子供が目覚めたのはあれから3日後だった。


「・・・っ、う。」
「おはよう。黒崎一護クン。」
「アンタ・・・」

ニコニコと微笑むボクを見て子供が目を見開く。

「随分寝てたね。もう3日も経ってるよ?」

そう言ってボクはクスリと笑うが、逆に子供の顔は真っ青になった。

「どうしたの?」
「家に連絡してねぇ・・・」

なんだ、そんなことか。

「それなら大丈夫。テッサイがちゃんとキミんちに連絡入れてたから。」
「そっか。」

ほっとしたような様子の子供。
でも、これでまたボクのあいまいな記憶が僅かばかり確かなものになった。
だってこの子供の様子、いかにもよくここに泊ってましたってものでしょ?
つまりボクとはそれ相応のことをやっちゃってる間柄だったって言えるんじゃないかな。

クスクスと笑うボクを見て子供が眉間の皺を深くした。

ああ、そんなことしちゃうとせっかくの可愛い顔が台無しだ。

「何?」
「アンタ・・・まだ記憶戻ってねぇのか?」
「うん。そうだよ。」

さらっと返せば子供は「そう」と俯いてしまった。

そんなに前のボクが良かったのかい?

思わず口に出しそうになって慌てて口を閉じる。
代わりに枕もとの水差しからコップに水を注ぎ、彼に渡してやった。

「はい、水。喉渇いてるだろう?」

差し出されたコップにチラリと目をやってから、子供はくぐもった声で「いらない。」とだけ返す。

「嘘。」
「嘘じゃねぇ!」

叫んで、子供の振るった手がぱしりとボクの手に当たった。
丁度持っていたコップが弾き飛ばされ、ボクと布団と畳に水が飛び散る。

「あーあ。やっちゃった。」
「ご、ごめ・・・」

淡々と言ったボクに子供が顔を上げて謝罪の言葉を口にするが、視線が合うとそれは止まった。
きっと今のボクは残酷で酷く冷たい目でもしているんだろう。
だって、これから遊ぶ気満々だからね。

「うらは・・・」
「何?」
「それはこっちが、」
―――訊きてぇよ。

焦る子供にボクはクスリと笑う。
濡れた羽織を脱ぎ捨てて、ボクは殊更ゆっくりと子供に迫った。

「なに怖がってるの?」
「なにも怖くなんか・・・!」
「嘘だね。ほら、こんなに震えてる。」

言ってその頬に手を伸ばした。
視線をそらさぬままカチカチと子供の歯が奏でる音に笑いを漏らし、そうして色を含んだ声で囁く。

「大丈夫。記憶がなくたって上手いから。」
「っ!?」

おや。この反応・・・
この子供、もしかしてボクが何をしようとしているのか分っていなかった?
なんというか・・・鈍い。

苦笑するボクに子供は真っ赤になって咆える。

「触るなっ!いきなりなに盛ってンだよっ!?」
「盛ってなんかいないよ?これからちょっとばかり遊ぶだけだ。」

暴れる子供を無理矢理押さえつけボクはそう告げた。
途端、動きの止まる子供。

「・・・え?」

その隙に羽織で手早く子供の両手を縛り上げ、ボクはその耳元に顔を近づけ囁いた。

「だってキミはボクのおもちゃなんだよ?」

おもちゃに盛るわけないじゃない。






















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