「土煙がはれてきたぞ!」
雨竜の声に残りの三人と一匹が振り返る。 断界を抜けた時の着地が凄まじかったらしく、その衝撃で上がっていた土煙。 それが晴れ、見えてきたのはかわぶき屋根の家々だ。 見慣れぬものに目を見開く。 時代劇の撮影現場のような光景が一行の目の前に広がっていた。 オオイナルバンニン 1
「ここが尸魂界・・・」
「そうじゃ。」 一護の呟きに夜一が返す。 「ここは“郛外区”。俗に『流魂街』と呼ばれる場所じゃ。 尸魂界へと導かれてきた魂が最初に住まう処で、死神たちの住まう『瀞霊廷』の外縁に位置する。 尸魂界の中で最も貧しく最も自由で、最も多くの魂魄が住まう場所じゃ。」 「へぇ・・・その割には人影が全然・・・」 まさに“時代劇のセット”のように家があるだけで人っ子一人いない周囲の状況に雨竜がそう呟く。 「いきなり出てきた俺たちを恐がってんじゃねーの?」 (“旅禍”だし。) 一護がポツリと言えば、「そんなっ!なぜ!?」と雨竜。 「僕たちは着いたばかりでまだ何もしていないぞ!?それなのに何を恐れる理由が・・・」 「いや。今の儂等は『旅禍』・・・死神の導きなしに不正に尸魂界へきた魂魄じゃ。 そして尸魂界では、旅禍はあらゆる災厄の元凶とされる。 だからここの者たちにとって儂等はいるだけで恐怖の対象となり、こうして姿を見せんのじゃよ。」 そう言って、ぱたりと漆黒のしっぽを揺らした。 「・・・そうなんですか・・・・・・・・・あれ。向こうの方はずいぶん街並みが違いますね。」 雨竜の問いに夜一は彼と同じ方へと視線をやって答える。 「あちらに見えるのがさっき言っておった瀞霊廷じゃ・・・っと、コラ!一護!!迂闊にそちらへ近付くな!!」 雨竜の問いに答えていた夜一が、突然一護に向けて叫んだ。 金色の瞳が驚きの表情のまま見つめる先。 そこには瀞霊廷へと走る一護の姿があった。 「わかってるよ!」 後方から聞こえてきた夜一の叫びに一言だけ返す。 しかし、ただそれだけで、未だ一護は足を止めない。 (あの瀞霊廷と流魂街を仕切ってるようなでっかい溝・・・あれも殺気石で作られてんのか?) 『ああ。向こう側にいるはずの死神達の霊圧がちっとも感じられねぇだろ? 瀞霊壁に使われてるモンに比べりゃごく少量だがそれでも大抵の魂魄には充分だ。』 (んじゃ、近付きすぎるのはヤベェな。) 『おう。いくらお前でもそうそう突破は無理だと思うぜ。』 霊力を完全に遮断・分解する作用を持つ殺気石が使われているとなると流石に止まらざるを得ない。 相棒の答えにそう判断した一護は、ズザァと砂埃を巻き上げながら溝のすぐ手前で足を止めた。 そしてくるりと振り返り、夜一たちに向かって叫ぶ。 「この辺りに白道門っていう門が出来るんだろ!? なら、ここから通れねぇか試してみようぜ!最短距離なんだから!」 「・・・!浦原から門のことまで聞いておったのか!?」 知らないと思っていた知識を口にした一護に対し、夜一が驚きながら問う。 一護は一瞬どう言うべきか迷ったが、すぐに「そうだ。」と答えておいた。 本当のことを話してもその説明に時間がかかりすぎるし、何より面倒だったからだ。 「ここってあのジダン坊が守ってるんだろ? だからどうせ夜一さんなら他の行き方も考えてるんだろうけど、それならダメもとでやってみよう・・・ぜぇっ!?」 一護が言い切る前に轟音。 そして大きな振動。 もうしばらく時間がかかると踏んでいたのだが、予想外に早く瀞霊壁が落ちていたのである。 「ちょ・・・早すぎねぇか?」 『ああ。俺たちが来て、まだそんなに時間もたっていない・・・予想されてたな。俺たちが西流魂街に来ること・・・』 「・・・西は浦原の拠点だからな。それにしても・・・藍染、か・・・」 次々に短冊状の――その一つ一つが非常に巨大な――瀞霊壁が落ちてくる振動を感じながら、 土煙の中、一護は己に聞こえるだけの音量で小さく呟く。 そしてこっそりと口端を持ち上げ、笑った。 「でもまぁ・・・門が早く降りてきたのはラッキーかな?」 ―――門の向こう側に何か仕掛けてあんのかも知れねーけど。 「久し振りだぁ・・・通廷証もなすにごの瀞霊門をくぐろうどすだ奴は・・・」 土煙も晴れだし、辺りが視認出来るようになった頃、頭上から訛りのある声が降って来た。 瀞霊壁と共に土煙に紛れて現れていたことには霊圧でわかっていたけれども、改めてその存在に一護は軽く目を剥く。 (でかいな・・・) 「久々のオラの客だ。もでなすど小僧!」 (コイツがジダン坊・・・スゲェ!) 巨大な門の前に立つ巨漢の死神。 その手に持った斧の一振りで三十体の虚を打ち殺したこともある伝説的な剛力の持ち主を、 一護は楽しそうな表情で見上げた。 |