そろそろ井上が虚に襲われる時期になった。

『前回』は俺のあまりの不慣れっぷり(死神になったばかりだから当たり前なのだが)にルキアがどこからともなくピッチングマシーン持ってきてコショウ入りボールの100本ノックなんぞさせられたが、『今回』は何の問題もなく虚を昇華させているのでそういうことは起こらないはず。

ここで少しばかり悩んだのが"井上が虚に狙われていることをどうやってルキアに気づかせるか"ということ。
結局は井上の兄貴が俺んトコに現れるからそれで何とかなるんだろうけど、やはり用心させておくに越した事はない。

あとは虚になった井上の兄貴をどうするか・ってことだが・・・これは『前回』と同じようにした方がいいんじゃねーかと思う。 たつきにも井上にも少しばかり痛い思いをさせてしまうが、やっぱり家族だってことを井上の兄貴にもわかってもらいたいから。
妹の気持ちも知らないまま尸魂界に送るなんてことはしたくない。
ということで、俺は今回の件についてひと芝居打つことに決めた。

ちなみにルキアが俺の部屋の押入れに住んでいる事は、少し前に偶然を装って押入れを開けたのでその時から知っていることになっている。
確かその時に「翡翠のエルミタージュ」とか言う恐怖マンガを読んでいたはずだ。
・・・あんな暗い所で目とか悪くなんねーのかな。死神って。















最近、井上には怪我が多い。
井上の兄貴は三年前に死んでいる。

そのことをポツリと漏らすと案の定ルキアの顔色が変わった。
これで一応彼女に用心させる事は出来たと思う。
そんでもって、今さっき風呂上りに遊子からワンピースとパジャマがなくなったのだが知らないかと訊かれたので、たぶんもうすぐルキアに指令が届くはず。
・・・と思っていたら押入れの中からあの電子音が聞こえてきた。
―――来たか!


「一護っ!!」

押入れの引き戸を開けてルキアが切羽詰った顔つきを見せる。

「指令だ!今すぐ死神化するぞ!」
「虚か!?場所は!?」

立ち上がる俺に向かってルキアがグローブをはめた手を伸ばす。

「時間も場所も・・・今、ここだ!!」


死神化して頭をルキアの右手に捕らえられたまま勢いに乗って後方へ。
俺がベッドの上から離れるのと同時、枕を破って巨大な手が現れた。
いや、違う。
枕を突き破ったのではなく、枕が存在していた空間を突き破って手が出てきたのだ。

後ろに引いた状態でその様子を見ながら斬魄刀を構える。
前方では空間にヒビが入ってそこから右腕、そして頭部と続いて現れていた。
ここは倒さず、退散させるだけで・・・
そう念じながら大口を開けて襲い掛かってきた相手に向かい、俺は剣を振り下ろした。

仮面のみを斬った幾分軽めの感触。
その後に虚の雄たけびが響く。
剥がれた仮面の後に見えるのは、やっぱり井上の兄貴。
理性のないギラついた瞳でこちらを一瞥してから彼は空間のひび割れへと身を滑らせ、消えた。


「追うぞ!!」
「ちょっと待て!」

走り出すルキアに向かって叫ぶ。
すると彼女は振り返り俺の顔を見てからスッと目を伏せた。

「今の・・・井上の兄貴だった。」
「ああ。虚というのは全て、元は普通の人間の魂だったものだからな。」
「それじゃあ、俺が今まで斬って来たのは人間だったってことか?」
「・・・そうとも言える。だが、お前は虚を『殺して』はいない。」
「・・・・・・」
「ただ、この世に迷ってしまった彼らを尸魂界へ送っているだけなのだから。斬魄刀で罪を洗い流して・な。」

・・・あれ?確かそんな感じの台詞は井上の兄貴が自分から斬魄刀に刺された後じゃなかったけ?


「・・・そうか。で、虚は?」

その台詞にルキアが顔を上げる。

「虚は肉親を襲う・・・あの女が危ない。」
「井上が!?」


こくりと頷いた彼女を背負い、そうして俺は部屋を飛び出した。















着いた先にいたのは左肩から血を流し気絶しているたつき。
そして胸から鎖を生やして目を見開く井上と、彼女を潰そうと右手を伸ばす虚だった。
『前回』と同様。
分かっていながらもそのままにしたことに軽く唇を噛むが、構わず俺は出来るだけ記憶に忠実に『前回』を繰り返した。















「・・・お兄ちゃん・・・いってらっしゃい・・・」

井上の微笑みとその言葉に井上の兄貴―――昊さんが優しげな笑顔で消えて、逝く。
傷は癒したといえども破れ血がついたままの彼女の服、未だ気を失ったままのたつき。
そしてボロボロになったこの部屋で俺は自分の行いに対して覚えた罪悪感に苛まれながら、それでも二人の様子に幾らか救われたような気がした。

弱ェな・・・
自分に抱く感想はそんなもの。
額から流れてくる血を拭うフリをして俺はいつも以上にしかめた眉を隠した。

ザアッと風が吹き、昊さんだった破片が天へと舞い上がる。
その光景を指の間から見つめ、手を下げて井上の方に向き直った。


「傷は?」
「あ、うん。もう殆ど・・・それより黒崎くん!あたし色々ききたいことが・・・」

ボン!
あ、記憶置換された。

100円ライター型の記換神機を擦ったルキアと気絶した井上を見比べて内心でポツリ。
何も言わずにいればそのままたつきにも記憶置換するルキア。

でも今回のって、あんまり上手く置換されてなかったんじゃなかったけ?
今思えばたつきも井上もなんだか『忘れた』って感じではなかったはず。
・・・ま、いっか。







さて、次はチャドのインコの件だよな。
俺が初めて虚を『地獄』に送った―――・・・



























原作通りのものは省略省略〜(笑)


(06.01.23up)










<<  >>