「愛してるんですよ、あなたを。きっと」 愛? 「きっとだけどね、アタシは君を好きなんだと思う」 好き? 「いい年こいて恋してるなんて、自分でも馬鹿だなあって思うけど」 恋? わざとすれちがう 「…ばっかみてぇ」 「黒崎サン?」 「…くっ、ははは! あんた本当によく言えるな、惚れた腫れただの、愛だの恋だの。 馬鹿じゃねえの?」 「……どうして馬鹿なんです?」 腹を抱えて笑った。 対して浦原は静かに俺に聞いてくる。 「目に見えもしねえ、口だけで簡単に言えちまう感情なんて俺は嫌いだね。愛や恋は声 色や顔つきでいくらでもどうとでも見せられるからな。そんなものを億尾も出さず口に 出せるアンタに拍手だ。俺が偉いさんの立場にあったら間違いなく名誉賞もんだぜ」 「そうですね…そうかもしれません。…でも、そうじゃないかもしれない」 「何が言いてえのかよくわかんねえな」 はあ、と一息ついて、ようやく笑いが収まってきたころには、浦原の口端は緩くつり あがっていた。 「愛は目に見えないからこその愛。目に見えたら愛なんかじゃない。恋だってそう。目 に見えたらスゴイ。目に見えたらツマラナイ。目に見えないから楽しいレンアイの駆け 引きができる。そう思いません?」 穏やかに笑んだまま何気なく淡々と、一般人が聞いたら「ヒドイ!」と言いそうな内 容を口にしている。 「俺はレンアイノカケヒキとやらはしなくていい。そんなくだらないことに時間を割い てる暇があったら勉強でもしてたほうが増し」 「まあそうおっしゃらずに」 「そうおっしゃらせろ」 「あらあら」 懐から無地の扇子を取り出して、それを開いてぱたぱたと己を扇いでいる浦原。 |