朽木白哉との戦いを終え、仲間達と合流した後、一護はその彼らと共に双極の丘を降りていた。
ただし。

(剣八の奴、また何か派手にやらかしてんなぁ。)

広範囲の霊圧探査を行いながら。












ヒトミニヤミヲヤドスモノ 1











最も感知しやすかったのは隊長格同士の戦いであろうもの。
しかし一護が探しているのはそれではない。

(ルキアと恋次は・・・)

霊絡を視覚化するわけにもいかず――周りの者に余計な事を勘付かせる必要は無い――、霊圧だけを頼りに二人を探す。
しかし広範囲かつ他者の巨大な霊圧の存在と言うものはかなりの障害になっていた。
一護は白哉戦の折に彼らの霊圧を見失った己に対し、小さく舌打ちをする。
いくら白哉と言う大きな力を間近にしていたとは言え、それで彼ら二人を見失うなど浅はか過ぎる、と。

その時、一護の脳内で苦笑を孕む声が響いた。

『俺が手伝ってやるよ。』
(お前が・・・?)

声の主は一護の中に住まう白い彼。
突然の申し出に一護は間の抜けた返事を返してしまうが、それを瞬き一つで改めて相棒に語りかける。

(こう言っちゃ何だけど、お前の探査能力って高かったっけ?)
『なんだ知らねぇのか?俺の凄さ。』
(知らねぇよ。・・・っていうか、俺と同じくらいだと思ってた。)
『残念ながらもっと上だっつうの。・・・ま、ちょっと待ってろ。』

白い彼はそこで言葉を切り、集中を始める。
一護は脳内で響いていた声が沈黙すると、内に向いていた意識を幾らか外に戻して空を仰いだ。

(お前が言うなら信じるさ。)

白い相棒に届けるためではなく、ただそう独り言ちてまた一歩足を踏み出す。
集団の最後尾にいたためか、一護の様子に気付いた者はいなかった。
そのことに少しの安堵。

チリチリとほんの微かに感じる皮膚を炙るような霊圧はまだ衰える様子を見せない。
先程も思考の端に上ったが、一つは剣八と彼の対戦相手のもの。
そしてもう一ヶ所、感知できる馴染みのない大きな霊圧は、もしかすると京楽春水・浮竹十四郎が関わっているものかも知れない。

(隊長二人が双極壊しちまったんだし・・・。総隊長サンあたりが動いたのかも知んねぇな。)

流刃若火―――全斬魄刀中最高の攻撃力を誇り、炎熱系最強最古と称される一振りは一体どんな代物なのか。
見たくないと言えば嘘になる。
むしろこんな状況でもなければ総隊長達の所へ向かっていたかも知れない。
そんな自分に苦笑して一護は思考を切り替えるように「おい。」と白い相棒に語りかけた。
もちろん声自体は出さずに、頭の中のみで。

(なァおい。どうだ?)
『・・・・・・見つけた。此処から北西に五百間ほど。・・・いや、ちょっと待て。』

見つけたらしいのだが、なにやら様子がおかしい。
白い彼は『誰かが嬢ちゃん達に接触した。』と続けると、次の瞬間、驚く気配を見せた。

『消えた!?』
(はァ!?ンな馬鹿な・・・、ッこれは!)

そんな馬鹿な話があるか、と言おうとしていた一護は、しかし己の感覚に引っかかった霊圧によって驚いたように上を見上げる。
一護が向けた視線の先、それは先刻まで自分達がいた丘の頂上だった。

いる。
“彼ら”と“アイツ”、そしてあと二人が双極の丘にいる。

(ついに接触しやがった。)
『はっ!ちょうどいい。行くぜ一護!』
(おう!)


そして一護は集団の最後尾から姿を消した。

















「な・・・何だってんだ一体―――。ここは、双極の丘・・・?」

ルキアを抱えたまま恋次は辺りを見渡す。
突然目の前に現れた東仙要九番隊隊長に連れて来られた先は、先刻逃げ出してきた場所だった。
破壊された双極の磔架も見える。

「なんで・・・」

「ようこそ。」
「!?」

背後からの声に慌てて振り返った。
今まで幾度も耳にした穏やかな、しかしもう二度と聞くことは無いと思っていた声。
阿散井くん、と呼ぶその声の持ち主の姿を認めて恋次は鋭く息を呑む。

「あんたは・・・」
「早速だが、朽木ルキアを置いて退がり給え。」

穏やかな声とは裏腹に、冷たい視線が恋次を射った。
しかし死んだはずの人間を目の前にして驚きばかりが先行し、恋次はその言葉の意味を測りかねる。
藍染隊長、とその人物の名前を呼んでただ唖然とするばかり。

「なんで生きて・・・・・・いや、」

信じられないようなものを見ていた瞳が、ふと正気を取り戻して鋭く、しかし未だ困惑の色も滲ませて己を見下ろす双眸を見返した。

「それより今、何を・・・!?」

信じられないのが半分。
信じたくないのが半分。
何者かの手によって殺されたはずの藍染を見上げて恋次は掠れた声を出す。
しかしそれとは正反対に、藍染は恋次を見て薄らと愉しそうな表情を浮かべた。

「聞こえなかったかい?・・・・・・仕様のない子だ。二度は聞き返すなよ。」

藍染の背後には市丸ギンがいて、自分達のすぐ傍には東仙要。
そして藍染は恋次達に最悪の言葉を吐こうとしている。
恋次は腕の中のルキアをいっそう強く抱き締めた。

藍染が口を開く。

「朽木ルキアを置いて、」
「退がる必要は無ェぜ、恋次。」

突如として乱入した声。
そしてヒラリと舞う黒衣。
その姿に、声に、そして霊圧に恋次とルキアは「あ・・・!」と声を上げた。

「「一護!!」」
「さっきぶりだな。ルキア、恋次。」

藍染達から二人を護るように彼らの前に立った一護は、少しだけ視線を後ろに向けてその名を呼ぶ。
そして最も近くにいる東仙を牽制しつつも、琥珀色の双眸を藍染へ向けて口元に不敵な笑みを刻んだ。


「ハジメマシテ、藍染惣右介サン。・・・アンタを止めに来たぜ。」






















“彼ら”と“アイツ”の「アイツ」は銀髪狐目の彼ですよ。

霊圧の判別がつかない藍染氏と東仙氏は「あと二人」でひと括り(笑)












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