最初、その十字路に着いた時には何の変哲もないただの十字路だった。
車が一台も通っていなかったために「わー不気味ィ」などと面白がって言うことはあったが、ただそれだけで。 しかし、さぁやろうと声をそろえて「死にたい」と言ってしまった時、全てが変わった。 まず、何の予兆もなく六人いたうちの一人が吹き飛んだ。 「キャーーー!!!」 少年が壁に激しく体を打ち付けて沈黙。 近くにいた少女からは悲鳴があがった。 残った五人の背に嫌な汗が流れ、足が恐怖ですくみだす。 そして暗がりから現れたのは体に見合わぬ巨大な手を持った女・・・ 「何っ・・・だよ、これ・・・」 「い・・・いやぁ・・・」 脳は逃げろと指令を送るのに体が動いてくれない。 立ちすくんで恐怖に歪ませている彼らの顔を現れた女がぎょろりと眺め回した。 「うれしいわぁ・・・こんなに顔があるなんて・・・・・・さぁ、どの顔にしようかしらぁ・・・」 ウフフと童女のように笑う顔は醜く、人間の生理的嫌悪感しか煽らない。 のそりと近づいてくる女。 そして女はその巨大な手を伸ばし、一人の少女の顔に触れさせた。 「・・・ヒッ!」 「この娘にしようかねぇ・・・?でも隣の娘も捨てがたい・・・・・・嗚呼うれしやうれしや。」 ざらりざらりと荒れた指で少女の顔を撫でる。 しかし、突然の銃声。 それと共に女の額の真ん中に赤い花が咲いた。 少女の顔から指が離れ、女はそのままグシャリと嫌な音を立ててアスファルトに倒れこむ。 ジャリッ 靴底がアスファルトを噛む音。 背後から聞こえたそれに五人は振り返った。 立っていたのは自分達と同じ年頃の・・・少年? この辺りでは見慣れぬ灰色の学生服に身を包んだ、目にも鮮やかなオレンジ色の髪の人物である。 「テメーがこの辺りで噂の“カオハギ”か・・・ やっぱりと言うか何と言うか、テメーも現世に未練タラタラな動く死体・・・『屍』かよ。」 無骨な鉄の塊を右手に持ち、倒れこんだ女に照準を合わせたまま、その人物は足を動かす。 そしてついに、街灯に照らされて陰になっていた顔があらわになった。 「・・・・・・・・・一護?」 ポツリと漏らされたのは立っている五人の少年少女達の一人、有沢竜貴という少女の口からだった。 小さな小さな呼びかけに少年が視線を向ける。 「あれ?もしかしてたつき?・・・中学校ぶり。」 「なっ!なんでアンタがこんなトコに!?それよりも何なのよその格好!アンタ・・・アンタ・・・」 叫びだした竜貴の言葉に繋げるように、一護と呼ばれた少年は微笑む。 「死んだはずだよ。高校に上がってすぐ・・・三ヶ月前に。お前も葬式に来てくれただろ?」 ―――死体はなかったけど。 「そ、そうよ!アンタが・・・アンタの家族が殺された・・・って・・・ なのに・・・何なの!?アンタ・・・こんな所で立ってて・・・・・・どうして・・・」 「おや?一護サンのお知り合いっスか?」 竜貴の台詞を遮るように一護の後ろの暗がりから一人の男が現れた。 くすんだ金色の髪を持ち法衣に身を包んだその男は、そうして一護の隣に並ぶ。 一護は視線を五人の学生達―――否、その後ろの『屍』と呼ばれた女に向けたまま「中学まで一緒だった幼馴染だ」とだけ。 それを聞くと男は「そうですか」と返し、そのあと一護より一歩前に出てニコリと顔に笑みを乗せた。 「アタシは浦原喜助と言います。・・・さて皆サン。こんな時間にキミ達のような学生だけでこんな所にいるのは誉められたことではありませんが、それを叱る権利をアタシは持っていない。 しかしながらここは危険だということ、それくらいは理解されてますよね?ですので、これから皆サンには別の安全な所に行っていただきます。・・・何かご質問は?」 ―――嗚呼、そこで倒れている子はアタシが背負って行きますから。 そう言った浦原と名乗る男に不信感はある。 しかし先程から地面に横たわって赤い花を咲かせている女の傍にいるのは危険だと告げてくる本能に従って、少年少女達はそろそろと歩き出す。 「浦原、そんじゃ頼むな。」 「はい。一護サンもお気をつけて。」 気を失っている少年を背負い、浦原が一護の傍を離れようとした。 しかしその時――― 「・・・・・・させない・・・」 「ちっ・・・起きやがったか!」 舌打ちし、一護は銃を構える。 「あんまり一般人に見せてもいいモンじゃねーんだけどなっ!」 その台詞に続くのは銃声。 「お前らさっさと逃げろ!早くっ!」 「一護!?」 「たつき!お前も早く行け!」 銃声の合間に一護が叫ぶ。 「でも・・・・・・っうわ!?」 「・・・っ!」 「これでもう撃てまい?・・・『屍姫』」 ヒヒヒと笑う女―――カオハギ。 その手に竜貴を捕らえて。 |