「お城勤めってのは多いようで限られた情報しか入って来ないから難儀だよねえ」
これでは耳が早く情報量も多い己の妻と話が合わせられない。ただそれだけの理由でライラの聖騎士―――岸谷新羅は、情報収集のため本日も下町へと足を向けていた。 彼の妻こと聖剣の巫女であるセルティ・ストゥルルソン(正式には新羅と結婚したのでセルティ・S・岸谷)は日中、神殿で多くの人々の話を耳にしている。そのため彼女は下手をすると城の役人達よりも多く、また早く、この国で起こった出来事を知る立場にあった。 新羅としては色々な話をセルティから聞かされるというのも然程悪くないと思う。しかしある時、セルティ本人が一方的に話すよりも互いに意見を交換できる方が好きだと言った瞬間、自称愛妻家にしてセルティ信者でもある新羅は己の態度を改めた。よろしい。ならば情報収集だ、と。 そんな訳で下町へと続く石畳をテクテク歩いていた新羅だったが、ズボンのポケットに入れていた小さな水晶玉が熱を帯びたのに気付いて足を止めた。 「……セルティ?」 これは新羅が妻であるセルティに持たされた一品だ。明確な言葉などを伝える事はできないが、ある程度離れていても対の水晶玉を持つ相手に己の意志を伝える事ができる。そして新羅が取り出した水晶の色は赤。急ぎの用があるシルシだ。 「わかった。今すぐ帰るよ」 直接声が伝わるはずもなかったが、それでも新羅は短く告げて先刻までとは別方向へと足を向けた。この時間帯なら、セルティが居るのは神殿ではなく自分達の自宅のはずである。 「……」 滅多に現れない赤い色に若干の不安を覚えながら新羅は帰路を急いだ。 『急に連絡してすまない』 「いやいや、セルティからの連絡なら大歓迎だよ! それで一体何があったんだい?」 誰もペンを走らせていない羊皮紙にすらすらと現れる文字を読んで新羅は普段よりも落ち着いた声音を出した。 その羊皮紙を新羅に差し出すのはシンプルなデザインの黒いドレスを身に纏った女性。黒で浮かび上がったシルエットは非常に均整の取れたものだったが、彼女は首から上をすっぽりと同色のヴェールで覆っており、表情どころか髪の色すら窺う事はできない。 彼女こそが聖騎士・岸谷新羅の妻にして聖剣の巫女、セルティ・ストゥルルソン・岸谷だった。 セルティは自分が持つ羊皮紙を軽くひと撫でし、それを再び新羅に見せる。紙に記された文字は口の利けない彼女の『声』だ。新羅はそれを素早く読み取ると「夜の森の魔王……?」と単語の一つを鸚鵡返しに告げた。 こくりとセルティが頷き、再び羊皮紙を撫でる。 『夜の森はお前も知っているだろう。この国からそう離れていない場所だからな。そこに先日、一人の狩人が迷い込んだんだ』 「それで、その狩人とやらは無事だったのかい?」 新羅が心配そうに告げるが、それは名も知らぬ狩人を思っての事ではない。狩人を心配するであろうセルティの心情を慮ったが故だ。 『ああ。その男本人は無事だ。多少疲れているようではあったがな』 狩人本人は今日の午後、セルティが勤める神殿に現れて事の次第を報告したのだと言う。 どうやら先日から狩りに出かけたその男は昨日帰宅するはずだったのに、誤って魔物の住処である夜の森に迷い込んで動くに動けなかったらしい。だがそれが本日、一応無事な姿で帰ってきた。一体どうして無事に帰る事ができたのか、それを本人の口から語られたセルティは我が耳を疑った。 『あの森に人間の子供がいたそうだ』 「食べられずに?」 『ああ。だが狩人の話によると、その子は両手両足を鎖で繋がれ、酷く痩せ細っていたらしい。