黒キ五人ノ来訪 1
最初に気付いたのは市丸ギンだった。
「“とうとう”と言うべきか、“ようよう”と言うべきか・・・ま、とにかくご登場ってわけや。」 この後に控える授業で使う予定のプリントの束をトントンと揃えながら独り言つ。 察知出来た気配は五つ。 よく見知ったそれらが空座町に現れたのを感じ取り、市丸は彼らに会うべきか会わざるべきか作業の手を止めて逡巡するが、すぐに別のプリントを纏め始めた。 「どうせ目的は一護ちゃんなんやし、ボクは呼ばれたら顔見せでしたらええやろ。それにお呼び出しが無いんやったら―― 一護ちゃんはどうせ学校早退するやろうし――ボクが後処理しとかんとなぁ。」 昼、教室に井上織姫の姿は無かった。 いくら軽傷だったとは言えども、破面(モドキ)のウルキオラ、ヤミーが現れてからまだ24時間も経っていないため、大事を取って休んでいるのだ。 一応完全に回復したはずの竜貴も同じく。 また茶渡は腕の怪我が完治していないため、学校に来られるのは彼女らの復帰よりもう少し後になるらしい。 尚、ルキアは再びこの学校に通う予定だということだったのだが、まだ準備が整っていないためこの場に姿は無い。 一護はざっと教室を見渡して三人分の空席を確認し、片手でくるりとペンを回しながら視線を机に向ける。 昨夜は色々あった所為で、数学の宿題のことをすっかり忘れてしまっていたのだ。 幸い数学の授業は午後からであり、授業が始まる前のこの昼の休憩時間を使って終わらせるつもりだったのだが―――。 カリカリとシャーペンでノートに数式を書き込むことしばらく。 遠くの方がざわめき出したのを感じて一護は再び机から顔を上げた。 「そりゃルキアには遅れて来るって言われてたけどさ。」 「やはり君関係か。昨日といい、今日といい、もう少し大人しく暮らして欲しいものだね。」 ぼそりと呟いた一護の言葉を聞き取って、同じく異変を感じているらしい雨竜が溜息混じりに告げる。 いや、異変を感じる以前に、一護と比べて普段から霊圧に敏感である雨竜はこのざわめきの理由にも随分早くから気付いていたに違いない。 無論、一護も意識すれば精密に霊圧を感知することが出来る。 しかしながら今はもうその必要すらなさそうだ。 理由の一つは、事前にルキアから話を聞いていたこと(“彼ら”が『いつ』現れるかは決まっていなかったが)。 そしてもう一つが――― 「で、どこの教室でしたっけ?」 「知らなーい。」 「いやホラ、向こう出る時メモ持ってたじゃないスか。」 「・・・あァ。無くしちゃったv」 廊下側からどこかで聞いたことがあるような声。 しかも複数。 「なく・・・!ちょっと!!何してんスか!!」 「ガタガタ言うなよ。霊圧探りゃいーだろうが。」 「だって俺、コレ入んの初めてなんスよ?なかなか霊圧のコントロールが・・・」 「下手クソですいません。」 「下手クソじゃねーよ!!つーか何でアンタが一番シレっとしてんだよ!!」 一般的ではないが一護にとっては馴染み深い単語を織り交ぜた声が徐々にこの教室へと近付いて来ており、ざわめきも同時に移動して来ている。 「しっかし窮屈な服だなァオイ。」 「じゃあ僕達みたいにスソ出せばいいのに。」 「バカ言え!そんなことしたら腰ヒモに木刀が差せねぇじゃねーか!!大体オメーらが真剣はダメだっつーから俺は木刀でガマンしてやってんだぞ!?」 「僕らが言ってんじゃないの。法律が言ってんの。」 「イミわかんねーよ真剣がダメだって!!どういう法律だよ!!」 「ウルセーぞオマエら!!!」 怒鳴り声を上げながらついに声の主達が足を止めた。 勿論、一護達が居る教室の前で。 「騒ぎにしたくねぇならまず静かに歩け!!」 「へーい。」 「へーい。」 「着いたぞ!この部屋だ!!ホラ開けろ!」 ひときわ大きな声。 そしてガラッと扉が開いた。 「おーす!元気かいち「はいはーい元気ですよ俺は元気すぎてまぁちょっと昨日は暴れたり暴れなかったりした訳ですがそれはさておき皆さんどうもおそろいでっつーか何で学校に来てやがんだよお前らは他人の迷惑ってか俺の迷惑を考えやがれ!!」 「・・・お、おう。」 来訪者の一人、この高校の制服を着た赤い髪の男が一護のマシンガントークに圧倒されて挨拶用に片手を上げた格好のまま固まる。 他の四人もほぼ同様に唖然とした状態。 そんな様子をいいことに、一護は制服姿の五人を方向転換させるとそのまま廊下側へと押し出した。 「用件は俺んちで聞くからとりあえず出て行け、な?俺も早退すっから。」 赤い髪の男―――恋次の背中を押しながら一護も共に廊下へ出る。 その肩がやや下がっているように見えたのは、クラスメイト達の目の錯覚だろうか。 廊下に出た一護は途中で友人の二人――水色と啓吾――に出会ったらしく、一護が自身の早退を伝える声と啓吾が騒ぐ様子が教室に伝わって来た。 だがそれも少しして静かになり、恋次達五人と一緒にやって来たざわめきも合わせて遠くへと退いていく。 そして残された一護のクラスメイト達がこの一瞬の奇妙な出来事に何を言うべきか困り果てる中、 「お前も大変だな、黒崎。」 あるはずもない涙を拭う仕草をして雨竜がぽつりと呟いた。 |