再び瀞霊壁の外に押し出された後、チャドが以前現世でインコに憑いていた少年・シバタと再会し、
それから一護達は無事、白道門の近隣に住んでいた人々から受け入れられるようになった。
空に月がかかる頃、織姫が一護に言われジダン坊の治療を終えて長老の家に入れば、 庵の周りに夜一、チャド、長老、そして長老の斜め後ろに控えるように数人の若者が腰を下ろしている。 外に出ていた一護、織姫、雨竜の三人も同じように腰を下ろすと夜一は一護をひたと見据え、そうして静かに口を開いた。 「・・・昼間のこと・・・どういうことか、説明してもらおうかの。一護。」 ニクシミノタイショウ 1
「ジダン坊の事は良しとして、何故隊長格に一人で向かって行った?
そしてあの者、市丸ギンとはどういう関係じゃ?」
夜一の問いに、一護は一瞬間を置いて苦笑する。 声を出さず表情筋のみを動かして作った笑顔。 しかし視線を庵でくすぶる小さな火へと向けてから、それをすぐに引っ込めた。 「隊長格に向かって行ったのはジダン坊を殺さないため。 そしてアイツは・・・ギンは、昔現世に降りてきたときに偶然知り合ったんだ。」 「昔・・・?」 「俺が小学生の頃ってこと。・・・帰り道を歩いてたら何処からともなくふらっと現れて “今までよう生きてられたなぁ”って失礼なことを言ってきたのが最初かな。 って、その後再会したのは一回だけだったけど。だから実の所これといって仲が言い訳でもねぇんだ。」 「そうか。因果なものだと言ってしまえばそれまでだが・・・まぁそれならよしとしよう。 目下の問題はこれから如何にして瀞霊廷に入るかということじゃが・・・」 夜一が話題を変えるとその場の雰囲気から暗いものが抜ける。 真剣みを帯びていた夜一の顔が口角を上げることでニヤリとした笑いを浮かべたのもその理由の一つだろう。 「白道門は一度開けてしまったために警備が厳しくなっておる。それを突破しようというのも無理なことじゃろう。 しかし他の門まで行くには時間がかかりすぎる。一番近い門でも十日はかかるからな・・・ならばどうするか。」 「他の方法があるんですか!?」 雨竜が焦った口調でそう言えば、夜一は「案ずるな」と静かに笑い、尻尾をぱたりと床に打ち付けた。 「門がダメなら門以外から入れば良いだけのこと。」 さらりと告げられた案に一同はどういうことかと目を見開くが、その中で一護だけはなるほど・と内心頷く。 (空から行くってことか。) 『ああ。それならこれから向かう先は一つ。花火師の・・・』 そして白い彼の声に合わせるようなタイミングで夜一が長老に問うた。 「志波空鶴、という者の所在をご存知か。」 (浦原と夜一さんの友人で西流魂街一の花火師か・・・どんな人だろうな。) 『さぁね。それは会ってみてからのお楽しみってことで。』 くつりと笑う相棒に「さいですか。」と声に出さず返す一護。 白い彼も空鶴という人物を詳しく知っているわけではないようだが、だからといって如何と言うことも無い。 もし知っていたとしても他人から聞いた人物像はやはり自分が実際に会ってみて抱くものと異なってくるだろうから。 その側ら、夜一から志波空鶴の所在を訊かれた長老は垂れた小さな両目を思いっきり開いてその名を繰り返した。 そして。 「あんたがた・・・まさかあれで壁の中へ入るつもりかね・・・!?」 長老の顔は幾らか青ざめ、全身に細かな震えが起こっている。 その様子を一護は花火を使った無茶苦茶な進入であることに対してなのだと気づき、確かに普通はそうなるよな・と苦笑した。 しかし――志波空鶴の名が何を示すのか知らないのだから当たり前だが――長老の震えの意味を理解できない他の三人は各々頭上に疑問符を浮かべて首を傾げる。 「あの・・・あれって何なんですか?」 「なぁにそれはな。花び・・・」 ドドドドドド・・・・・・ガターン!! 織姫の問いに答えようと夜一が口を開いたその時。 扉の外から荒々しい複数の足音が聞こえ、直後、大きな音と共に長老の家の引き戸が外から破られた。 「ににに人間だー!?」 「人間が飛び込んできたー!!」 室内にいた者達はザッと立ち上がり、扉を破って入ってきた人影に目を丸くする。 さらに人影に続いて入ってきた大きな猪に再度目を丸くし驚きの声を上げていると、 先に飛び込んできた人影がさっと起き上がった。 「やれやれ・・・また俺のボニーちゃんに振り落とされちまったぜ・・・」 頭には派手なバンダナ、ゴーグルをした顔はやや濃い目、腰に肉厚な剣を下げたその人物は 人差し指と中指を立てた右手を額の所に掲げて「よっ!久しぶりだな、おっちゃん!」とポーズ。 何しに来た・とこめかみに血管の筋を浮き上がらせて叫ぶ長老に、ゴアイサツだな・と笑うその彼は 唖然としている周囲に目をやり、ある人物のところではたと視線を止めた。 同時に、弧を描いていた口が不機嫌さも顕わに歪められる。 その不躾な視線に曝されて、ある人物――― 一護が半眼気味に「なんだよ」と呟いた。 (喧嘩売られてる?) 『つーか憎まれてるっぽいな。これは。』 冷ややかに笑い、相棒がそう返す。 「・・・おんやァ!?なんでこんなトコにクソ死神サマがいやがんだァ!?」 レンズ越しに一護を睨み付けるその彼は、そう言ってゴーグルを取り去った直の瞳に嫌悪感を浮かばせた。 |