イクツカノアトカタヅケ 2











突然訪ねてきた織姫によると、ルキアが瀞霊廷の何処もにもいないのだという。
すでに六花を使って調べた後らしく、心配する彼女に付いて一護も捜索に加わった。
と言っても、ルキアは瀞霊廷にいないと言うことが決定事項なので、向かう先は一ヶ所に絞ることが出来ていたのだが。

たぶんあそこだろう、という予想の下、一護達が辿り着いたのは瀞霊廷の外。
西流魂街の端にある志波空鶴の屋敷だった。





(おー。いたいた。)

自分達が瀞霊廷侵入の際に利用した巨大な打ち上げ台の付近。
草むらの中に立つルキアの姿を認めて一護は内心で呟く。
死覇装ではなく普通の着物を纏ったルキアが空鶴の背に向かって何かを告げているように見えた。
おそらく志波海燕に関する事なのだろう。
一護からは背中しか見えない女性二人の共通事項を思い出して、そう検討をつける。
良い意味を持たないそれに不安は有ったが、近づくにつれ彼女達が決して険悪なムードではないことが判り、ほっと胸を撫で下ろした。
しかしそんな一護の目の前で。

「・・・え?」

振り向きざまの空鶴の左拳が見事にルキアの顔面へと吸い込まれた。
ゆっくりと近づいていた一護と、そして後に続く織姫の足が止まる。
ギリギリ声が聞こえないような距離だったので此方の見間違いだと思いたかったのだが、どう見直してもルキアは片手で鼻頭を押さえているようだし、空鶴の左手もグーの形を保ったままだった。

(・・・和解?和解って思っていいのかアレ。それとも今から走って行って止めるべき?)

動きを止めたまま一護は自問する。
しかし自身はおろか白い相棒からも答えは返って来なかった。
どうやら今の一撃に自分達は相当な衝撃を受けてしまったらしい。
そんな頭の中を真っ白にさせた一護の背を、ちょんちょんと突く者がいた。

「井、上・・・?」
「黒崎くん、朽木さんの所に行かないと。」
「あ、ああ。」

女性は強し、とでも言うべきなのかどうなのか判らないが、織姫は素早い復活を成し遂げたらしい。
振り返った先の彼女は一護と同じく先刻の光景に驚いたものの、あの二人にはあの二人なりの何かがあるのだろうと納得して――いや、もしかしたらあえて深く考えないようにしているのかも知れないが――、本来の目的を果たすために小さく「ね?」と首をかしげる。
一護は頭を軽く掻き、ルキア達を一瞥してから息を吸い込んだ。
そして足を踏み出しながら黒髪の少女の名を呼ぶ。

「ルキア。もう用事は済んだみてーだな?」
「・・・一護、井上。」

掛けられた声にルキアが振り返った。
自分の事でいっぱいいっぱいになっていたため、近づいて来ていた一護達の霊圧には気が付かなかったらしい。
驚きの表情が張り付いている少女の顔を見て一護は小さく苦笑した。

「スッキリしたか?」
「ああ。」
「なら良し。ほら帰るぞ。まだ体調も万全じゃねえんだし、白哉も心配するだろうからな。」
「兄様が・・・、」

白哉が心配するという言葉を聞いてルキアはその表情をほんの少し嬉しそうに緩める。

実は藍染の件が済んだ後、白哉の口からルキアとその実の姉についての話があった。
ルキアの姉と白哉は夫婦だったそうなのだ。
つまり、白哉とルキアは正真正銘の兄妹。
白哉がなぜあそこまで掟に従おうとしていたかという理由も含めその話を聞いて、以前は感じられなかった兄妹の繋がりを今はもうきちんと認識出来ているのであろう。ルキアは。

嬉しそうな少女の様子に一護も織姫もつられるように淡く笑った。


「ところでルキア。明日には現世への門を開けてもらえるらしいんだけどよ。お前はどうする?」

今のルキアにとって此処は家族も友人もいる大切で暖かな場所であるはずだ。
だからこそ、一護達と共に現世に戻るかそれとも尸魂界に残るか、彼女の意思によってのみ決定され得る。
問うた一護にルキアは一瞬目を見張るが、すぐに表情を元に戻して微笑んだ。

「私はここに残ろうと思う。」
「・・・そうか。良かった。」
「え・・・」

一護の返事を聞き、ルキアは驚きの表情を浮かべる。
おそらく自分だけが尸魂界に残る事に対して、僅かではあっても、一護達を裏切るような気がしていたのであろう。
そんな彼女の表情を目にし、一護は「・・・いや、」と呟く。

「お前が自分でそう決めたんなら・・・残りたいって思えるようになったんなら、それでいいんじゃねえかな。そう思えるようになるってのはすごく大事だと思うから。」

その言葉にルキアはハッとし、次いで己の罪悪感が全くの無用であったことに気付いて本日三度目の、そして最高の笑みを見せた。

「そうだな。ありがとう、一護。」
「どういたしまして。」






















主に「後片付け」はルキア嬢に関することでした。











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