4



一番隊の詰所に向かう途中、一護は良く知った女性を見かけた。
黒髪金眼に褐色の肌のその女性は傍らに小柄な少女を連れて外の景色を眺めながらゆっくりと歩いている。


「あ、夜一さーん!」
「おお、一護。これから総隊長のところへ?」
「うん。夜一さんは?」
「儂は刑軍へ行ってきたところじゃ。」
「そっか。夜一さんは軍団長に復帰したんだっけ?確か。」
「そう・・「ああーーー!!!」

夜一が「そうじゃ」と答えようとした時、その傍らに居た少女―――砕蜂が一護の横に居る人物に気づいて
大声を上げた。

「そ、砕蜂!?」

いきなりのことに夜一が少女の名を呼ぶ。
砕蜂はそれでも一護の横から視線をはずさない。かなり憎しみのこもった瞳でその人物を睨みつけている。


「オイ、お前この人になんかやったのか?」

その視線を受ける人物に向かって、一護は半眼で問いかけた。

「さぁ・・・特にこれと言ったことは・・・」

困ったように笑う男に一護は溜息をつく。
すると、その男の言葉に砕蜂の頭の中では何かが切れる音がした。
男を指差して砕蜂が叫ぶ。

「浦原喜助!!貴様の・・・貴様のせいで!!
貴様が永久追放なんぞにならなければ夜一様も尸魂界を去る必要など無かったのに!!」
「・・・ああ!夜一さんの下に就いてた子ですか。」

砕蜂の激情をするりとかわし、浦原はやっと気づいたように手を打ち鳴らした。
怒りでふるふると震えている砕蜂の頭に夜一が手をのせる。

「これ砕蜂。それはもう済んだ事だ。儂はこの通り戻ってきたのだから良しとしようではないか。な?」
「しかし夜一様・・・!」
「砕蜂。」
「・・・はい。」

夜一に言われ、砕蜂が大人しくなる。
それから浦原に向かって軽く頭を下げた。

「も、申し訳ありませんでした。」
「いえいえ。まぁ夜一さんを巻き込んでしまったアタシが悪いのは当然ですから。」
「まったくだ。砕蜂さんは悪くねぇだろ。悪いのは全部お前だな。」

一護がウンウンと頷く。

「そ、そんなぁ・・・アタシが永久追放になってなかったら、今頃黒崎サンと出会えてませんよ?」
「それが?」
「黒崎サンったらヒドイっ!愛が感じられないっスよ!?」
「だ・か・ら!さっきから恥ずかしい事言うのはやめろって言ってんだろうが!!」

一護の肘鉄が浦原の横腹にクリーンヒット。

「愛が痛いっ!!」

浦原は横腹を押さえて蹲った。

「え、えーと・・・」

それを見て、夜一は笑い、砕蜂は言葉を無くしている。
一護はそんな二人の女性に向き直り笑顔を作った。

「本日から十四番隊隊長になります、黒崎一護です。どうぞよろしくお願いします。」
「黒崎サン・・・そんな可愛い顔他人に見せちゃだ・・「うるせぇ」

復活しかけた浦原を一護が笑顔のまま沈める。

「私は二番隊隊長の砕蜂と申します・・・よ、よろしくお願いします。」

冷や汗を流しながら砕蜂が一護と握手を交わした。
夜一は腹を押さえて笑っていた。



















5



一護達が角を曲がると、中々に見た目が人間離れしている人物と出会った。


「マユリ様?」

その人物の後ろに控えていた女性が疑問を乗せて名を呼ぶ。
呼ばれた人物――涅マユリは一護の鮮やかなオレンジ色の髪に目を留めた後、
その横に居た男――浦原を見てはっとしていた。

「もしかして貴方は・・・」

そう言ったマユリを見て、一護は浦原に顔を向ける。

「知り合いか?」
「・・・存じませんが。」

浦原が「はて・・・?」と首をひねった。

「わかりませんか?涅ですヨ、局長。」
「え・・・涅君?・・・・・・随分と変わったねぇ・・・いろいろと。」

マユリに対し苦笑いをして、それから浦原は一護に向き直った。

「黒崎サン。コチラ、涅マユリ君。
アタシが技術開発局で局長をやってた時に副局長をやってたヒトですよ。・・・アノ頃とは随分姿が変わりましたが。」
「へ、へぇ・・・」

マユリの容姿を見て、一護が嫌な汗を流した。

さらに浦原は再びマユリの方に向き直って一護を手で示しつつニコリと微笑む。

「涅君。もうご存知とは思いますが、コチラ、黒崎一護サン。
今日から十四番隊の・・・そしてアタシの隊長になるお人っスよ。」
「誰がテメーのだ。誰が。」

浦原の横で一護が突っ込むが、誰も気にせず見事にスルーされる。

マユリが浦原の言葉に「そうですか」と返し、
それまでずっと黙って後ろに控えていた女性を呼んで自分の横に並ばせた。

「この子は私の娘のネム。局長が此方にいらっしゃった時にはまだ作っていませんでしたけどネ。」

浦原がネムに視線を向ける。
その顔は知人に紹介された人物を見る顔ではなく、どちらかと言うと研究者のそれに近い。

「へぇ・・・中々上手く出来てるみたいっスね。」
「局長にはまだ遠く及びませんヨ。」

そうして元局長と現局長は何やら専門的な会話を繰り広げだした。
その話の内容に特に興味があるわけでもないので一護は暇そうに欠伸を一つ。
それから静かに立っていたネムと目が合い、何となく世間話を始める。

と、一護は自分達に行く場所があったことを思い出した。

「おい、浦原。」
「はい、何でしょう?」

振り返った浦原に一護は溜息をつく。

「何でしょうじゃねーだろ。総隊長のところに・・・」
「あ、そうでしたね。あの、でももう少し・・・今良い所なんスよ。」

技術者としてもう少し話していたいと言う浦原に一護の眉間のしわが深くなる。
自分も話し込んでいないでさっさとコイツを引っ張って行けばよかったと。
そう思いつつ、一護はくるりと浦原に背を向け、一人で歩き出した。

「そんじゃ俺、先に行っとくから。」

と言い残して。

言われた浦原は慌てて「く、黒崎サン!?」と一護を呼ぶ。
しかし「お前はゆっくりしといていいぜ〜」と言って、一護は振り返らない。

「えっ・・・ちょ。涅君、今回はこれで。
・・・黒崎サン!待ってください!アタシも行きますから!置いて行かないでくださいよ!」

そう言って、浦原が涅親子のもとを去る。

「黒崎サン!一人で行っちゃダメですって!変なのに襲われますよ!黒崎サンったら可愛すぎるから!!」
「誰がじゃ!っつーかカワイイとか言うな!」

一護にはたかれつつもヘラヘラと笑っている浦原を見てマユリがポツリと零した。

「・・・局長こそ随分と変わられましたネ。それこそ、私なんか比べ物にならないくらいに。」






















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