ケンカズキノオトコ 2











「アイツとやった所為かな・・・物足りねぇ。」
「はぁ?“アイツ”?」

斬撃の合間に一護が漏らす。
その言葉に反応して一角が不機嫌かつ不思議そうな顔をした。

ぱっと一角から距離を取った一護は「お前が知ってるかわかんねーけど、」と前置きをして、 “アイツ”と称した人物の名を口にした。

「・・・―――浦原喜助。」
「っ!?それは・・・!」
「あ、知ってた?十日間だけしか師事してねぇんだけど、これって俺の師匠ってことになんのかね?」
『“一応”な。』

外見だけ・と付け足す相棒に、「実際に鍛えてくれたのはアンタと斬月のオッサンだからな。」と一護は内心で笑う。

そんな一護とは別に浦原喜助の名を聞いた一角は今迄で一番驚いた顔をし、 その後「なるほどな。」と納得した表情を見せた。

「どおりで俄死神にしちゃァ出来過ぎてると思ったぜ。」
「それは誉められてンのか?」
「ったりめーだ。」

フンッと笑って一角は再び鬼灯丸を構える。

「あの人が師とはなぁ・・・今まで手ェ抜いたこと侘びなきゃなねーかもな。」
「抜いてたんだ?俺には気ぃ抜くなって言ったくせに。」
(そう言や、ちっとも三節棍にならなかったしな。)

三節棍であるはずの鬼灯丸がずっと槍の形状のままだったことを思い出し、一護はケッと吐き捨てる。
そして斬月を構え直すと今度こそはという期待を込めて石畳を蹴った。
















一護の期待通り三節棍としての姿を現した鬼灯丸は、けれども案外あっさりと一護の手に掴まれてしまった。
そのまま一護は鬼灯丸ごと一角を引き寄せ、斬月の峰で思い切り叩く。

「・・・っう。」

衝撃に呼吸が止まる一角。
一護の方は鬼灯丸を掴む手を離し、一角の後へ回る。

「仕上げだ。」

トン、と軽い音がして、一角がその場に崩れ落ちた。
一護は左手をすっと伸ばした形のままでそれを見下ろす。
石畳の上。一角は首の後ろに叩き込まれた手刀によって完全に気を失っていた。
















「・・・なんで俺は生きてんだ?」

目を開ければ広がる大空。
一護とり合ってた筈なのに・と一角が目を瞬かせると、 その本人から声がかかった。

「目ェ覚めたか。あ、無理に動くなよ。お前に縛道の『塞』かけてるから。」
「はぁ?・・・って、マジかよ。」

動くのは口と目だけらしく、視線を声の聞こえた方にやって一角は溜息をついた。
その様子を一護は何とは無しに見ていて「俺の方が霊圧高いんだからホントに無理だけはすんなよ。」と念を押す。

「いやサ、十一番隊ってあんまし鬼道とか好きじゃねーんだろ? だから一角とやってるときは使わないでおこうと思ってさ。 んで、俺が勝って終了したから遠慮なく使わせてもらってるってワケ。質問したい事があるからな。」
「・・・ケッ。質問かよ。どおりで殺さねぇわけだ。・・・で、何が訊きたい。」

誕生日でも教えてやろうか?とからかう一角だが、一護は真剣な眼差しを向けてそれを黙らせた。
一護が訊きたいのはただ一つ。

「朽木ルキアの居場所。」

一角が息を呑む。

「!?朽木?・・・例の極囚か?オマエら、あんなモンに何の用だ?」
「助けに来た。」
「あァ!?た・・・助けに来たって、オマエら何人で来た!?せいぜい7・8人だろ?」
「5人と一匹だ。」
「何だ一匹って!?てか本気でその人数で助ける気か!?」
「おう。」

肯定した一護に一角は動けない体を笑いで震わす。

「ぎゃははははははっ!!!でっ・・・できるわけねーだろ、そんなの!!バカじゃねーのかオマエ!?」

そんな一角を見下ろす一護のこめかみにはハッキリとした青筋が・・・

「『塞』、強化。」

呟き、ぴっと短く線を引くように一護が立てた人差し指を横に振った。

「いでででででっ!!マジ痛ェっ!!」

言葉のまま、一護に縛道の一『塞』を強化されて笑いの震えさえ戒められた一角はかなり真剣に痛がる。
本当に笑っていられなくなったらしい彼の様子をジト目で見ていた一護は、しばらくそのままにした後、 これくらいか・と力を緩めた。

「はい、訊いたことに答えてー。」
「・・・ったく。まァいーや・・・。こっから南にまっすぐ行くと護廷十三隊各隊の詰所がある。 その各詰所の西の端に真っ白い塔が建ってる・・・そいつはそこにいる筈だ。」
「ホントか?」
「なに疑ってんだよ!てめーがそいつをどうしようと興味は無えよ! 助けに行くってんなら好きにすりゃいい!オラ!見つかる前にとっとと行け!」

言い切った一角に一護が笑いかけ、歩き出す。

「おう。・・・んじゃな、一角。恩に着るぜ。」
「着なくていいぜ。気色悪い。」

視線を逸らし、一角は呟いた。
しかし一護の足音が聞こえなくなる前にハッとして再度一護に視線を送る。

「・・・ちょっと待て。」
「ん?」
「一つ訊いていいか。」
「ああ。」

足を止めた一護が一角へと向き直り、その問いを待った。

「オマエらの仲間で一番強ぇのは誰だ?」
「俺。」
「・・・即答かよ。」

呆れ顔になった一角は頭を掻きたい気持ちになったが、体の自由がきかないことを思いだして諦める。

「だったらウチの隊長に気をつけな。ウチの隊長は弱い奴には興味が無え。 てめーの言うことが本当なら、狙われるのは間違いなくてめえだ。」
「・・・強いのか。」
「会えばわかるさ。・・・まあ、あの人の強さをてめーの頭が理解できるまでてめーが生きていられたらの話だがな。」
「肝に銘じとく。」
「ははっ!忘れんじゃねーぞ。あの人の名は―――」



知っているとは言わずに十一番隊隊長の名を聞いた一護は、今度こそ一角に背を向けて岩鷲の元へ向かった。






















ちなみに一角には『塞』かけられっぱなしです。

四番隊の人達になんとかしてもらうことでしょう(笑)












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