浦原が去ったあと、俺は虚の気配を感じ立ち上がった。
素早く死神化し、斬月を背負ったまま窓から飛び出る。
しばらく移動して立ち止まれば、前方にもう見慣れたとも言えなくも無い仮面を被った巨体。
俺の垂れ流し状態な霊圧を感じ取ったらしく、振り返ってこちらに顔を向けている。
周囲の様子を探れば被害はまだ出ていないらしい。
俺はそのことにほっと一息ついてから、虚を見据えて剣を構えた。

自覚は出来ている。今の俺は“心が弱った状態”だ。
魂魄である今だからこそ、その影響はあまりにも大きい。
少しでも気を抜けば死神の力も一気に最低まで落ちてしまうだろう。

しっかりと気を持て。相手は雑魚一匹。
すぐにアチラへ送ってやれる。

「いくぜっ!」

そう言って俺は駆け出した。







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ボクが遠目で確認したその時、丁度あの子供が虚に向かって駆け出した。
鍔も柄も無い刃だけの大刀を振りかざしてまっすぐと突き進む。

「速さは・・・まあまあってところかな。」

言ってる内に子供が飛び上がって虚に切りかかった。
太刀筋も悪くは無いだろう。
まだまだ未熟だが、あれは鍛えれば鍛えるほど化けるに違いない。

「って、鍛えてたのはボクか。剣の師弟、らしいからね。」

自分の言ったことに笑ってボクはひょいと屋根を飛び移った。
再び立ち止まったそこは丁度あの子供と虚を一直線で結んだ線上で、こちらからは虚の背が見える。
つまり子供の顔が正面からはっきり見えるわけで。

「あ、動揺した。」

瞬間、目が合って、子供はビクリと肩を強張らせた。
両目はこちらを捉えたままで大きく見開かれている。

「・・・動かないと死ぬよ?」

相手は雑魚だといってもやはり虚だ。
巨大な体躯。それぞれが固有に持つ能力。
気を抜いてやっていい存在ではない。
だけど彼は、地に根が張ったかのようにじっとそこを動かなかった。







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気づかなければ良かった。
虚の向こう側、そこに見慣れた人物。
深緑の上下に黒の羽織。下駄を履いた金髪の男。

「うそ、だ・・・」

どうしてアンタがここにいる。
どうして“浦原”みたいなことをしてるんだ。

体が固まって言うことを聞かない。
俺は剣を構えたまま、虚を通り過ぎて、ただじっとその男を見ていた。
男もこちらを見ている。
帽子は無いのに常よりもっと感情の見えない瞳。

頼むからその目で見ないでくれ。
記憶を失ったアンタは俺の知ってる“浦原”ではないけど、それでもやっぱり浦原喜助なんだ・・・!


「だから・・・」

そのあとの言葉は続かなかった。
虚の右手で弾き飛ばされ、俺の体が宙に浮き上がる。
重力にしたがって落ちる前に、上から振り下ろされた左手で加速をつけたまま足場にしていた屋根に激突。

「かはっ!」

軽くバウンドし、そしてうずくまる。

・・・とんだ馬鹿野郎だ、俺は。
今は虚と戦ってたんじゃねぇのかよ。何、別の事に気をとられてんだ。

ギシリと奥歯をかみ締め、なんとか立ち上がろうとする。
けれど今の攻撃でかなりヤバいことになっちまったらしい。
斬月を握る手に力が入らねぇ・・・

「・・・く・・・そ。」

気を失う直前に見えたのは黒い羽織とその手に握られた刃だった。






















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