「隊長に殺されるなら、いいですよ」 にへら、と笑って、浦原は事も無げにそう言った。 一護が鬼道で瞼を治した頃には、息があったはずの死神たちは、誰一人として命の光を持っていなかった。 隊長室の椅子に座って、その机の前に立つ浦原を、一護は睨んだ。 「・・・・・・・その前に、ちゃんと説明しろ」 「はぁ」 「アイツらは何だったんだ?」 「・・・・・・・・汚い仕事は、アタシらみたいな連中がやってるんですよ」 誰か、表沙汰に始末できない死神や、存在。 それを消す仕事。 「アタシら、って・・・」 「・・・・アタシも同じことしてましたから」 その台詞は、一護に少なからずショックを与えた。 それは、つまり。 「・・・・お前も、俺を殺そうと・・・?」 「・・・・・・・・・・今回来た仕事の内容は、そうでした」 「じゃあ・・・!」 「けど出来なかった」 声を大きくした一護に対して、浦原はどこまでも静かに言う。 静かなのに、一言一言が、一護を捕らえる。 「アタシは、隊長だけは殺すつもりは無かった。だから逆に、仕事を言い渡してきた奴を殺した」 一護の脳裏に、弓を放ってきた男が映った。 「・・・・・・なんで・・・・」 「・・・何度も言ってるじゃないっスか。アタシが刀を振るうのは、アナタの為だけだ、って」 その相手をどうして殺せと? 聞き返されても、一護に答えを探すことはできなかった。 返答よりも疑問が多すぎて、追いつかない。 「・・・じゃあさ、俺の所に来た殺人鬼退治の仕事って・・・」 「アイツらがアナタを誘き出す為に作ったでまかせですね。差出人がそうだった」 「・・・・・・・・・普通の名前だったぞ?」 「見る者が見れば判るんですよ」 肩を竦めて、浦原が言った。 一護が長々と溜息を吐く。 一度目を閉じて、ゆっくり、ゆっくり開いた。 「・・・・・浦原、最後の質問だ」 「・・・・・・・はい」 これで最後。 浦原は落ち着いてそこに立っていた。 副隊長として表に立った、自分の短いけれど、それなりに楽しめた仮初の日々。 一護の言葉を受け入れる覚悟は出来ていた。 そのはずが。 「つまり、お前がいつも夜に出かけていたのは・・・・・・・・・その仕事の為だったんだよな?」 一体何の話だ。 「・・・・・・・ハイ?」 「だ、だから!・・・・女とか言ってたのって、嘘なんだろ!?」 ああ、そう言えばそんなことも言ったかもしれない。 一護の代えになるような存在などいるはずが無いではないか。 「はぁ・・・・まあ、そうっスけど・・・」 「よし」 よし? 満足そうに頷くと、一護は笑顔を取り戻した。 「それならいいんだ」 いい、って。 何がいいんだ。 上機嫌になって、目の前で笑っている子供。 さっぱりワカラナイ。 「あの、隊長?」 「なんだよ」 「アタシはこの後どうすれば?」 「どうもこうも、今まで通りでいいだろ」 今まで通り。 「これからはちゃんと命令聞けよ、副隊長」 唖然として、浦原は一護を見た。 予想以上に大物で、こんなことではびびらない。 「・・・・いいんですか?」 「何がだよ?」 「アタシの素性がばれたら、隊長にも責任が掛かるかもしれないんスよ?」 これだけ言えばさすがに怯むだろう。 そう思って、言った。 しかし一護は怯む様子もなく、悩む様子もなく答えた。 「・・・それなら俺も共犯者ってことでいいんじゃねえの?」 共犯者。 アナタと一緒なら、それはなんて甘美に響くのだろう。 「・・・・・隊長、」 「ん?なんだよ」 「キスしてもいいですか?」 「ふざけ・・・っ!?」 顔を上げた一護の唇を、一瞬だけ掠め取る。 すぐに離して、口をぱくつかせる一護の表情を楽しむ。 「お、おま、今、触っ・・・・!」 口が回らない一護は、動揺して自分でも何を言っているのか理解できない。 浦原は楽しそうに笑って、もう一度顔を近づける。 「・・・これからは少しだけ本気で行かせてもらいます」 近づいた顔に危険を感じて、一護が椅子ごと壁まで吹き飛ぶように下がった。 「ほ・・・本気なんか出すな!本気出すなら仕事にしろ!命令だ!」 「アタシが命令破りなことは知ってるでしょう?」 「ぶっ殺す!」 「ええ!結局殺すんですか!?」 大げさに反応する浦原に、一護は割れたコップの変わりに新しく用意されたコップを投げつけた。 浦原が、いつもの通り受け取る。 受け取りながら、思い出したように言った。 「・・・・あ、そういえば、もう一つ謝らなきゃいけないことが」 「なんだよ」 「黒崎隊長に来てた虚退治の任務、実は全部アタシがやっちゃいました」 「はぁっ!?」 わなわなと怒りに震える一護に、浦原は悪びれた様子もなく言う。 「てっめ・・・本格的に殴られたいらしいな」 怒りのオーラを前面に押し出す一護に、浦原は当然のことだ、と、さらりと言った。 「仕方ないでしょう?隊長が怪我したらアタシが嫌なんです」 ああムカつく。 やっぱりこんな副隊長クビにしてしまえばよかった。 あのにやけた面を思いっきり殴り飛ばしたい。 けど近づいたらまた何をされるかわからない。 一護は思っていることが全て顔に出るから、それが浦原には楽しくて仕方ない。 例えば、今、少し赤くなった頬とか。 「・・・隊長、大好きですよ」 「俺はお前なんか大っ嫌いだ!」 チクショウ。 こんな奴になんか、落とされてなるものか。 絶対絶対、コイツの罠には嵌らねえ。 自分にまじないをかけるように、一護は繰り返し呟いた。 |