「お前、虚か?」
「そう言う君は死神?」

出会いはまぁ、そんな感じ。







wirepuller α (Yes, I'm a hollow.)







それが偶然なのか必然なのか、彼らにとっては別にどうでも良いこと。
ディ・ロイは趣味の散歩(in尸魂界)をしていただけで、黒崎一護は所謂仕事帰り(寄り道含む)と言うやつだった。

胸に空いた穴。白い外殻に体の表面ほぼ全てを覆われながらも、その一部は剥がれ、深緑の瞳を片方だけ覗かせているディ・ロイ。
黒ではなく上下を白で統一し、腰に差した斬魄刀だけが漆黒。 王属特務特務長の肩書きを持つ一護。

つまるところ、それは虚と死神の邂逅であり、瞬時に戦いへと発展すべきものだったのだが・・・。




「なぁんか、そんな気起きなかったんだよねぇ。」

出会った当時を思い出し、ディ・ロイは小さく笑う。

目の前にはさして大きくもない湖。周りは森と林の中間のよう。
探査神経を使わずとも自分“達”の周囲には誰もいないことくらい解っていた。
此処はそういう『穴場』だから。

ずずっと湯飲みに入った緑茶を啜り、ほっと一息ついたディ・ロイに横から穏やかな笑い声が届く。

「いきなり何だよ。しかも茶の飲み方がジジくせぇ。」
「ジジくさいってのは言い過ぎでしょ。って言うか、それならむしろ緑茶と煎餅をチョイスしてきた君の方がジジくさいんじゃない?」
「しょーがねぇだろ。今日のはウチの部下の余りなんだから。」

じゃあジジくさいのはその部下さん達か、とディ・ロイが結論づければ、隣に腰を下ろしていた青年がクスクスと可笑しそうに肩を震わせて「アイツらには言えねぇな。」と呟いた。

この青年の名前は黒崎一護と言う。けれどディ・ロイがその名を口にしたことは一度も無い。
それは一護も同様で、ディ・ロイが彼から名前で呼ばれた経験は全く無かった。
相手を呼ぶだけならば「ねぇ」「なぁ」「ちょっと」「そっち」「君」「お前」、そんな単語で事足りるからだ。


「・・・で、何の話だったんだ?」

軌道修正し、ディ・ロイの最初の独り言に関して首を傾げる一護。
彼の動作と共にオレンジ色の髪がパサリと揺れるのを視界に入れながら、ディ・ロイは「俺達が初めて出会った時の事だよ。」と告げる。

「普通有り得ないでしょ。胸に穴も空いていて、どう見たって虚なのに『お前、虚か?』って訊いてくるし。」
「そこで攻撃も逃走もせずに『そう言う君は死神?』って問い返す虚も珍しいと思うけどな。」
「・・・お互い様か。」
「お互い様だ。」
―――現にこうして人目に付かない所でお茶してるんだし。

そう付け加えた青年に同意を返してディ・ロイは再び笑みを零した。
本当に有り得ないことが有り得ている。
死神と虚が殺し合いもせず、それどころか穏やかに会話までしているなど。

「何か波長でも合ってんのかねぇ・・・」
「そうかも。」

今まで誰も側に寄せ付けなかった孤高の死神と、無限の闇が広がる虚圏で数少ない同胞――ヴァストローデ級大虚のことだ――に会うことも無く一人で時を過ごしてきた虚。
その身に宿す“異端さ”も相俟って、きっと相手に自分と同じ何かを感じ取っているのだろう。
知り合い以上、友人未満。けれど同胞や仲間とカテゴライズされる者達よりも何処かもっとずっと近い所にいる。
ディ・ロイも、そしておそらく一護も、それを無意識に理解していた。






「仕事もあるし、俺そろそろ行くわ。」

小さな秘密のお茶会を終えて一護が立ち上がる。
それを座ったまま見上げるようにし、ディ・ロイは「うん。またね。」といつも通りの言葉を返した。
しかし今日は少し違って、白い背中が姿を消す前にディ・ロイは一護にニッコリと微笑みかける。

「次はケーキが良い。洋酒をいっぱい利かせたやつね。」
「はぁ?ンな無茶言うなよ・・・って、ハイハイ。わかりました。だからそんな目で見るなっつの。」

諦めたように、仕様が無いなァというように。
琥珀の双眸が苦笑するのを確認して、ディ・ロイは「よろしく!」と嬉しそうに笑った。








遠い昔に出会っていた二人。

(2006.09.15up)