しかも何か仕事を命じられているようで、狩人に森の出方を教えても自分はそうしなかったとか』 いたいけな子供が魔物に奴隷としてこき使われている。その事にセルティは心を痛めているのか。 新羅はそう思ったが、ふと己の妻を見つめると、彼女の中に渦巻く感情が同情や悲しみだけでない事に気付く。 「セルティ……君、怒ってる?」 言葉にされなくとも愛しい相手の事だ。彼女の空気が少しピリピリしているのが肌で感じられた。だがセルティの怒りの矛先は子供を使役している魔物―――ではないように思える。いや、勿論優しい彼女は魔物にも怒りを抱いているだろうが、それだけではないのだ。 新羅が問いかけるとセルティはしばらく沈黙を保ち、果たして再び羊皮紙を撫でた。 『私がこの話を聞いて詳細を調べた時には、もう多くの国民が何かしらの噂を耳に入れていた。断片的ではあるが、な。それでも彼らの怒りや同情を集めるには充分だろう』 「……となると」 妻の言いたい事が解り、新羅はクイと眼鏡の位置を直す。 「あの狸ジジイ……民衆を煽って討伐隊を組ませる気だね」 脳裏に描くのは少し前にチェスをした壮年の男―――この国の王の顔だ。 異常な速さで広がる噂、全く布かれない箝口令、そして城勤めだというのにギリギリまで新羅の耳に入らなかった情報。そんな事ができてしまうのはこの国の王だけだ。きっと聖騎士のくせして魔物討伐等には滅多に参加しない新羅を、民衆の力で無理矢理出させる算段なのだろう。 『囚われているという子供は心配だし、その子を助けるために新羅が力を揮ってくれないかと私も思う。だがやり方が好きじゃない』 「そうだね、こんなやり方はちょっと彼らしくないし……」 王との付き合いもそれなりにある新羅としては、彼が何か焦っているようにも思われた。民衆を煽って半ば強引に、できるだけ早く、対魔王用に聖騎士を含めた討伐隊を組もうとしているのは。 彼ならもうちょっと新羅(というよりセルティ)の不興を買わないよう行動する事もできたはずだ。 「私が出るって事は本格的に魔王討伐でもするつもりか……。でも今までかの魔王がこの国に直接被害をもたらした事はない。となると一体何が目的なんだ? あの人は」 かの王はこれまで国に尽くし国のために生きてきたような男だった。だから彼がいきなり国にとって不利益になる事はしないだろうと思う。しかし今更になって夜の森の魔王をどうにかしようと動き出したのは――― 「まあ、彼の性格を考えれば何となく解るような気もするけどね」 新羅は小さく呟き、ひとまず動き出してしまった魔王討伐の流れに乗る事に決めた。勿論それは己が愛するセルティにとって不利益にならない事が前提であるのだが。 □■□ (これが、赤林さんの言ってた『青を使った絵』……) 陽が落ち、黄金の月が天に輝く時間帯。館の二階にあるあの部屋で、帝人は一枚の絵が徐々にできあがっていく姿を見つめていた。 大きなキャンバスの前には月色の髪と瞳を持つ夜の森の魔王。だが『魔王』という言葉から人々が想像する姿とはかけ離れた静寂を纏って、かの魔物はキャンバスに色を重ね続ける。 静雄が絵を描く際に使うのは筆でも専用のナイフでもない。彼は己の指先に色料を着け、それをキャンバスに走らせていた。 黒と、緑と、そして帝人が採ってきた花から抽出された青。 それらを使って描かれる幻想的な世界に、帝人は息を吐く事すら躊躇われる。自分が身じろぎ一つするだけでこの世界を壊してしまうのではないかと。けれども部屋を去るという選択肢もまた帝人の頭には無く、痩せ細った身体をなるべく動かさないように気を付けながらじっと静雄と彼の絵を視界の中央に納め続けた。 どれくらいの時間が経っただろうか。 