「おーおー、浮かれちゃってまあ・・・」
あっと言う間に週末が過ぎ、やって参りました月曜日。文系の四回生あたりならまだしも理系の、しかも一回生である俺達が平日に大学を休めるはずもなく、一時限目からみっちり詰まった講義にうんざりとしつつ講義室に入った俺は、先に席に着いてにこにこと愛想を振り撒いている友人を眺めてぽつりと呟いた。 友人こと古泉一樹はそのツラの良さを前面に押し出していつも以上に人好きのする笑みを浮かべている。会話にひと段落付いたらしく、古泉の傍を離れる女子達とすれ違ったが・・・いやいやお嬢さん方、あいつは貴女(達)に気があるからあんな風に幸せそうなオーラを漂わせているわけじゃないんですよ?いや、確かにお宅らはそんじょそこらの同性よりも可愛らしい顔してますけどね。 苦笑を噛み殺して呟く。勿論心の中だけでな。 っと、古泉がこちらに気付いたようだ。にへら、とだらしない――のだが、他の奴らから見ると優しげで格好良い笑顔なんだそうな――ニヤケ顔を見せて軽く手を振ってくる。俺もちょいと片手を上げてそれに応えつつ、隣の席に着いた。 「おはようございます。」 「はよっす。」 ここで「お前今日機嫌良いな?」なんて訊くのはご法度だ。そんなことしてみろ・・・ほら、女子達は気付いていないようだったが(もしくはただのアクセサリーとして見ていたのか)、古泉の指には先週まで無かった物がひっそりと輝いている。もし機嫌の良さを問いかけたりしたら、奴の左手薬指を指摘するのと全く同じ理由でデレッデレな惚気が返って来るに違いない。断言出来る。なんたってこの指輪がどういう理由で古泉の指に嵌っているのか、高校三年の時に古泉の暴露を聞いてしまった俺には思わず頬がヒクつくほど解っているのだから。 しかしまあ、こんなに(少々苛立つほど)幸せそうな親友殿に、事情を知る者としてはやはり一言くらい言ってやるべきなのだろうか。 数分後に「解ってたはずなのになんでやっちまうかな俺!?」と後悔の嵐に苛まれる予感を脳裏でひしひしと感じつつも、ぶっちゃけ血迷った俺は机にペンとノートを出しながら小さな声で話しかけた。 「・・・なあ、古泉。」 「はい?」 にっこり笑って応える古泉。 ああホント、いい顔してるよまったく。 「オメデトサン。」 あの人と末永くお幸せにな!(ただし俺に迷惑かけるなよ!!) |