「この間、流魂街で子供拾ってさぁ。」
「へー。」
「今、ウチに住まわせてるんだけど・・・」
「それはそれは。」

と言う事で、ディ・ロイの隣に座る青年は先日めでたく未婚の父になったらしい。

(いや、別にめでたくはないか。)







wirepuller α (知り合いが父親になった日)







左手にティーカップ。右手にガトーショコラ。
先日の注文通りブランデーたっぷりの焼き菓子を頬張り、仮面の下でディ・ロイの顔が緩む。
一体何処から仕入れてきたのか知らないが、一護が持って来てくれたケーキはかなりの高得点だった。

「美味いねコレ。どこのヤツ?」
「俺が作った。ンな馬鹿みてぇに酒入れた菓子なんて普通売ってねぇからな。」
「それもそうか。・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、ええ!?君お菓子作れたのっ!?」
「反応遅っ!しかも言ってる事かなり失礼だし!!」

わざとらしく驚けばわざとらしくツッコミが入る。
それが面白くてディ・ロイは声を上げて笑った。

「つーか俺の話聴いてる?」
「聞いてます聞いてます。君がおとーさんになったって話だよね。」
「誰がお父さんだ。誰が。」

青年が半眼になってそう呻るものだから、ディ・ロイはまたククッと肩を震わせる。
その様子に一護は小さく溜息をついて「養子縁組は無し。アイツは黒崎の姓にはしねぇよ。」と零した。

トーンの下がった呟きにディ・ロイはふと仮面から覗く片目を眇める。
一護が子供に己の姓を名乗らせないのは、下賤の輩に高貴な黒崎の姓は相応しくない、と思っているからか。・・・それとも黒崎を名乗ることでその子供に青年の背負った業による被害が及ぶのを恐れたためか。

(まぁ十中八九後者なんだろうけど。・・・ホント、呆れるくらいお人好し。)
―――死神にしとくには勿体無いね。

そう胸中で呟いて、ディ・ロイは青年の内側から感じる微かな同胞の匂いにクスリと笑みを漏らした。

「・・・?何だよ。」
「ううん。別に。」

ところでその拾ってきた子供の名前って何だったっけ?と話題を振れば、此方の笑みに対して不審そうな顔をしていた一護はディ・ロイ本人に答える気が無いと知って、追求を諦めてくれたらしい。

「惣右介って名乗ってた。」

そう答えてから「姓は無いそうだ。」と付け足す。

「なら新しいの考えて付けてあげれば良いのに。」
「良いのが思い浮かばねーからパス。それに無くても俺は困らない。」
「なんとも自己中心的なご意見だねぇ。」
「お前に言われたくねぇよ。」

ディ・ロイ自身それを自覚しているだけに、一護の言葉に対する反論は皆無。
苦く笑って紅茶のカップに口を付けた。



















「うわっ、ちょ。これ甘っ!砂糖入れ過ぎだよ!」
「そうか?こんなモンだろ?」
(なにこの甘党大王!信じらんない!)








尸魂界に洋菓子・・・?とか考えてはいけません。
全ては妄想なのです。(或いは「黒崎家の財力ゆえに」でも可。)

(2006.09.15up)