ふ、と静雄が息を吐き、描く手を止めた。 「……完成、ですか?」 「いや。まだだ」 今でも充分美しい絵は、それでもまだ未完成らしい。 これが完成した時には一体どれ程の美しさを備える事になるのだろう。帝人は想像を膨らませながら、振り返った静雄の月色の双眸を見返した。 「楽しみ、です」 「お前が取ってきた色料だからな」 「静雄さんの絵だから、ですよ」 今まで得られなかった色をついに使えるようになったからなのか。静雄は今までで一番饒舌に帝人と会話を続けてくれる。それが嬉しくて帝人の胸は今にも幸福で溢れ返りそうだ。 「ところで―――」 静雄が何か問いかけようとしたため、帝人はことりと小首を傾げた。 「なんですか?」 そう言って窺った静雄の視線は、帝人の顔ではなく手足に向けられている。正確に言えば手首と足首を交互に眺めていた。 「この手枷と足枷ですか?」 「邪魔じゃねえのか」 ぽつりと落とされた疑問に帝人は「そうですねぇ」と呟く。 今よりももっと小さかった頃、あの屋敷に連れて来られるのと同時に着けられたらしい鉄の枷は、ずっと帝人の耳にジャラジャラという音を流し続けてきた。昔からこうなので、今更うるさいだとか手足が使いにくいだとかは思わない。けれども。 (これの所為で静雄さんが作る静寂を壊すのは、ヤだなぁ) そう思う。 それに静雄に食べてもらう時、こんな鉄屑がくっついたままでは美味しくないだろう。 よって帝人は静雄の質問に対し、さらりと答えた。 「邪魔ですね」 「そうか」 だったら、と言って静雄が帝人に手を伸ばす。 すると、 「あっ……」 先程まで繊細な動きで絵を描いていたその指は、ただ触れるだけで帝人を縛り続けてきた枷をバラバラに砕いてしまった。 手足の太さがあまり大きくならず年を経た帝人は、おかげで鉄の塊に血を堰き止められる事はなかったが、それでもやはり長年擦れ続けた手首と足首には鉄錆のような色が沈着し、こすっても落ちそうにない。皮膚の深い所まで完全に変色していた。 それに対し帝人は特に何も思わなかったが、静雄はそうでもなかったらしい。眉間に僅かな皺を寄せて不機嫌そうな表情を浮かべた。 「ヒトは醜い。何故同じ人間をこうも貶める事ができるんだ?」 「人を食べる魔物がいるなら、人を食べる人もいるんでしょうね。そうしなきゃ生きていけない人が」 「理解できねえ」 人喰い魔物が住むはずの森の王は、魔物というよりどこか人間――それも純粋な心の持ち主――を思わせる様子でぽつりと呟く。 「どれだけの時間、お前は……」 「覚えていないんです。ずっとずっと小さい時から、でしたし。ひょっとすると昔は僕にも親というものがいたのかもしれません。けど物心付く頃には、もう」 売られたのか、捨てられたところを拾われたのか。それとも別の何かか。帝人には知る術などないし、知ろうとも思わない。知っても意味がないからだ。 帝人の世界はあの屋敷と、自分の物ではないシルクのシーツが掛かったベッドと、黒い髪の主人と。 そして、赤い赤い――― 「よくそこを出て来られたな」 何かを思い出す前に静雄の声が帝人の頭を満たす。 静雄の言う「そこ」とは当然帝人がいた屋敷の事だ。帝人はあの空間からこの森へと逃れてきた。けれど、 「……僕、どうやって逃げられたんだろう」 帝人の独り言に、「は?」と静雄が些か間の抜けた声を発した。 屋敷を出た事は覚えている。そこからこの森までの道のりもなんとなく。だと言うのに何がきっかけで屋敷を出たのかが帝人の頭からすっぽりと抜け落ちてしまっていた。いや、抜け落ちると言うよりも引き出しに鍵がかかって記憶を取り出せないと表現すべきか。 