オオイナルバンニン 3
「話はすんだか・・・?」
「別に?元々待ってくれなんて頼んだ覚えはねーけどな?」 そんな一護の言い様にジダン坊の表情がピクリと歪む。 「・・・やっぱすお前も田舎もんだな。礼儀ってもんがなっちゃねぇ。待っでもらっだら・・・」 ジダン坊が右手の斧を振り上げた。 「ありがとだべ!!!」 轟音。 そして激震。 振り下ろされた斧が大量の石片を撒き散らす。 ・・・と、直後。さらに何かが壊れる音と共にジダン坊が後方に吹っ飛んだ。 「・・・ったくさぁ・・・こっちが構える前に斬りかかるのは礼儀知らずって言わねぇのか?」 斧が振り下ろされた辺りから声。 上がった土煙のために様子を窺う事は出来ない。 ただ声だけを耳に入れながらジダン坊が起き上がった。 「な・・・何だお前え・・・!?」 土煙が晴れ、一護の姿を捉えたジダン坊は声を引きつらせた。 一護は先刻と全く同じ所に立っている。 その足元には粉々に砕け散った―――斧。 言葉をなくしたジダン坊を見上げ、一護が淡々と口を開く。 「何って・・・アンタの斧を俺に当たらないようにしただけ。」 ―――斬月で受け止めるよりこっちのほうが楽だしな。 そこまで言い、一護は次にジダン坊の懐を指差した。 「あと、アンタたしか二刀流だろ?もう一本の斧もついでに壊させてもらったから。」 「な、何を・・・」 目を見開き、ジダン坊は己の懐に手を入れる。 取り出されたのは柄だけになった斧の残骸だった。 『振り下ろされた斧を斬月の一閃で壊し、そして霊圧を乗せたまま返す刃の剣圧で離れた懐のもう一本も・・・。 随分と力の調整も上手くなったもんだ。』 (ま、これぐらいなら。) 『つーか武器だけなんだ?壊すの。』 (ああいうタイプは武器壊すだけで退いてくれんじゃねーの? それにホラ、俺も個人的にそっちの方がいいし。血も流れないからな。) 『左様で。』 白い彼がそう締めくくり、二人の会話は途切れた。 一護の目の前では未だ呆然と二本の柄だけになった斧を見下ろしているジダン坊。 やはりこの手のタイプは武器を壊すだけで充分だったな。 そう確認し、踵を返した一護であったのだが・・・ 「オラの・・・」 「ん?」 頭上からの声に一護は意識をジダン坊へと戻す。 「オラの斧がぁ・・・!!」 「な・・・」 『泣きやがった。』 ジダン坊の瞳に涙。 その様子に一護も、そして白い彼も唖然とする。 「ご・・・っ壊れぢまっだ!オラの斧が・・・」 地面に顔を伏せ大声を上げて泣く巨漢の死神。 「壊れぢまっだあ゛あ゛あ゛〜〜!!!」 うおおんおんおおおぉぉぉ・・・ まるでサイレンのような泣き声が辺りに木霊する。 (うっわー・・・マズったな。) 『とりあえず謝っとけ!これじゃあ五月蝿くてかなわねぇ・・・』 (そうだな。) 一護は相棒に返し、ジダン坊の頭の方へと近づく。 「え・・・えっと・・・わ、悪かったな。斧壊しちまって・・・何も二本とも壊すことなかったよな。俺も・・・な?」 先刻までの強気な態度は何処へやら。 やはり生粋の“お兄ちゃん”であるためか。泣かれるのに実は弱かったらしい一護が宥めるような声を出す。 するとジダン坊は一護の方に顔を向け、 「お・・・お前え・・・っ!!いい奴だなぁ・・・!!」 ぶわっと涙を溢れさせた。 (なんだろ・・・!?俺、今すぐここから逃げ出したいです!) 『わかる!それはわかる・・・が、しかし待て!』 ジダン坊には失礼だがあまり見ていたくない泣き顔に一護の腰が引きかけていた。 それをなんとかその場にとどめ、大量の冷や汗を流しながら目の前の巨漢と対峙する。 ある意味、本能と理性がせめぎあって動けなくなってしまった一護の状態に気づかぬまま、 ジダン坊は涙声で言葉を続ける。 「お前えどオラは敵同士・・・だのにお前えは負げだオラの心配まですてぐれる・・・」 そして巨大な手でその指一本分の厚みもない一護の肩をがしっと掴み、 「でけえっ!なんて器のでけえできた男なんだお前えは!!」 と、悲しみの涙に続いて――おそらく――感動の涙を流した。 ちなみに、 「イヤ・・・つーか目の前であんだけ泣かれたら慰めざるを得ないっつーか・・・」 という一護の台詞は無視されている。 「それにひぎがえ、何だオラは。斧が折れだぐれえでベソベソすで・・・。 男とすでなさけねえだ!!・・・・・・完敗だ。」 「は?」 ジダン坊が立ち上がり、再び見上げる格好になったまま一護は一音だけ発した。 それに構わずジダン坊は両手を高く上げて叫ぶ。 「完敗だっ!!オラは戦士とすでも男とすでもお前えに完敗だ!!!」 涙を拭ったジダン坊は一護をまっすぐ見つめてさらに続けた。 「この白道門の門番になって三百年・・・オラは一度も負げだこどがながった・・・。 お前はオラを負かすだ初めでも男だ。 ・・・・・・通れ!白道門の通行をジダン坊が許可する!!」 高らかにそう宣言したジダン坊に一護はフッと笑みを刻んだ。 「おうっ!」 |