シンヤノショウシュウ 2
ギシッ・・・
フローリングを小さく軋ませながら、着替えた一護は玄関へと向かう。 タンタンッと軽い音をさせて正面玄関の方で靴を履き、それから一護はほとんど口の中だけで呟いた。 「じゃあな・・・遊子、夏梨・・・親父。」 俯いていた顔を上げてガラス製の扉を押し開く。 完全に開ききり、外へ踏み出せば・・・ 「グッモーニンッ!イッチ・・・」 頭上から声。 一護は半眼になり一歩横にずれた。 そして直後――― 「ゴーーーーッ!!」 ズドゴァ!!! 『うっわー・・・』 「・・・今の音はヤバいんじゃねぇの・・・?」 ダラダラと冷や汗を流しながら、一護は真横に落下してきたものを見下ろす。 人だ。 まごうことなき人である。 そして。 「だ、大丈夫か・・・親父?」 上から飛び降りそのままアスファルトに激突した一心に一護は恐る恐る声をかけた。 「はーはー・・・ぐおっ・・・今の攻撃をかわすとは・・・さすが我が息子・・・」 息も荒く、そして額からは思いっきり出血している一心。 「いや、攻撃って・・・・・・まぁいいけど。で、何の用だよ親父。」 そう言いながら一護は片膝をつき右手に力を集中させて一心の額に翳す。 詠唱無しに治癒の鬼道を――しかも生身で――使う息子に一心は目を細めたが、 出血が止まったのを確認すると「スゲーな。」と小さく感想を述べ、 そのまま鬼道について特に言及することなく一護に苦笑して見せた。 「ったく・・・あっさり流しやがって。」 「一応急いでるからな。浦原から招集かかったし。・・・で?」 再度促す一護に一心は面白くなさそうな顔をするが、しぶしぶといった様子で「これを、」と小さなお守りを取り出した。 「・・・?何だ、このきったねーお守りは?」 “守”とだけ書かれたお守りを受け取って一護は小首をかしげる。 一見ただの小汚いだけのものだ。 しかしとりあえずもう一度よく見てみると――― 「・・・・・・あれ。何か施してあんのか?」 微かに力を感じ取り、一護は目の前の父親に問いかけた。 「お、気づいたか。」 立ち上がった一心はそう言って軽く感心したように笑う。 「オメーが出かけてる間、そいつをコンに持たせておいて欲しいんだ。確かアイツ、今は浦原のトコにいるはずだから。」 「コンに・・・?」 やはりコンのことも気づいていたか・と思いながら一護は呟く。 (つーかコンのやつ浦原のトコにいたのか。) 『大方行き倒れてる時に拾われたんじゃねーの?』 (行き倒れ・・・まぁ有り得るか。) 「俺も浦原も流石に及ばねーことだってあるからな。何かあった時のために守り札でもつけといた方が良いだろ?」 「・・・そっか・・・サンキュ。」 ぐっとお守りを握り締め、一護は一心を見た。 コンのことまで考えてくれている彼に改めて尊敬の念を抱きながら。 「・・・んじゃ、行ってくる。」 「おう!」 ニカッと笑う父。 そんな彼を後に一護は勢い良く走り出した。 「井上!」 「黒崎くん!?」 浦原商店に向かう途中で見かけたのは動きやすい服装の井上織姫。 一護同様あの悪趣味な招集がかかったらしく、同じ方向を向いて走っていくのだが・・・ 「どうした?元気ねえな?」 いつもより多少落ち込んでいるらしいのに気づいて一護が声をかけると、織姫は「うん・・・実は・・・」と口を開き、 「ツッコミの才能がないって言われちゃって・・・」 がくり・・・と暗いものを背負って頭を垂れた。 『姫さんもか。』 そう言った白い彼の台詞に、僅かな親近感らしいものが含まれていたことには気づかなかったことにする。 一護は前を向き織姫と並走しながら小さく苦笑。 それから「しかし・・・」と話しかけた。 「浦原・・・サンから聞いてはいたけど、ホントに行くんだな・・・」 「うん。」 『さん付けかよ。』 (一応、な。) 相棒に短く返して横目で織姫を見る。 「・・・いいのか?」 此処のような安全は保障されない。 痛い思い、苦しい思いをするだろう世界にそれでも行くというのだろうか。 僅かに眉間の皺を深くして一護は織姫にそう問いかけた。 「いいの!自分で、そう決めたんだから!」 答えた織姫の顔は笑みを形作り、声は明るく優しい。 それを見て一護も表情を緩める。 「そっか。・・・・・・じゃあ急ごうぜ!」 タッと二人分の軽快な足音が深夜の住宅地に生まれた。 目的地に到着すれば既にチャドが来ており、いくらか遅れて石田もやって来た。 4人揃ってしばらくするとカランと下駄の音がして、 「全員揃ってるっスね。結構結構v」 と現れる浦原。 「さてと。そんじゃ中で説明しましょかね。尸魂界へ行く方法。」 商店の引き戸を開けながら、浦原は集まった4人の現役高校生たちを見つめる。 「ちゃんと聞いといてくださいよォ・・・でないと、尸魂界へ着く前に死ぬことになる。」 ふざけた感じが抜けない口調。 それでも告げられた台詞にはしっかり重みが宿っていた。 |