岩鷲とひと悶着あった次の日の朝、一護達は長老から貰った地図を頼りに志波空鶴という人物の家を探して
人気の無い閑散とした土地を歩んでいた。
空鶴の知り合いである夜一曰くひと目でそれと分かる家らしいのだが、未だそれらしい建物など一つも見えない。 (そんなに変わった家なのか?) 『あー・・・うん、まぁな。』 歯切れの悪い相棒に一護は「ん?」と僅かに訝しむ。 すると白い彼は小さく苦笑を零して、 『・・・お前も見れば分かるから。』 とだけ言って口をつぐんだ。 アネトオトウト 1
「おっ、見えてきたぞ・・・・・・あれじゃよ。」
夜一が一軒の建物を認めてのたまった。 「・・・マジっすか。」 夜一の向く方向を見て、一護が一言。 出来るならばあれでは無い他のものであって欲しいと願うのだが、如何せん人気の無い閑散とした土地。 目の前に見える建物以外、人工物は認められなかった。 一護の周りでは彼と同様、皆、目を点にしている。 「フッ・・・今回の旗持ちオブジェは人の腕か・・・。中々良い出来じゃの・・・」 家に近寄りながら夜一が零す。 一見普通の一軒屋であるその家の前には石製の巨大な腕が二本生えていた。 さらに、腕が持っているのは「志波空鶴」と書かれた大きな旗。 家の背後にそびえる、これまた巨大な煙突とあいまって、 このまま回れ右で帰りたいと思ってしまっても仕方ないのではなかろうか。 あまりの外見の突飛さに冷や汗を流し立ち竦んでいた四人を夜一が振り返って見た。 「ほれ、どうした。早く来ぬか。」 『一護、呼ばれてるぜ。』 (あの家に入れってか・・・鬼め。) 相棒からも急かされ、一護はヒクリと頬を引きつらせる。 『人気の無い所に建ってて良かったなぁ。』 (・・・うぅ。) 先に歩み出していた夜一の背を追って一護も仕方なく一歩踏み出した。 その後を雨竜・織姫・チャドが続く。 サクサクと乾いた草を踏みしめながら歩き、空鶴邸に随分近づいた頃、 ふと自分達に対する敵意の混じった気配を二つ感じて一護は僅かに身構えた。 (なんだ・・・?) 「待てい!!」 大きな静止の声と共に現れたのは大柄な二人の男。 二人ともよく似た顔立ちで中華風の衣装に身を包んでいる。 空鶴邸の扉の前に立ったその二人は、腕を組み、険しい目つきで一護達を見下ろした。 「何者だきさまら!」 「奇っ怪ないでたちをしておるな!しかも一人は死神と見える!」 「怪しい奴らめ!この金彦と銀彦がきさまらを決して通しはせぬ!」 「去れ!さもなくばここで死ぬこととなろう!」 図体はデカイが、実力は相手の方が下。 そう判断しつつ交互に喋る大男を見やり、一護が面倒くさそうに斬月の柄へと手をかける。 「・・・また門番かよ。」 『そう言うなって。』 ウンザリとした様子の一護に相棒が苦笑を漏らす。 しかしちょうどその時、大男の片割れである金彦が一護の足元にいた黒猫の姿に目を留めた。 そして、くわっと双眸が見開かれる。 「・・・ん?・・・よ、夜一殿!?」 黒猫、つまり夜一が金彦を見上げて尻尾を揺らし、「うむ。」と悠然と頷いた。 「いやいや失礼致した!」 金彦の後ろにつき、夜一達は空鶴邸の中へと入っていた。 入り口からすぐ地下へと向かう構造に奇妙な感覚を味わいながらも、順に階段を下りて行く。 「夜一殿とそのお供とはつゆ知らず!ご無礼をお許しくだされ!」 「よい。先んじて連絡を入れなかった儂にも非はある。」 「はは!さすが偉大な方はお心が広い!」 等間隔に置かれたホタルカズラか何かで明かりを取っているのであろう薄暗い中で金彦と夜一の会話に耳を傾け、 そういえば・と一護は夜一が偉大な人物―――四楓院家の姫君だったのだと今更ながらに思い出す。 (お姫様の割りにしちゃアこういう場所に住んでる人とも知り合いなんだよなぁ。) 『おてんば姫様ってとこか。』 相棒の台詞にそうだな・と相槌を返し、一護が続ける。 (じゃないと浦原とも知り合いになってなかっただろーし。) 『いやいや。志波家も没落したとはいえ元大貴族だ。案外浦原の方も・・・』 (え、マジ!?) 『いや、知んねーけど。』 (オイオイ。) 「こちらで少々お待ちを。」 一護と白い彼が他愛無い会話を交わしている間に一行は階段を全て下りきってしまった。 金彦は下りた所で四人と一匹を待たせると障子で仕切られた部屋へと向かう。 「・・・金彦か。」 「はっ・・・はい!」 金彦が障子の向こうへ声をかける前に中から誰か。 その誰かは楽しそうな声を滲ませて金彦へと語りかける。 「珍しい奴がいるなァ・・・!開けろ。モタモタすんな!」 「はい!ただいま!」 さっと開かれた障子の向こうに人影。 掛け軸をかけた床の間の前に座るその隻腕の人物は 女性的な体を露出の高い衣装で包み、愉快気な顔で一行を迎えた。 「よう。久しぶりじゃアねぇか。夜一。」 |