知っ 1






「なんかもう飽きちゃったかも。」
 あたしの呟きを聞いてSOS団の団員達が一斉にこちらを向く。
 その表情は三者三様――この場合は四者四様かしら――で、有希はいつもの無表情、みくるちゃんは少し戸惑っているようで、古泉くんは微笑を浮かべながらも内心かなり焦っているみたい。キョンはいかにも面倒臭そうに目を半開きのまま、けれども口元はどこか面白がるように小さな弧を描いていた。
 前三人の反応はそれぞれの肩書きを考えれば当然のことよね。だってあたしがこの状況に飽きたと言うことは、ね?
「どうなさったのですか涼宮さん。パソコンに飽きられたのでしたら、これから下校して不思議探索にでも・・・。平日だからこそ不思議なものも油断しているかもしれませんからね。」
 キョンとのオセロ対決を中断して古泉くんが笑顔のまま提案してくる。でもその仮面に僅かな綻びがあるってことは古泉くん自身、そんなことを言いながらもちゃんと気付いているんでしょ?あたしがパソコンもしくは部室でダラダラしていることに飽きたんじゃなくて、この世界そのものに飽きちゃったってことを。
 あたしは古泉くんの提案には応えず、視線を動かしてキョンを見た。そして、キョン一人だけに告げる。
「飽きたんだけど、これからどうすればいいと思う?」
 みんなの視線がキョンに向いた。
 常とは違う感情を滲ませたそれらを受けてもキョンは平然とした態度を崩さない。その所為で三人の感情が更に不安定になる。
 あたしが古泉くんを無視してまでキョンに話しかけたのはキョンがあたしの『鍵』だから?・・・ううん、違う。だってキョンは鍵じゃないもの。
 三人はあたしが無自覚に不思議な力を振るっていて、そんなあたしに最も強い影響を与えられるキョンのことを鍵だって言ってるみたいだけど、そもそもその前提から間違っているのよね。あたしは、あたしの力のことを知っている。そしてキョンもそのことを知っているのよ。あたしに最も強い影響を与えるのは確かにキョンだけど、だからこそキョンはあたしの鍵なんかじゃない。あたしは力を内包した鍵つきの箱ではなく、自分で考え自分で力を振るうことが出来る存在。そしてキョンは―――。
「じゃあ、また今度も改変すりゃあいい。」
 さらり、とあたしの"共犯者"が言った。
 正面に座っていた古泉くんは絶句し、みくるちゃんは両手で口を覆う。有希もどことなく目を見開いているみたい。
 不謹慎にもちょっと楽しいとか思っちゃった。でもみんなゴメンね。キョンが改変にGOサインを出してくれたから、あたしはもう一度世界をやり直すことにする。
 ねぇキョン。今度は中学時代からやり直してみない?あたし、中学生のあんたに会ってみたいわ。
「どうせ俺は性格も記憶も今のままだし、珍しいものなんかないだろう?」
「いいじゃない。あたしはただ、今よりも身長が低いはずのあんたを見てみたいのよ。」
 腰に手を当てて笑みを作れば、キョンが呆れたように溜息を一つ吐いて、どうぞご自由に、と微苦笑した。
 じゃあこれで決まりね。今度は高校まで待たないで中学の制服を着たままキョンの学校に突撃してあげるわ。(あと、あたしが勉強見てあげるから佐々木って子と塾に行くのはやめてよね。)
 まさかあたしが自分の力を自覚しているなんて、しかもそれをキョンも知っていたなんて今までずっと気付けずにいて、この展開に付いて来れていない宇宙人・未来人・超能力者の三人はもうそのままにしておきましょうか。だって今からどんなに慌てたって状況は覆せないのだから。あたしとキョン以外はね。
 それでは。
「キョン、またね。」
「ああ、またな。」
 とりあえず、あたしの奇天烈っぷりが十分噂になっている中二の四月あたりから始めてみましょうか。








一度やってみたかった、『共犯者』なハルヒ&キョン。
キョンは(一応)一般人・・・のつもりですが、神と一般人どちらでもお好きな方で。

(2007.11.06up  2007.11.14 短編から連載へ移動。)



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