイツに逃げられ、そして、強くなると誓った日。 俺は今度こそアイツに勝てるのだろうか。 「楽しそうだったな。」 「・・・さっきのか?」 「そうだ。明日は学校サボってピクニックにでも行くのか?」 パジャマに着替えたルキアが楽しそうに言う。 俺はそれに苦笑して「俺が休むんだったらルキアはどうする?」と。 「ふむ。いつ虚が出るとも限らんし・・・私も休むぞ。貴様の傍を離れるわけにはいかんからな。」 「んじゃ、ウチの家族には見つかんねーようにしてくれよ。でないとアイツらうるさいから。」 「ああ、わかった。・・・で、どこへ行くのだ?」 音にすれば"わくわく"といったところだろうか。 そんな感じでルキアが問う。 しかし申し訳ないことに、明日向かう先はそれほど楽しめるような所ではない。 そう。あそこは、 「墓地。俺のおふくろが眠ってる。」 「っ!?」 正確にはそうではないのだけれど。 だって、おふくろの魂は虚に喰われてしまった。 俺の、所為で。 「明日はおふくろの命日なんだ。だから家族揃って墓参りってワケ。」 驚くルキアをそのままに俺は話し続ける。 この際全て吐き出すつもりで。 それに彼女は言ったのだから。 "いつか貴様が話したくなった時、話してもいいと思った時に話してくれ" 「6年前の6月17日。 連日の雨で川の水はけっこう増水してて、そしてその日も雨。なのに川べりには女の子が傘も差さずに一人で立っていて。当時の俺は生きてる人間と死んでる人間の見分けもつかないような状態でさ。 そして俺は、フラリと川べりから落ちた女の子を助けようと一緒に歩いていたおふくろの手を振り払って走り出した。 ――――――それが、虚の罠だとも知らずに。」 「・・・っ」 ルキアが息を呑む。 「その後、何がどうなったのか俺は知らない。でも気づいたらおふくろが血まみれで倒れてた。 ・・・・・・虚に魂を喰われて、死「もういい。」 こちらの言葉を遮り、ルキアが背を向ける。 「もう良いのだ、一護。私は・・・私は、そんな顔をしてまでお前に話して欲しいとは思わん。」 押し殺したような声。 そんなに今の俺の顔は酷いものなのだろうか。 目を閉じ、小さな背中へと呟く。 「ありがとな。」 |