ヨソウガイノデキゴト 4
「・・・久しく見ぬ顔だ。行方を晦ませて百余年・・・死んだものとばかり思っていたが・・・」
呟く白哉に夜一はフッと笑う。 「生憎じゃが、そうそうくたばりはせんよ。――― 一護、」 「・・・?」 夜一に名を呼ばれ、一護が片眉を上げる。 それを気配で察してか、未だ視線を白哉に向けたまま、夜一は小さく、しかしはっきりと告げた。 「ここは退け。今のお前では此奴に勝てん。・・・・・・三日だ。三日でおぬしを此奴より強くしてやる。だから今は。」 「・・・ッ」 夜一の言葉に一護はピクリと反応を示す。 折角ここまで来たのに、今ならルキアを助けられるのに・・・・・・・・・という訳ではもちろん無く。 (暇潰し、三日分確保!?) 『災い転じて福と成す、ってか?』 (ああ・・・でも、ルキア達には悪ィけどな。) ちなみに、災いとは岩鷲達と白哉の予想外の遭遇である。 何を考えているのか表面には一切出さず一護達が会話していたその時、 静謐さを持ちながらも決して聞き逃すことの無いような声音が落ちた。 「―――逃がすと思うか。」 口を開いたのは白哉。 「させぬ。兄もこの旅禍も、ここから逃げることは出来ぬ。」 「ほう。大層な口を利くようになったの、白哉坊。・・・じゃが、おぬしの望み通りにはいかぬよ。」 ニヤリ、と夜一の口元が弧を描く。 懺罪宮に向かう際、一護は瞬歩で移動していた。 それも――いくらか夜一が出遅れたからといっても――彼女が途中で追いつけぬほど早く。 それが元々出来ることだったのか、それとも浦原に鍛えられたことによるものなのかは知らないが。 「鬼事で儂や喜助に勝ったこと等、一度もありはせんだろう?」 自分の実力と一護の実力を持ってして、捕まる気はサラサラ無い。 「・・・ならば試してみるか?」 「一護。」 「ああ。」 白哉の姿が掻き消え、次いで夜一と一護の姿も同様に消えた。 その次の瞬間には白哉の背後に二つの影。 振り向きざま白哉が千本桜を旋回させる。 キィン すかさず一護が斬月で受け止め、またその次の瞬間には姿を消していた。 夜一と一護の二人が続いて現れたのは四深牢の橋を挟んで向かい側。 その白い建物の屋根の上。 気づいた白哉が一護達を見上げ、更につられてルキア達も同じ方向に顔を向けた。 その顔に浮かぶのは一様に・・・驚き。 ことルキアにおいては、今の一護の動きに「信じられない」と目を見開いている。 しかしそんな彼女の様子に構うことなく、夜一は此方を見上げてくる白哉に向かって、 笑みを浮かべるでもなく淡々と言い放った。 「三日、此方の勝手じゃが休戦とさせてもらうぞ。 追いたくば追ってくるが良い。“瞬神”夜一、まだまだおぬしら如きに捕まりはせぬ。」 そして、姿を消す。 「ルキア・・・」 残った一護が驚いた表情の少女に向かって名を呼べば、ルキアは己に向けられた表情を見、 やがてゆっくりと一度瞬きをしてから表情を正した。 「莫迦者。」 綻びだらけの不敵な笑顔で。 涙する直前の強気な声で。 しっかりと一護を見つめる。 「必ず助けに来い。待っておるぞ。」 「・・・ああ。」 そして一護も屋根の上から消え去った。 |