「礼を言わせて欲しい。黒崎一護。」

サラリサラリと髪が梳かれるのを感じながら、一護はそう言った紅姫をキョトンとして見つめる。

「そなたが今、ここに存在し、そして死神として斬魄刀の具象化が出来る段階にあってくれたおかげで 妾は己が半身、斬月とこうして会い見えることが出来た。 やはり存在を知り、そうして確かに“居る”という事を感じられても・・・ いいや、だからこそ姿も見えず言葉もかわすことが出来ぬのは大変辛いことであるのでな。 ・・・・・・我らは幸運であった。 素質ある者と共に生まれ、そうして死神となった主たちのおかげで出会うことが出来たのだから。 心より、感謝する。喜助に、この時に、そして・・・そなたに。」

「え、・・・そ、そんな!」

紅姫の言葉に、一護はどうにも顔面の温度が高くなっていくのを押さえられず、ただ戸惑う。
俺はそんな大層なモンじゃない云々と慌てる一護を微笑ましく思いながら、斬月も一歩前へ出て自身の主を呼んだ。

「一護、私からも礼を言う。こうして紅姫と会えたのもお前のおかげだ。」
「や、止めてくれよ!オッサンまで!!」

一護が叫ぶが、しかし目元に朱をはいたままなので、この斬魄刀二人にとっては可愛らしいものでしかなく、 そうして緩んだ表情のまま見つめられて、一護はますます赤くなるばかりであった。
と、そんな中に乱入する声が―――

「なーにやってるんスか?っと、そちらは黒崎サンの斬魄刀・・・ですよね。しかも紅姫まで。」

現れたのは上に行っていた浦原喜助。どうやら用事も終わったらしい。
帽子を左手で押さえながら下駄を鳴らして歩いてくる。
そちらに顔を向けた三人のうち、紅姫が自身の主の名を呼んで斬月を手で示した。

「喜助。この斬月が、昔妾の言っていた“対”じゃ。覚えておろう?」

近くに着た浦原がぴたりと歩みを止めて一護の隣に立つ斬月を見据えた。

「そうっスか・・・彼が、貴女の“対”でしたか。」

感慨深げに呟かれた言葉。
それに斬月が微かに頷く。
そうして浦原は一護へと視線を向け、ニッコリと微笑んだ。

「まさか黒崎サンとこんな所で繋がってたなんて知りませんでしたよ。」
「俺も・・・なんか、なぁ?ホント、驚きだ。」

一護もそう言って苦笑する。
浦原はそれから紅姫へと顔を向け、口を開いた。

「紅姫も・・・黒崎サンがそうなら言ってくれたって良かったじゃないスか?」

少し不服そうな言い様の主に、しかし紅姫は優雅に笑って返す。

「そもそも妾の“対”にほんの一片の興味も示さなんだのはどこのどいつじゃ? あれだけ言ってもろくに返事すらせなんだのは?喜助、ぬしに知らぬとは言わせんぞ?」
「う、それは・・・」

言葉に詰まる浦原。
言い返せない主に笑みを漏らしながら紅姫は続ける。

「あの雨の夜。ぬしが気づいたその思い、妾ももちろん知っておるぞ。 だからこそ、余計に言わなんだのじゃ。 これくらいの仕返し、妾の話を聞かなんだことと比べればまことに小さきものよ。」

フフフ・・・と、口元に手を当てて楽しそうに笑う紅姫。
それとは対照的にガクリとうなだれる浦原。
その二人の様子を見やりながら、一護は「なぁ」と語りかけた。

「何スか?黒崎サン。」

声に反応してすぐさま浦原が顔を上げる。

「いや・・・そのさぁ。紅姫さんが言ってた今の、後半・・・どういうことだ? 雨の夜って、ルキアが連れて行かれたときのことだろ?んで、俺がアンタに助けてもらった。」

確かに雨が降っていたとあの時のことを思い出し、一護は疑問を口にする。

「あー・・・それはですねぇ。」

浦原が口ごもり、それから横目で紅姫を睨んだ。

「謀ったスね・・・?」
「ぬしの背中を押したまで。」

楽しそうに紅姫が言えば、浦原は「まったく・・・」と苦笑いして、一護に顔を向ける。

「その通り。あの時のことっス。」
「あ、やっぱり?・・・で、後のことは?」

どうやらはぐらかすのを良しとしてくれない一護に、浦原は少しばかり頭を抱えそうになったが、 それでもなんとか「そっちの話は・・・今夜で良いっスか?」とだけ言うことが出来た。

「情けないぞ、喜助。」
「アタシにだって覚悟するための時間は要るもんっスよ。」


紅姫の言葉へ速攻で返した浦原を尻目に、一護は「わけわんねぇ・・・」とこっそり口の中で呟いた。






















いつものことですが英語のタイトルは文法無視ですよ。

一応、今回は「対を成す刀」だったりしますけど(苦笑)


あと、「対」とは親のような子供のような、兄弟のような友人のような、

そして恋人のような相手で、言葉に出来ないような関係のつもり。

斬月と紅姫もそんな感じでお互いのことを見てるんです。

主(持ち主)とは別の次元で大切な存在というか。もう一人の自分・・・かな。

傍にいると嬉しくて満たされるけど、離れてしまうととても悲しくて空虚感に襲われたり。


















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