勉強会―――否、手合わせを中断し、
一護は地面に突き立てられた斬月・紅姫と共に、所用でいったん地上へと上がった浦原を待っていた。
Binary Swords
二本並べて地面に突き刺さった斬魄刀に目をやり、一護は自身のものと浦原のものを交互に見比べた。
柄も鍔もなく、ただ長大な刃が他を圧倒するような存在感を持つ黒き斬月。 優美な飾りに直線的なフォルム、それこそ「姫」の名に相応しい姿をした紅き紅姫。 全く似ても似つかないこれらの持ち主が実は根底で随分と似たもの同士であったことに気づいて、 一護はほんの微かにだが失笑を漏らした。 ・・・と、二本の剣を視界に収めたまま、一護は「そういえば・・・」と首をかしげた。 「なんで斬月のオッサンは紅姫・・・さんのこと知ってたんだ?」 これまで一護と浦原は(一応)顔すら知らない間柄であったのに対し、 それとは逆に、この斬魄刀たちは以前から知り合いであったという。 前にそのことを聞かされたときには特にどうこう考えることも無かったが、 今、この二本を前にしてあらためて何故という思いが大きさを増したようである。 すると、主の疑問に答えるかのように、突然音もなく黒衣の男が現れた。 「それは“対”だからだ・・・」 「対?」 “対”―――二つそろって一組をなすもの、つがい。そういうものを示す言葉だ。 しかし、それがつまりはどういうことであるのか。 疑問符を頭上に浮かべながら、一護は黒衣の男――斬月の台詞に返した。 すると・・・ 「そう。“対”じゃ。」 鈴を転がすような、とはまさにこの事か。 済んだ美しい声に語り掛けられ、一護は視線をそちらに向けた。 地面に突き立てられている紅姫。その横に―――人影。 黒と紅を基調とした着物に身を包み、長い闇色の髪を持った妙齢の美女。 ・・・そう。まさに「美女」である。 この姿をもってしてそう言わなければ一体何が当てはまるのか・と思わせるほど、美しい“人形”だった。 「えっと・・・紅姫、さん?」 一瞬、その姿に言葉を失っていた一護だが、すぐに気を取り直して現れた美女に問いかける。 すると彼女は艶然たる笑みを浮かべ「そうじゃ。」と肯定を示した。 「はじめまして、じゃのう。黒崎一護。・・・妾は紅姫、喜助の斬魄刀じゃ。そして―――」 紅姫が一護から視線を外す。 その代わり、彼女の視界の中心にいたのは―――斬月。 「そなたの斬魄刀、斬月の“対”である。」 誇らしげにそう言った紅姫を見て、一護はなんだか嬉しいと感じていた。 「そして“対”とは―――」 頃合を見計らってか。 斬月の声が聞こえ、一護はそちらに意識を向ける。 「“対”とは、斬魄刀に定められた相手とでも言おうか・・・。 生まれながらにして、自分には半身がいるのだと我々は知っているのだ。」 「それで・・・オッサンの半身が紅姫さん?」 「ああ。一護、お前がこの世に生れ落ちたその瞬間から、私も斬月という名を持った一つの存在となった。 そして、その時に知っているのだ。私には既に半身がいる。紅姫という名の半身が・・・とな。」 そこまで言って斬月が口を閉じると、今度は紅姫が自身の胸に手を当て、ゆっくりと語りだした。 「そして妾は・・・喜助が誕生するのと同時にこの紅姫という名の斬魄刀として存在するようになったのじゃ。 本能・・・とでも言うのであろうか。その瞬間、妾は斬月という名の半身がいずれ生まれてくる事を知っておったのだ。」 「・・・・・・・・・不思議、だな。」 ポツリと感想を述べれば、紅姫が一護に視線を向けて優しく微笑み、 それから秘密を打ち明ける時のような楽しげな表情を見せたかと思うと「実はな・・・」と口を開いた。 「ん?まだ何かあんのか?」 「フフ・・・そうじゃよ。 “対”の斬魄刀は己が半身の存在をただ知っているわけではない。 我らは己が半身の周囲の状況、言うてみれば、持ち主のことをごく限定的ではあるが知ることもできるのじゃ。 ・・・斬月もそなたに言ったことはないか?喜助のことを知っている・と。 妾も知っておったのじゃよ。そなたのことを、そなたに会う前から。まぁ、それも名前と髪の色、 そしてどのような霊圧をしているか、ぐらいであったがな。」 ―――こうして直接会うことでもなければ明確な意思も何も伝えられぬから、それぐらいしか知らぬのだ。 そう言ってもう一度微笑み、紅姫は一護の髪に手を伸ばした。 |