うーんと唸ってみるも、その鍵は開きそうにない。一方で頭のどこかから「思い出さなくてもいい。思い出すな」と声が聞こえた。しかしその声に帝人は答える。 (静雄さんともっとお話がしたい。だから思い出して喋りかけなきゃ) この森に来てから思い出そうとして結局思い出せないという経験は何度かあった。そして、それでも別に構わないと帝人は思っていた。けれども今だけは違う。何でもいいから話題が欲しい。静雄と話せるだけ話していたいのだ。 「思い出せないのか?」 静雄の問いかけに帝人はこくりと頷く。 「思い出そうとはしてるんですけど……」 「思い出したいのか?」 「思い出したいです」 何故思い出せないのかは脇に放置し帝人が答えると、静雄の手が再び伸ばされた。指先が向けられた先は鉄の枷が嵌っていた手足ではなく、帝人の真っ黒な双眸。それに気付き、帝人は何の恐れも抱く事なく素直に両目を閉じた。 瞼の上をなぞる指先の動きは絵を描いていた時と同じく繊細で、何か小さな模様でも記しているかのようだ。何だろう、と思いつつ帝人が黙っていると、その触れられた部分が徐々に熱を持ち始める。痛くはないがかなり熱い。しかも熱いのは瞼だけでなく眼球全体に広がっていた。 「……どうだ」 すっと指が離れると同時に静雄は声をかける。 その声に釣られるように帝人が瞼を押し上げると、黒いはずの双眸を見返す月色の瞳がかすかに笑ったような気がした。 「嗚呼、その色も悪くないな」 「え?」 どういう事だろうと帝人が窓硝子の方に視線を向けると、夜の闇と部屋の明るさの所為で鏡のようになったそこに金色の魔物とちっぽけな子供が映し出されていた。そしてその子供の瞳は――― 「あお」 静雄がキャンバスに乗せていたのと同じ色。 黒かったはずの帝人の瞳は、人間にはあり得ないほど鮮やかなブルーに変わっている。 「静雄さん! これ……ッ」 喜びを伝えようとして、しかし帝人は次の瞬間、脳裏によみがえった記憶の所為で吐きそうになった。 静雄が帝人に施したのは鍵のかかった記憶を思い出させる事。瞳の色が変わったのはその力の余波だろう。 記憶を思い出す事を望み、またその影響で有り得ない色に染まった瞳に喜びを覚えた帝人だが、よみがえった記憶は閉じ込めていた理由が嫌と言うほど解る種類のものだった。 「……思い、出しました」 床を見つめ、帝人は零す。 「僕、刺したんです」 「刺した?」 「屋敷の主人を。あの人を」 * * * その日、帝人を飼っていた屋敷の主人は一本のナイフを手の中で弄びながら美しい顔で笑った。 「ねえ帝人君。君が最近窓の外から眺めているのは一体何だろうね?」 帝人が飼われていたその部屋の窓は中庭に面しており、定期的に庭師がやってきて木々の剪定を行っている。その庭師達の一人に帝人と同い年くらいであろう少年が加わったのはここ最近の事だ。言葉を交わした事はなく名前も何も知らないが、その少年はおそらく今のうちから弟子入りして仕事を覚えようとしているのだろう。 この屋敷の敷地内に入り、また出ていく彼らの背中をちょくちょく眺めていた帝人だが、だからといって少年らと同じようにここを出られたら……と思うまでには至らなかった。何故なら帝人は物心付いた頃からここで飼われ、ここ以外の居場所を知らなかったのだから。 しかし屋敷の主人である黒髪の青年が次に放った一言で、帝人のこれまでの意思は僅かに形を変えてしまう。 「君の両目を抉ってもいいんだけど、君が見ているモノの首をこれで掻き切ってしまうのもいいなあ」 青年が視線をやった先、窓の向こう側では庭師達が働いている。