浦原商店から走って帰ってきた俺はそのまま自分の部屋に向かい、
あがった息をおさめつつ、混乱した頭を何とか落ち着かせようとした。
けれど、あそこであった事や教えられた事を頭の中で繰り返すたび、どうしても自分が嫌になって仕方なくて。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・・・・ッ、くそっ!」

ダンッ!と大きな音を立てて壁を殴りつける。
そのまま壁に背を預けてズルズルと床に座り込み、膝を抱えて顔を伏せた。

「最低だ・・・俺は。」

記憶喪失になった浦原を前に俺は何をして何を思った?
拒絶されたくない・と拒絶してばかりじゃなかったか?
しかも自分達だって辛いだろう人達に心配させ、
挙句の果てには図星を指されて勝手にキレて怒鳴って出てきてしまった。

最低。
最低だ。
最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・助けて。

心臓が痛いんだ。

助けて・・・くれ。


「・・・・・・浦原っ・・・!」




「お呼びで?」
「っ!?」

ありえない声に驚いて俺は顔を上げた。
ちょうどベッドが真下にある窓、そこに足をかけている時代遅れな格好の男―――

「うら、はら・・・?」

本当に?
幻じゃなくて?

「なに幽霊でも見たような顔してるの?・・・て、ボクはもう死人か。
それより、今、ボクの名前呼んだよね?どうしたの?」

いつもみたいに窓から現れたけど、口調は違っている。
記憶は戻っていないみたいだ。
まぁ、俺が出て行ってから数十分で戻るなんてそれこそありえないことだけど。
でもここに来てくれたのが・・・どうしよう。すごく、嬉しい。
記憶は戻っていないから、恋人を追いかけてきた・なんてわけでもないのに。
本当にタイミングが良いんだか悪いんだか。

「なんで、アンタがここに居るんだ?」
「来ちゃダメだった?」
「そ、そんなこと・・・ないけど。」
「よかった。謝りに行けって五月蝿かったからねぇ。あの三人。」
―――ここで帰れって言われると困るんだよ。


・・・・・・・・・わかってる。
浦原がこういう事を言うのは、ただ浦原が偶発的な事故で記憶喪失になったからで。
だからこう言われるのはしょうがない事で。
だけど―――・・・



・・・あぁ。
胸が張り裂けそうだって、こんな時に使うのかなぁ?



俺は再び俯き、ぎゅっと唇を噛み締めた。
声が震えたりしないように慎重に言葉を紡ぐ。

「・・・そう。でもアンタが謝ることなんか一つもねぇぜ?全部俺が勝手だっただけだし。」

涙が零れていないことを確認して俺は顔を上げた。
一瞬浦原がハッとしたような気がしたけど、光の加減でそう見えただけかもしれない。
今は帽子をかぶっていないから。

「だからさ、アンタがここに居る必要はねぇんだ。悪かったな。わざわざ来てもらっちまって。」
「なぁんだ。じゃ、ボクは帰らせて頂きますかね。
・・・・・・あぁそうだ。キミ、たまにはウチにもお出でなさいな。結局、話とかちゃんと聞けてなかったし。」
「・・・あぁ。」

耐えられる・・・かな?今度顔を合わせた時は。
そう思いつつ、俺は笑った。
もう一度浦原がハッとしたように見えたのは、きっと気のせい。
都合のいい、俺の幻。






















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