「アレはどうした。」
「あれ?…あぁ、あの氷漬けになっちゃった奴のこと?」

視線の先では天へと伸びる氷柱が涼やかな音を立てて崩れ去る。
それと共に砕け散ったのは俺と同じ姿の『人形』。
隣に立つウルキオラの横顔を見上げ、俺は小さな笑みを作った。

「アレはあの人の第一作目。…兼、失敗作。」
―――だからちょっと暴走気味。

そう付け足せば、あとは興味を失った様にウルキオラは「そうか」と呟いた。

他の連中には無理だけれどウルキオラには“あの人”とその人形の見分けがきちんとついているらしい。
だからこそ、あの人でもない、つまり人形を作れる筈のない俺がそれを駆っていることに不審を感じたのだろう。
実際はただ、あの人が廃棄もせずに打ち棄てていた『一体目』を俺が勝手に使っただけなのだが。

「これでディ・ロイは死ぬ。そしてあの人の死を皆が理解する。」
「お前がディ・ロイになったのではなかったのか?」

その台詞に俺は嘲笑で返した。

「まさか。…俺も失敗作、不良品だよ。あの人と同じなワケない。」

それに俺はあの人の存在をこうして殺してしまった。
傍にいてあげて・と言われたにも関わらず。…でも、これでいい。

「俺はあの人じゃない。だからこそ出来る事がある。」
「それはどういう…」

すくっと立ち上がってそう告げた俺にウルキオラはここで初めて顔を向けた。
言葉が途切れたのは“彼”の霊圧が消えた所為?
クスリと笑い、俺は一瞬で霊圧が感じられなくなった場所へと視線を向ける。
嗚呼、これで大丈夫。

「あの人が執着していたモノをあの人と同じ所に送ってあげるんだ。」
―――そうすれば一人じゃなくなるだろ?

助けるくらいなら俺でも出来た筈なのに、逝くのをそのまま見送った理由。
…これだけで充分じゃないか。

「ウルキオラはこんな俺の事、狂ってると思う?」
「ああ、狂ってるな。」
「即答かぁ…」

迷うこと無く返された肯定に苦笑。
けれどその通りだから俺は笑うだけ。
…ただし。

「それを黙認してるウルキオラも大概狂ってるよ。」

何がこの破面を繋ぎ留めているのか知らないけれど、それが無ければ自ら消滅してしまいそうな存在。
ねぇ、アナタは俺より狂ってるんじゃないの?



「…そうだな。」

僅かな沈黙の後、肯定はまたもはっきりと返された。

「やっぱり。」

そして俺は…俺達は、笑みを浮かべた。狂った笑みを。















俺の唯一へ。
貴方の大切な人は貴方の元へ届きましたか?








そして狂気は加速していく。

(2006.07.17up)



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