その中でもひときわ精力的に動いている少年を一瞥し、次いで帝人を見た青年は整った顔にうっすらと笑みを浮かべて手の中のナイフを閃かせた。 これがあの少年を傷つける? 何の関係もないはずの、ただ一生懸命働いているだけの人を。 「……冗談、ですよね?」 恐る恐る訊いた帝人に青年はただ微笑みを返すだけ。 そして――― 数日後。帝人が中庭を眺めると、雇われた庭師達が仕事を始めようとしているところだった。だが今日の彼らにはなんだか元気が足らないように思う。それに、 (彼はどこだろう) いつも見かけていたはずの少年の姿がない。 まさかと思った瞬間、全身の血の気が引いた。 慌てて窓枠にかじりつき、庭に目を凝らす。しかし探しても探してもあの少年の元気に働く姿が見つけられない。それに庭師達の沈んだ空気。何かを恐れるようなそれは帝人の不安を更に加速させた。 「そんな訳ないよね?」 希望を口にしてみたが、その声は震えて情けない音となる。 その直後、まるで見計らったかのようなタイミングで部屋の扉が開かれた。現れたこの屋敷の主人は何が楽しいのかにこにこと笑いながら帝人に歩み寄る。 「やあ。また見てたのかい?」 窓の外を指して言う青年に帝人は答える事ができない。揺れる瞳でただ己の飼い主を見やるだけだ。 それでも青年にとっては充分だったらしく、「とは言っても帝人君の興味を引くものは、もうないだろうけどね」と言って帝人の短い黒髪を撫でた。 爪の先まで美しく整えられた青年の逆の手にはナイフが握られている。数日前に持っていたのと同じ物だろう。だが帝人の記憶が正しければ、銀色に煌めく刀身は元より、そのナイフの柄の部分にも染み一つ無かったはずなのに、今はまるで血のような――― 「ああ、これ?」 帝人の視線の先にあるものが何なのか気付き、青年はそれはもう楽しそうに満面の笑みを浮かべる。 「言っただろ? 首を掻き切るって」 それを聞いた瞬間、帝人の意識は真っ白に染まった。 そして次に帝人が気付いた時、やわな手の中には主人が握っていたはずのナイフが赤く染まって存在しており、当の主人本人は腹を押さえてその場に蹲っていた。 主人の赤味を帯びた瞳は驚愕に彩られ帝人を見つめている。まるでこの裏切り行為を信じられないとでも言わんばかりに。 数瞬の空白の間に何が起こったのかは火を見るより明らかだ。 赤い血と赤い瞳。それらを脳裏に焼き付かせて帝人は屋敷を飛び出した。 □■□ 語り疲れたのか、それとも無意識に封じていたはずの記憶を魔力で無理矢理引っ張り出した影響だろうか。屋敷を出るまでの経緯を語った後、帝人は半ば気絶するように眠ってしまった。 木の床の上にそのまま伏せた細い身体を夜の王は無言で眺める。しかしややもしないうちに口の中で何事かを呟いた。 それによりいつかの時と同じく現れたのは赤林。 魔物の王は月色の双眸で赤林を射抜くと、ある一つの命令を下した。赤林はそれを了承し、明日にでも出発すると告げる。 「それで……その子供は如何致しましょうか、夜光の君」 いつも子供が寝ている場所まで運びましょうか、と赤林が言うと、月色の魔物は首を振って否と答えた。 「この部屋にいても支障はない」 「そうですかい。では、私はこれで」 現れた時と同じように音もなく消える赤林。それを見送るでもなく月色の瞳は再び帝人を捉える。背を丸め小さくなって眠る帝人の姿は、どこか自分の身を守るようでもあった。 そんな帝人に黒い翼がそっと覆い被さる。 翼の持ち主である静雄の視線は既に作成中の絵に向かっており、帝人を気にした様子はない。けれども片方の翼だけを伸ばしたその姿は、きっと誰が見ても同じ事を考えただろう。 「……らしくねぇな」 魔王本人がそう思ったように。 |