(・・・着地はどうしよう。)
『石波使いっつー便利なアイテムがあるだろ?』
(・・・・・・・・・・・・・・・)

地面に向かって勢い良く落下中。
岩鷲を掴んだまま、一護は白い相棒の台詞にしばらく言葉を無くしていた。












ケンカズキノオトコ 1











「砂になあれ!!『石波』!!!」

白い彼の台詞はさておき。
地面と大激突そして死亡、などという末路は辿りたくなかった岩鷲はかなり必死な形相で宙に円を描く。
その直後、大きな衝撃音と共に二人は瀞霊廷の一角へと勢いよく着地した。







「「ぶっは―――っ!!!」」

石波によって砂状になった地面から二人が顔を出す。
ドカッと自分が作った砂でむせている岩鷲の背を蹴り倒した後、 一護は即席砂プールから片足を引っこ抜きつつ斜め上を見やった。
感じるのは知らない二人分の霊圧。

「・・・落下地点悪すぎ。」
「何か言ったか?」

「いよッホォ!!ツイてるゥ!!」

岩鷲が一護を振り返り言った瞬間、一護が見上げていた建物の屋根から二人の影が飛び降りてきた。
ハゲとオカッパ。
一護が感じていたその霊圧の持ち主達は唖然とする二人に近づきながら余裕の表情で笑う。

「配置につくのがメンドウだったから隅っこの方でサボってたら目の前にお手柄が落ちてきやがった! ツイてるツイてる、今日のオレはツイてるぜっ♪」

ハゲの方が嬉しそうにそう言い、斬魄刀の鞘でビシッと一護達を指差した。

「そしててめーらはツイてねえ。」
(何ならそのままサボっといてくれよ。そしたら俺達も“ツイてる”から。)

声には出さず胸の内だけでそっと呟く一護。
そのまま半眼になって黙っていると相手は何を思ったのか、 軽快なステップ(ということにしておく)で踊り始めたではないか。
ただし踊っているのはハゲの方でもう一人のオカッパは何食わぬ顔でその後ろに控えている。

(・・・何?)
『俺に訊くなよ。』

全くその通りな返事が返って来たので一護は続いて後ろの岩鷲に視線を送る。
岩鷲は一護の視線に気づくとブンブンと首を横に振ってきた。
どうやら「俺に訊くな。」と言っているらしい。
もしくは「尸魂界に住んでる奴らが皆こういうわけじゃない。」というところか。

その間にも本人曰く「ツキツキの舞」を踊り終えたハゲは、未だ砂の中に埋もれている一護達を見て、

「ナニ余裕こいて見とれてんだコラ!ヒトの厚意がわかんねえ連中だなオイ!」

と怒鳴る。

(見とれてない見とれてない。)
『呆れてただけ呆れてただけ。』
―――つーか抜け出すの待っててくれたんだ?

と二人同時に一護と白い彼が呟く。ただしこれも声には出さずに。
そんな一護に背後から岩鷲がこっそり声をかける。
相手の霊圧からして敵わないと判断したらしく、隙を見て逃げるべきだ・と。

(無駄なんじゃねーか?)
『行かせてやれよ。二対一でも一対一の各個撃破でもそんなに変わらねぇんだから。 ・・・それに上手くいけばお前もこのどっちかの相手するだけで済むんだし。』

どうせ逃げても岩鷲を連れたままではすぐに捕まるだけだろう・と、 早々に目の前の死神二人を相手にする算段を立てていた一護は、その相棒の言葉にふと動きを止めた。
わざわざ二人一度に戦わずとも片方に岩鷲を追いかけさせ、自分は一人倒して後からそれを追えば良い。
また、もし岩鷲がその一方を倒してくれたならそれに越したことはないのだ。

確かにそうかと納得して一護は岩鷲を振り返る。

「先に逃げといてくれて構わねぇぜ。」
「はぁ!?何言って・・・、ったく!やりたきゃてめえ一人でやっとけ!!」

一瞬一護のことも引っ張って行こうとしたようだが、一護本人にその気が無いと感じ取った岩鷲は 盛大に舌打ちして砂の中から飛び出した。
そして賞賛に値する速度で背を向けて走り出す。

