グリムジョーとギリアン級破面五体の計六名が藍染様の命令無しに現世へ降りたという事を聞き、俺は様子を見にその後を追った。

普通ならそんな事などしようとも思わない。
…けれど聞いてしまったから。
その中にディ・ロイも含まれていると聞いてしまったから、俺は面倒を承知で現世に降りたのだ。

そして、其処で目にしたのは…。



「アレはどうした。」

隣にはアイツが残した人形。
そして視線の先では天へと伸びる氷柱が涼やかな音を立てて崩れ去っていく。
その砕け行く氷柱の中央に封じられているのは貧相な体をした一体の破面で、俺は隣の人形と瓜二つなそれから視線を逸らさぬままそう問い掛けた。

「あれ？…あぁ、あの氷漬けになっちゃった奴のこと？」

彼はクスリと小さく笑ってこちらを見上げる。
氷柱は完全に砕け散り、同時に閉じ込められていた方の人形から発せられていた霊圧も呆気なく途切れた。
それでも笑みを崩さずに彼は続ける。

「アレはあの人の第一作目。…兼、失敗作。」
―――だからちょっと暴走気味。

仕様がなさげにそう付け足し、説明を終える。

「そうか。」

短くともそれで充分。
アイツではない彼が自分と同じ人形を駆っていたことに納得し、俺はそれ以上聞くことなく呟いた。

だが、いくら失敗作と言えども周囲に知らせる様な状況でディ・ロイの姿をしたモノを壊すなど…。
今や『ディ・ロイ』となった彼はどう言うつもりでそうしたのか。
まさか“知らせる”のが目的だと、そう言うことなのだろうか。



未だ方々で霊圧のぶつかり合いが起こっているのを感じながら、もうそれも長くはないと悟る。
だからと言って何かをする訳でもない。
…それは俺にとってどうでも良い事だから。

アイツがいないのに他の者が生きていたって仕方ない。
アイツ以外どうなろうと構わないのだ。
それが例えアイツが大切にしていた者でも。



「これでディ・ロイは死ぬ。あの人の死を皆が理解する。」

塵一つも残らず消えてしまった人形を見やって彼は淡々と告げる。
その声で再び意識をこちらに戻し、俺は視線を向けることなく問うた。

「お前がディ・ロイになったのではなかったのか？」

だがその台詞に対して返されたのは嘲笑。

「まさか。…俺も失敗作、不良品だよ。あの人と同じなワケない。」

自らを不良品と称す彼はまるでその事を誇る様に…とはいかずとも、恥じることなど少しもなく続ける。

「俺はあの人じゃない。だからこそ出来る事がある。」
「それはどういう…」

意味を問う言葉は中断された。
破面三体分の霊圧がついに消えたのだ。
ほぼ同時刻にシャウロン、ナキーム…そして、イールフォルトの霊圧が。

嗚呼、そう言う事か。
それなら俺も同罪だな。

すくっと立ち上がった人形の姿を視界の中央に納めた。
彼はクスリと笑い、イールフォルトがいた筈の場所へと視線を向ける。

「あの人が執着していたモノをあの人と同じ所に送ってあげるんだ。」
―――そうすれば一人じゃなくなるだろ？

助けられた筈なのに助けなかった。
解っていたのに無視をした。
彼はアイツのために。
そして俺は…どうでも良かったから。



「ウルキオラはこんな俺の事、狂ってると思う？」

アイツにそっくりな調子で彼はこちらを伺う。

「ああ、狂ってるな。」
「即答かぁ…」

迷うこと無く返せば、彼が苦笑を浮かべた。
だが口元に弧を描いたままスッと目を眇めて俺を見る。

「それを黙認してるウルキオラも大概狂ってるよ。」

やはりアイツが残したこの人形は察しがいい。

「…そうだな。」

僅かに間を置いて俺は肯定を返した。
自ら認めた事に驚いたのか、彼は先刻よりもほんの少しだけ大きく目を見開く。
そしてすぐ、愉しそうに笑った。

「やっぱり。」

それはまるでディ・ロイの様で。
錯覚だと理解しながら俺も笑みを浮かべた。狂った笑みを。

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走り出した狂気。誰にも止められないし、そして止める気もない。

(2006.07.22up)