ヒッシノシッソウ 2
ボウ・・・ッと背後に迫る壁の一部が光った。
ソレはすぐさま姿を現し――― 「「!!」」 夜一、そして一護が目を剥く。 猛スピードで迫ってくるソレは、巨大な列車のような形をした拘流の塊。 「『拘突』じゃ!!」 視認した夜一が叫ぶ。 『七日に一度現れる断界の“掃除屋”!ホント、タイミング悪ぃぜ・・・!』 (全くだ!) 今までの拘流の壁とは比にならないくらいのスピードで迫る拘突。 「とにかく逃げろ!!此奴は恐ろしく速いぞ!!」 夜一の声と共に走る一護たち。 「急げ!じき出口じゃ!!」 出口が近づく。 しかし――― 「だ・・・ッダメだ・・・!追いつかれ・・・」 チャドの肩に担がれているため後ろの状態が嫌でも良く見えてしまうためか。 雨竜の声に恐怖の色が混じった。 (ヤバ・・・ッ) 一護も表情に焦りが出る。 だが、その横で織姫が振り返り・・・ 「井上!?」 (まさか――!?) 『姫さん!?マジかよ!』 織姫が花形の髪留めに両手を遣る。 「井上、やめ・・・」 彼女のしようとしていることを悟った一護が止めようとするが――― 「火無菊!梅厳!リリィ!」 迫り来る拘突へと両手を翳し織姫が叫んだ。 「三天結盾!!私は拒絶するッ!!!」 ――――――爆音。 「ぷうっ!だいじょうぶ!?みんな!」 織姫の作り出した盾と拘突の接触によって四人と一匹は勢いよく断界から弾き飛ばされていた。 座り込んだままの織姫、片膝をついて見事着地に成功したチャド、尻を高く上げた形の雨竜、 うつ伏せになった夜一、そして一護は少しよろめきはしたものの両足でしっかり盾の上に立っていた。 「痛・・・。全く・・・ひどい目に遭ったな・・・」 そう言って雨竜が起き上がる。 そんな彼の横で織姫は、 「でもよかった!誰もケガがないみたいで!」 と笑ったのだが――― 「井上。」 織姫の上に影が差す。 立っていたのは一護だ。 一護は彼女の正面にしゃがみ込むと、厳しい顔でまっすぐにその瞳を見た。 そして。 パシン・・・ッ 「・・・え?」 織姫の頬を打った。 「井上・・・お前、夜一さんの話聞いてなかったのか? 拘突に触れたのが盾の部分だったから良かったけど、六花本体だったらお前の命は無かったんだぜ?」 鋭く、そして真剣な色を帯びた一対の琥珀。 それに射抜かれ、織姫は顔を伏せた。 そして、弱々しく呟く。 「・・・ごめんなさい・・・」 「・・・・・・・・・はぁ・・・」 一護から溜息が落とされ、織姫は肩をピクリと揺らした。 そして更なる叱責を恐れて身を硬くする。 しかし織姫にかけられた言葉は彼女が予想したものと全く別のものだった。 「・・・・・・心配、したんだからな。」 「黒・・・崎、くん・・・?」 弱々しい一護の声に織姫が顔を上げる。 そこには、いつもよりさらに眉間の皺を深くした・・・けれども温かい優しげな表情があった。 「ごめんなさい・・・」 スルリとその言葉が出る。 今度はきちんと相手の目を見て。 そんな織姫に一護は――― 「でも・・・ありがとな。井上のおかげで全員無傷で断界を抜けられた。・・・・・・あと・・・ほっぺた、ゴメンな?」 そう言って、ふわりと微笑んだ。 |