十二番隊の隊長は“冷たい太陽”だ。 技術開発局の局長は“凍える焔”だ。 そんな風に言われ始めたのは、もう随分前から。 夢の残滓4
浦原喜助が永久追放になったあと、一護は技術開発局局長と十二番隊隊長に就任した。
幼い頃から浦原の元にいた一護にはそれだけの実力があった。 しかし、変わったのは役職だけではない。 「阿近、今日の予定は?」 額に角のある阿近という男を側近につけた一護は、あの日からその身に纏う雰囲気がガラリと変わってしまった。 姿形は少しも変わらぬはずなのに、甘さが無くなり鋭さが目立つようになった顔つき。 琥珀色の瞳は深みを増し、目が合うだけで飲み込まれそうな錯覚を覚えるほど。 しかし、時折遠くを見据えるその姿は実に儚げで美しいものだった。 廊下を進みながら副官である阿近は答える。 「いえ、特には。いつも通り隊舎にて待機、ついでに印の必要な書類がいくつか。」 「そう。」 一護が薄く笑う。 「最近、局の方はどう?涅はまた勝手なこと始めてるんだろ?」 近頃は特に用も無く、あまり近寄らなかった技術開発局。 そこの部下の一人を思い出し、一護は同局の局員でもある阿近を見た。 「さぁ。なにやら娘を造っているそうですが。」 「娘?」 「ええ。ネム、というらしいですよ。」 「親に似なきゃいいけどねぇ。」 「否定はしませんが。」 肩をすくめる阿近の答えを聞いて一護は可笑しそうに目を細めた。 隊舎内。 阿近が自分の分の書類を片付けていると、同じく仕事をしていた一護がふと顔を上げ呟いた。 「隠密機動か。」 「・・・隊長?」 どうかなさいましたか?と阿近が口を開こうとすると、突然、扉の外から声がかかった。 「黒崎隊長に緊急連絡!現世にて大虚の出現を確認! 現世に下り、速やかに対処せよ!なお、従者の有無・人数は自由とのことです!」 「なっ!?」 阿近が驚いて席を立つ。 「それは王属特務の仕事だろう!!それを・・・」 「いいよ、阿近。俺、行くから。」 阿近のセリフを一護が静かに遮った。 そして扉の向こうにいる隠密機動に声をかける。 「了解。現世へは俺一人で行くと伝えてくれ。」 「承知!」 扉の向こうの気配が消えた。 阿近は呆気にとられて一護を見る。 「本気ですか?」 「ああ。俺一人で行く。お前は此処に残っていろ。」 そう言い、一護が隊舎を出る。 「何を仰るのですか!俺も行きます!同行の許可を!!」 阿近がはっとしてそれを追い、一護を引き止めた。 腕を掴まれた一護は阿近の方に振り返り、告げる。 「俺一人で十分だ。」 「しかし!相手はメノスです!!やはり貴方一人では・・・」 阿近は次の言葉を吐けなかった。 「大丈夫。」 戦闘前にも関わらずその表情は穏やか。 琥珀色の瞳に揺らぎは無く、静かに佇んでいた。 阿近は掴んでいた腕を放す。 「後は頼んだぞ。」 「・・・はい。」 阿近は十二と書かれたその白い背を見送った。 |