「そ、そうだよ!悪ィかよ!オレは・・・オレは何も殺さねぇんだ!!」

「・・・・・・・・・」

「オレが作られてすぐに尸魂界は改造魂魄の破棄命令を出したんだ・・・
そして次の日にはもう俺は死ぬ日付が決まってた!
オレはあの丸薬の中で毎日怯えてたよ。まわりの仲間が一日ごとに減っていくのを見ながら。
運良く他の丸薬に紛れて倉庫から抜け出せた後もいつか見つかって破棄されるんじゃないかとビクビクしてた。
・・・ビクビクしてる最中ずっと考えてた。命なんて他人が勝手に奪っていいモンじゃねぇんだ・って。」

コンがこちらを振り向く。

「こうして生まれてきたんだよ!自由に生きて自由に死ぬ権利ぐらいあるハズじゃねぇか!!」

二度目のこの台詞。
やはり、わかっていても人間の身勝手さを思い知らされるような気がする。

「虫だろーが人間だろーがオレたちだって・・・同じだ・・・。だからオレは殺さねぇ・・・何も、殺さねぇんだ・・・!」


しかし、コンがそう言ったところでそんな気分とは正反対の気の抜けた声が掛けられた。

「おーやおや。やーっと見つけたと思ったらボロボロじゃないスか。
こりゃ用意した道具、ほとんどムダになっちゃったっスねぇ・・・」

左手に杖・・・に擬態した紅姫を持ち、黒の羽織をなびかせて俺とコンの間に割って入ったのは浦原さんだ。
俺の方には見向きもせず、浦原さんはコンへと視線を向ける。


「・・・あ・・・」


コンは目を見開き、声を引きつらせる。
まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。
そして、俺もその感覚を知っている。圧倒的な強者に向けられる視線の威力を。

あの目に睨まれた勉強会での体験を思い出し、スッと背筋が冷える。
普段のおちゃらけた態度からは全く想像できないそれは、たぶん一生忘れる事が出来ないのでは無いだろうか。

斬魄刀の柄を人知れず強く握りなおし・・・・・・と、コンの傷に目を留め、俺はそこでふと思った。
このままコンが取り出され俺が中に入ってから傷を治癒するより、このままコンを入れた状態で傷を治して、それから俺が戻った方がが痛くなくて良くないか?と。それに治療してからコンを取り出してそのまま行けば・・・
ということで即実行に移す。
まずはコンへと突き出された浦原さんの杖を止めることから。



ぱしっ
「ちょっと待ってくれ。」

もしかして間に合わないかとも思ったが、難なく杖を掴んで止める事が出来た。
浦原さんがこちらを向く。

帽子の陰から見える双眸には・・・驚き?

記憶にあるものより僅かばかり大きく見開かれた瞳。
それに映っていたのは驚きの感情のように見て取れる。

そして、浦原さんの口が音もなくある単語を紡いだ。


瞬歩・・・


声に出して発音される事は無かったが確かに「瞬歩」と口が動いた。
どうやら戻ってきたのが精神だけでも体はそれなりに動いてくれるらしい。

俺は掴んでいた杖をそのままに口を開いた。

「コイツに手ぇだすの、ちょっと待ってくれねぇか?」

そして、ルキアのほうを向き、彼女を呼ぶ。

「ルキア!まずはコイツの怪我、治してくれ!」
「はっ!?・・・あ、ああ。」


突然話しかけられルキアは一瞬戸惑うが、すぐさまこちらに駆けつけてくれる。
そして傷ついたコンへと手を伸ばし、治癒のための言霊を唱えた。

服は破れ、こびりついた血もそのままだったが、しばらくして傷が完全に塞がった。
それを確認し、次に俺は魂魄を抜くグローブを出してくれるよう彼女に頼む。
受け取ったグローブを右手に装着し、そうして俺は勢いよくコンの頭に右手を突き出した。

あるか無いかの抵抗感と共に、手には飴玉のような義魂丸。
ぐらりと力を失って倒れる体を左手で支えてコンクリートの上にゆっくり寝かす。
そして俺は丸薬の形になったコンをルキアに預けると自分の体に戻った。


「っと・・・」

腹筋の力で背を起こし、俺は立ち上がる。
それから唖然とする浦原商店の店員達をよそにルキアに声をかけた。


「ルキア。んじゃ、帰るぜ。」
「・・・わかった。」

「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」


彼らに背を向けて去ろうとした俺達に浦原さんから制止の声が。(やっぱこのままスルーしてはもらえないか。)
それに向き直り、俺は何も返さなかったが横でルキアが「なんだ?」と浦原さんを見た。


「それは元々破棄するハズの物なんスよ。ですから此方に渡していただけませんか。」
「何だ?浦原。貴様の店は客に売った商品を金も返さずに渡せというのか?」
「そ・・・そんじゃ仕方ない。金を・・・」
「必要ない。こちらはこの商品で満足している。・・・それに、」

とそこまで言って、ルキアがフッと笑みを浮かべる。

「元々が霊法の外で動いている貴様らだ。そうまでしてこいつを回収する義理もなかろう?」
「・・・知りませんよ?面倒なことになったら、あたしら姿くらましますからね。」
「心配するな。最近は面倒にも慣れた。」

言って、ルキアは踵を返す。

「行くぞ、一護。・・・・・・ああ。それから、浦原。今回の騒動の後処理、間違った商品を売りつけた貴様らの責任ということで早急に何とかしておくように。」

浦原さんに背を向けたまま、ルキア。
随分と高飛車な物言いは彼女の出身ゆえか?

ちらっと思って後ろを盗み見れば、苦虫を噛み潰したような浦原さんの顔。
謝罪と感謝の意味を込め、彼にこっそり頭だけでお辞儀をして俺もルキアの後を追った。



























あー長かった(浦原さん登場まで)
でもまだまだ浦一には遠いね・・・


(06.01.23up)










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