voice 01






 平和島静雄がバンドを組んでいる。
 その話が耳に入った時、彼と犬猿の仲である折原臨也は情報ソースを疑う前に「バンドって何だっけ。プロレスか何かの仲間?」と、かなり本気で思ってしまった。
 ともあれ、バンド=軽音楽等を演奏するグループと再確認した臨也は、次いで静雄が所属するアマチュアバンドの詳しい情報を手に入れる事にした。十中八九、からかうため、もしくはそれ以上に悪質な事態を引き起こすために。

 そして数日後、静雄が所属するバンド『D・Rディ・アール』も出演すると言うライブハウスに臨也の姿があった。

 地下一階にあるそのライブハウスは程よく照明が落とされ、前方のステージに自然と観客の意識が向くように設定されている。
 いくつかのグループの演奏が終わり、セット(楽器等)の入れ替えが行われている現在、観客達はざわざわと落ち着き無く次の演奏の開始を待ち望んでいるようだった。
 臨也はそんな観客達の一番後ろ、部屋の壁に背を預けて、ざわめく人間達を観察する。
 次があの憎たらしい平和島静雄の所属する『D・R』の出番だ。どうやら人気グループらしく、観客達の様子もこれまでとは少々違っている。化物じみた怪力とキレやすい性格の所為で池袋の自動喧嘩人形とまで言われるあの男がいるにも拘わらず。
(気に入らないな)
 あの男の事で気に入った物も出来事も何一つ無いが、臨也はその端正な顔を僅かに顰めながら視線を観客達からステージに向けた。
 そこは天井に取り付けられたいくつものライトに照らされて明るく、反対に観客達の側は暗くなっているため、こちらからバンドメンバーの姿を捉える事は出来ても、あちらからは臨也の姿を捉える事が出来ないだろう。実際、ステージに設置されたドラムの調子を見ている静雄が臨也に気付いた様子はない。
 『D・R』というアマチュアバンドのメンバーは全部で五人だ。リーダー兼ドラムの平和島静雄。ベースの園原杏里。ギターの紀田正臣。日によってキーボードとギターを使い分ける黒沼青葉。そして、ボーカルの竜ヶ峰帝人。
 静雄に関しては臨也と元同級生であるため今更年齢を思い出す必要も無いが、残りのメンバーとの年齢差を考えると、リーダーと言うより保護者と言う名の方がしっくりきそうな程だった。
 何せベースとギターとボーカルが高校二年生、キーボード兼ギター(ただし今夜はギターを使う模様)が高校一年生なのだから。
(シズちゃんの腕前も知らないし、今の時点じゃ何とも言えないけど……ガキばっかで大丈夫なのか? このメンバー)
 そう思わずにいられない。
 しかもステージに上がった演奏のメインたるボーカルの少年は臨也が調べた実年齢よりも更に幼く見え、非常に頼りない。どこにでもいそうなあの平々凡々な少年に、ここの観客達をざわめかせる程の力量が本当に備わっているのだろうか。
 心持ち失笑するような気分でステージに視線を遣っていると、『D・R』の準備がようやく整ったようだ。
 ステージの中央にボーカル。臨也から見てその右側に二人のギターがいて、左側にはベース。後ろにドラムがいる。
 スポットライトの色が少し変化して青や紫系の光が増える。
 まず音を発したのはベースの少女と髪を染めた方のギター。技量は悪くない。小さな音から始め、徐々に大きく。ざわめいていた観客達がシンと静まり、その音に耳を傾ける。
 次いで加わったのはもう片方のギター。そこにドラムが続くと、一気にこの部屋全体の空気が変わった。と同時に、ボーカルが一歩前に出て、スタンドに立てられたマイクに顔を近付ける。
 ボーカルの少年が口を開き、
「                」
(―――――ッ!)
 流れ出した音に、臨也は思わず息を呑んだ。引き込まれる。飲み込まれる。これまで聴いてきた歌が馬鹿らしくなる程の圧倒的な何かがそこにあった。
 声変わりがまだ完全に終わっていないのか、それともすでに終わったがあまり低くならなかったのか。童顔に見合った声が「喋る」ではなく「歌う」という行為によって全く別の物に変貌している。時折甘く掠れる高音が聞く者の心臓を鷲掴みにして離さない。
 全ての意識が少年の歌声に向けられる。
 もう平和島静雄の事などどうでもいい。今はただこの歌声だけを聞いていたい。
 生来の性格と情報屋という職業もあって、いつも一歩離れた所から群衆を観察していたはずの臨也が、この時だけはその群集の一部と化していた。まるで憑り付かれたかのように竜ヶ峰帝人の歌声の事しか考えられない。
 瞬きする事も忘れて臨也は『D・R』の演奏に全神経を集中させる。
 そんな彼がふと我に返ったのは、『D・R』の出番が終了し、次のグループがステージに現れた後の事だった。
「いいね、『D・R』……。面白い。実に面白いよ、竜ヶ峰帝人君」








暴挙第二弾。

帝人達の歌はBLASTの「rose」(@NANA)をイメージしてみました。
女性ボーカルだけど!
尚、書いている人間は音楽の知識が著しく欠如しているため、たぶん中身は嘘ばっかりだと思います。

(2010.04.29up)



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