センケツトサイカイ 2
幾らか距離を取って対峙する。
不敵そうな笑み――しかしどこか悲しげな――を浮かべる一護と困惑の表情のまま立ち尽くすギン。 「・・・井上。ジダン坊の腕の治療たのむ。」 視線はギンに固定したまま、織姫たちに背を向けるその体勢で一護が大きくもない声で告げる。 「あ・・・はっ・・・はい!」 状況に頭が追いつかず唖然としていた織姫は突然の一護の行動と声にハッとし、慌ててそう返した。 織姫の返事とジダン坊の方に向かって行く彼女の霊圧を背中で感じてから一護はギンに向かって口を開いた。 「ホント・・・久しぶりだな。って、小学生の時にしか会ってねぇけど。」 「・・・い、一護ちゃん・・・?ホンマに?ホンマにあの一護ちゃんなん?」 困惑を声に滲ませながらギンが半歩だけ一護に近寄る。 「ちゃん付けで呼ぶなっつーの。このキツネが・・・じゃなくて。 “あの”が“どの”なのか知んねーけど、俺はアンタを知ってる黒崎一護だぜ? それにこんな髪色の人間も滅多にいねーだろ・・・?」 自分の髪を摘まみ上げて苦笑。 「オレンジの・・・萱草色の髪・・・・・・それに身の丈ほどもある大刀・・・黒崎、一護・・・。 同じ髪の色した同姓同名ってワケにはいかんのやね・・・」 顔を伏せ、そう呟いたギンに一護はもう一度だけ笑みを浮かべた。 やはりどこか悲しげなそれを。 『一護・・・』 (ん?何・・・?) 『・・・・・・いや。何でもねぇ。』 名前を呼んだは良いが、言葉を濁らせ何も言おうとしない白い彼に一護はこっそりと苦笑した。 (心配無用。元々考えればわかるようなもんだろ?・・・ギンは藍染の元副官だ。) だから、大丈夫。 白道門に立っていたのは現在の三番隊隊長ただ一人。 そんなおかしな状況に先程の早すぎる瀞霊壁の落下をあわせて考えれば、 この状況自体おそらくは藍染が計画していたものであるという事は容易に想像できる。 つまり、目の前の知り合いは現在の自分の敵であるということなのだが・・・ 平気だと応える一護に白い彼も口調を変えて口を開く。 『・・・んじゃ、これからどうする?一応相手さんの計画にも乗ってやるか?』 (ああ。・・・そうだな。) 相棒とこれからの行動を簡単に話し合った後、一護はずっとそのまま黙り込んでいたギンに話しかけた。 「アンタは、俺を殺すのか?」 (って、どうせ殺さねぇんだろうけど・・・こいつ一人ってのは俺たちを逃がして泳がせるためだろ。どうせ。) 藍染の手下が他の者を連れず一人で現れた理由はそれくらいだろうと考えた一護が ギンにカマをかけるつもりで告げた言葉。 ・・・もしかしたら知り合いとしての幼稚な皮肉だったのかもしれないが。 それに対し、ギンの肩がピクリ・と動く。 それからゆっくりと一護に顔を向け、困ったように笑った。 「・・・・・・ただの・・・ただの霊力が高い人間でいて欲しかったわ・・・一護ちゃんには。」 この状況を飲み込めていない織姫・チャド・雨竜・夜一が静かに見守る中、 ポツン・とその声だけが響く。 ギンの言い方に今は生かすつもりでも最終的には殺すんだろうと見当をつけた一護は それとは別の部分で、そういう風に冷静に判断する己の頭に僅かばかりモヤモヤとした思いを抱えた。 が、無視する。 一護が何も応えぬまま立っているとギンは背を向けて歩き出し、かなりの距離を取ってから振り返った。 (・・・っそんな顔してんじゃねーよ。) ギンの表情を見て一護が胸中で告げる。 するとその声が聞こえたかのようにギンは一瞬だけ悲しそうに笑い、脇差のような短い斬魄刀を鞘から抜いた。 左足を引き、体を横に向ける。 脇を締め右腕をぐっと引いて左腕を刃の上へ。 そして――― 「射殺せ『神鎗』」 右腕を思い切り前へ突き出したギン。 その刃がまっすぐ一護に襲い掛かる。 ガンッ 直に斬月の刃でそれを受け止め、少しでも衝撃を殺すかのように一護は後方へと地面を蹴った。 宙に浮く格好になった一護はそのまま門を支えていたジダン坊の胸にぶつかり、二人揃って門の向こう側へと押し出される。 「く・・・黒崎くん!!」 「黒崎っ!!」 門の外にいた織姫と雨竜が名を呼ぶ。 しばらく傍観者となっていた三人と一匹は急いで一護の元へ走ろうとするが、途中で夜一がハッとなって叫んだ。 「しまった!!門が下りる・・・っ!!!」 地鳴りのようなゴォォォという音と共に巨大な門が落下してくる。 その向こう。 瀞霊廷内にただ一人立っているのはギン。 夜一と、斬月の影からそちらに視線をやってた一護がその姿を捉えていた。 ギンは門が閉まる直前、再びあの悲しそうな笑顔を浮かべるとほとんど口の動きだけで小さく小さく呟く。 「バイバイ・・・一護ちゃん。」 ゴォン・・・ 門が完全に下り、再び大きな隔たりが出来上がった。 |