恋次との戦闘により集まって来た警備の死神達が引き上げていくのを待つため、そして休息の意味も兼ねて
一護達は地下水道の中で一夜を過ごした。
日が昇り、外が明るくなってから地上に出てみれば、警備が薄くなるどころか黒い死覇装姿が一つも見当たらない。 「まさか敵さんも俺達が一晩中同じ所に留まってるなんて思うわけねえってことか。」 呟く岩鷲に、一護も軽い調子で「そうだな。」と返す。 しかしその視線は懺罪宮の中腹辺りに向けられ、双眸も常より幾らか細められていた。 (確かに此処には誰も居ねぇけど・・・) 首筋にチリチリと焦げつくような違和感を感じる。 距離の所為か、それとも本人が抑えているからか。もしくはそのどちらかによるものか。 強大な霊圧の持ち主があそこに『居る』のだとわかる。 良く研いだナイフというより力任せに全てを破壊するような荒々しい質の霊圧に、 まさかこれが・という思いが自然と浮かんできた。 (あそこに居るのが・・・) 『更木剣八・・・か。』 (暇つぶし相手、発見。) ニテイルモノタチ 1
長い階段を上りきり、白い建物の間を駆け抜ける。
その時。 「・・・っぐ!」 「・・・なッ!?」 ドン、と辺りを満たした気配。 地面に押し付けられるような錯覚を起こすほど大きな霊圧に当てられ、岩鷲と花太郎が呻いた。 今さっきまで抑えていた霊圧を開放したということは、更木剣八(と思われる人物)が一護達の姿を発見したのだろう。 わざわざ己の存在を知らせてくる相手に、よほどの戦い好きか・と一護の口元に苦笑が浮ぶ。 『見つかちまったけど・・・どうするよ?』 一護が、ではなく。戦力外の岩鷲と花太郎を。 (二人は先に行かせる。ここに居たら巻き込まれるだろうし。) そう胸中で呟き、一護は足を止めた。 「一護!?」 「一護さん!見つかる前に早く行かないと!!」 慌てて二人も立ち止まる。 けれども「先に行け!お前らはルキアを頼む!」という一護の言葉を聞けば躊躇いながらも前に進むしかない。 目の前に立たれているわけでもないのに、この霊圧だけで全身の力が抜けていくような己では 助太刀の一つも満足に出来ないだろうと解っているからだ。 それなら一護が此処に来た目的のため、朽木ルキア奪還のため、やれることをやろう・というもの。 「・・・ッちゃんと後から来いよ!」 「僕らは先に行ってますから!」 そう言って走り出した二人の背を見送り、彼らの姿が建物の影に隠れて見えなくなった後、 一護は振り向かずに背後へと告げた。 「降りて来いよ。俺と戦うんだろ?」 「―――黒崎一護だな。」 「そのとおり。」 瓦屋根の上から一護の背後に降り立った巨漢。 チリーンと澄んだ鈴の音が問いかけの後に続き、一護はそこでようやく振り返った。 「スゲー殺気だな。十一番隊隊長、更木剣八?」 右目に眼帯を着け、逆立てた髪に小さな鈴を編みこんだ死神は一護の顔を見てにやりと口端を吊り上げる。 一方一護も顔には不敵な笑みを浮かべ、琥珀の双眸で剣八を見返している。 声をかけた瞬間から襲い掛かってきた殺気はかなりのものだ。 物理的な力さえ持っているかと思わせるほど強く、 嵐のように、また鋭い刀の切っ先のように一護へと向けられ続けていた。 「その顔、どうやら何をするかは解ってるらしいな。」 「まぁね。」 一護が背中の斬魄刀に手をかけ、シュルリと白い布が取り払われる。 そして刀身が露になった斬月を構え、前を見据えた。 その瞬間、ズンと空気が重くなる。 「ほう・・・」 跳ね上がった一護の霊圧。 目の前の子供から溢れ出るそれに剣八が感嘆の息を漏らした。 「その霊圧、そこいらの副隊長レベルじゃ相手にならんだろう。それに構えも・・・一角が負ける訳だぜ。」 「そりゃどうも。」 一護は薄く笑って賛辞を受け取る。 瞳の中に浮かぶのはこれから起こるであろう戦いへの歓喜。 それを見つけ、剣八は愉しそうに腰の鞘から刀を抜いた。 「てめえも随分と危ねぇ性格してんじゃねえか?」 言外にお前と俺は似ていると言われ、琥珀の双眸に宿る歓喜はいよいよ色味が強くなる。 一護は誰かを護るために理性という手で刃を握ってきた。 けれど時に顔を覗かせる『戦いへの歓喜』の存在も否定できない。 浦原とやりあった時がそうであるように、確かに一護には楽しむために刃を振るう瞬間があるのだ。 そして、ソレが今。 しかも目の前にはソレを知り、理解し、体現する人物が居るのだ。 気分の高揚は抑えられるものではない。 一護は改めて柄を握り直し、剣八を見据える。 「俺はアンタに勝つぜ。」 「上等だ!!」 そして、膨れ上がった霊圧が轟音と共に激突した。 |