学校帰り。
帝人が一人で池袋の街を歩いていると、折原臨也に声をかけられた。 「やあ、帝人君」 「折原さん、こんにちは」 律儀に頭を下げて答える帝人の姿に臨也は双眸を細めて微笑む。 何やら機嫌が良いらしい。天敵たる平和島静雄と遭遇していないからだろうか―――と思えるのも、今日はこの街で大きな破壊音が聞こえなかったからなのだが。 そういった旨の事を告げると、臨也は「よくわかったね」と殊更嬉しそうに口の端を持ち上げた。 「でも俺が今こうしていられるのには、もう一つ理由があるんだ」 とびきりの秘密を明かすように臨也は顔を近付け、その赤味の強い瞳が帝人を射抜く。 帝人はまるで蛇に睨まれた蛙の如く一瞬呼吸さえ止まり――― 「帝人君に会えたからだよ」 屈託の無い整った笑みを最後にして、帝人は意識を失った。 * * * 帝人を気絶させた臨也は小柄な体躯が地面にくずおれる前に両手で抱き締めるように支え、そのまま脇道へと身を滑り込ませる。 黒いコートの男が起こした一連の動作に気付いた者はおらず、その日、池袋の街から一人の少年が姿を消した。 (2010.09.05up) |