「ア?仲間割れか?全く、手間かけさせんなよ・・・弓親。」
「わかってる。」

逃げていく岩鷲を見やりハゲがオカッパの名を呼ぶ。
弓親、と呼ばれたその人物は特に焦る様子もなく岩鷲を追いかけだした。
それを視界の端に追いやって一護はようよう砂の中から抜け出す。
死覇装についた砂を叩き落としながら「さーて・・・」とハゲへと不敵に笑いかけた。

「俺は黒崎一護。アンタの名前を聞いても?」

一護の様子に対峙する死神もニイと笑う。

「一護か・・・いい名前じゃねーか。俺は十一番隊第三席副官補佐、斑目一角だ!一の字同士仲良くやろうぜ!」
「やだね!」

お互い台詞を吐き出すと同時に切り結んだ。
キンッという音がしてどちらも“攻撃”するために振るわれた刃がかち合う。
続いて一呼吸分の間も置かずに一護が斬月を翻した。
一角はそれを左に持った鞘で受け止め、右手の刀を振るう。

「・・・っと!」

それを一角の鞘を踏みつけて跳躍することで躱し、一護は幾らか距離を置いて着地した。

(鞘、か・・・)
『お前のには鞘ついてねーもんな。』

そういう使い方もあるのか・と感心しつつ、一護は一角の斬魄刀を見やる。
始解していないそれは未だ普通の刀の形状を保ったままだ。

(三席っつーことは始解くらい出来るんだろうしなぁ。)

斬月など常時開放型であるから、できるなら相手の斬魄刀も始解した状態で戦いたい。
そう望む一護に白い彼は『なんならそう頼んでみれば?』と苦笑する。

「それもそうか・・・。 一角!見て分かるだろうけど俺の斬魄刀って常時開放型なんだよ!だからお前も始解して戦おうぜ!!」
「あ゛ァ!?」
「“あ゛ァ!?”じゃねーよ!ホラ始解しろ!始解!!」
「なんつー餓鬼だ。普通そんなこと言うか・・・?」

大いにふざけて「し・か・い!し・か・い!」と始解コールを始める一護に一角は頬を引きつらせる。
ちなみにこの始解コールは4回で終わった。白い彼が『アホっぽいから止めとけ。』と注意したためである。

とにかく。

相手が対等に戦いたがっていることだけは理解できたので、一角は一つ溜息をついた後、 正面の一護へと真っ直ぐに刃を向けた。

「それであっさりやられても言い訳は聞かねぇからな。」
「あっさりやられるつもりは無ェから言ってんだよ。」
「はっ!上等だぜ。―――延びろ!!『鬼灯丸』!!!」

ガッと鞘と柄を合わせて一角が叫んだ。
その境目が融けるように消えると“鬼灯丸”と呼ばれた斬魄刀が延び、その形を変貌させる。
始解した形状は槍。
それを構えて突撃してくる一角に一護は「ふーん。」と笑った。

(鬼灯丸、鬼灯丸・・・槍だったっけ?)
『いんや。アレは三節棍。』

一護の問いに白い彼が答える。
どうやら鬼灯丸については知っていたらしい。その持ち主は知らなかったようだが。
その間にも踏み込んできた一角が凶暴な顔を見せる。

「気ィ抜いてんじゃねーぜ!!」

一発目。一護は刃先を向けてきた鋭い一撃を顔を逸らして避ける。
二発目。一角が飾り房のついた方で突きを放ち、一護はそれを素手で受けた。

「・・・っ!」
「残念。」

そう言って一護が笑う。
視線の先、斬月の一閃が一角の死覇装を浅く斬っていた。
鬼灯丸を掴み取られて動きを封じられていたわけではなかったので、 背筋に嫌なものを感じた一角がすぐさまそこから退いたためにその程度で済んだのであろう。

一角は己の死覇装を驚きの様子で見る。

「・・・ほう。やるじゃねーか。」
「そりゃドーモ。」

一護は軽い調子で肩をすくめる。
そして次は俺からだと一角に突っ込んでいった。






















一角はそうだけど、一護も大概喧嘩好き(?)











 >>