8月7日 午前1時
黒崎家 一護の部屋




「・・・これでいいんだよな?」

そう言って一護はベッドの上で窓を開けた体勢のまま、七日前に言われたことを思い出した。
"七日後の午前1時!マドを開けて待っておいてくださいね!"
おちゃらけた調子のまま、浦原が十日間の勉強会・・・否、手合わせ終了時に一護に告げた言葉である。

“窓を開けて待つ”
どうせ穿界門の準備が整ったという知らせが来るのだろうと予想はつくのであるが―――

「イヤな予感がバシバシする・・・」

半眼になって呟き、一護は眉間の皺を深くした。












シンヤノショウシュウ 1











「静かだな・・・」
『ああ。』

少し遠くにビルの明かりが見え、微かに車のエンジン音やクラクションが聞こえる程度。
月は満月よりも幾分欠けて空に浮かんでいる。

静かな夜。

そう。静か過ぎる・・・・・・?




「あ。」

突然思い出したように一護が声を出した。

『どうした?』

相棒が問いかけると、一護は冷や汗を一筋流して「い、いや・・・」と呟く。

『ん?』
「いや・・・その。アイツのことすっかり忘れてた。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。』

しばらく考えて白い彼もようやく思い出したと手を打ち鳴らす。

『改造魂魄か。』
「そ。ヤッベェ・・・コンのことすっかり忘れてたって。」

浦原のところから帰ってきて以来、ちっとも姿を見かけなかったライオンのヌイグルミ。
頭の中から彼のことが完璧に抜けてしまっていたのに気づいて、一護は乾いた笑を零しつつ頬を掻いた。

「・・・ま、何とかなるか。」
『何とかなるだろ。』

結局はそう終わらせてしまうのだが。
と、無理矢理一段落つけた一護の頬をサア・・・ッと風が撫でた。

「いい風だなー・・・」

そう言って窓の外を覗く。
人口の明かりに照らされて薄まった闇色の中、弱々しくではあるが輝く星々。
しかし、その一つに異様なものが・・・

「・・・あ?」

キラッと光った一点に気づき、一護は不振そうに声を上げた。

「何・・・」



ドヒュッ!!

ドチャッ!!!



高速で飛来してきたソレは一護の目の下を掠めて押入れのドアに生々しい音と共に激突した。

「・・・な・・・ッ」

目を見開いて振り返る。
視線の先では、軽く成人の頭ぐらいの大きさを持ったソレが弾け、べっとりと赤黒い液体を滴らせていた。
その惨状を前に、一護は目の下にチリチリとした痛みを感じながらやけくそ気味に叫ぶ。

「何だ今の!?つーか何だよこれ!?浦原だろ!?浦原の野郎だな、こんちくしょう!!」
『なんかそれっぽい絵があったしな。』

ソレに描かれていたイラストが確か浦原喜助の顔だったと呟く相棒をよそに、
ぶちまけられた液体はドロ・・・ズル・・・と何かを形作っていく。
そこに現れたものとは―――

『これからすぐに商店前に集合・・・か。』

血文字のようなそのメッセージを読み上げた白い彼は『だとさ。』と一護に声をかけた。

『・・・一護?』

反応を返さない一護に相棒が名前を呼ぶ。
一方声をかけられた本人はと言えば、先程一度叫んだだけで――どうやらそれだけで気が済んだらしい――、 あとはメッセージにじっと目をやっていた。
未だに液体はズルズルと流れ落ちており、さらに何かを表そうとしているようでもある。

『ダイイングメッセージっぽいよな、コレ。・・・にしては文字が大きすぎるか。』
「んー?あぁそうだな。でもこれちゃんと落ちんのか?このまま消せずに残るってのは勘弁してもらいたいんだが・・・」
『気になるのはそっちかよ・・・』
「おう。」

簡単に返した一護に白い彼は溜息をつき、そうしてメッセージの方に意識を戻す。

『続きがあるみたいだな。』
「あー・・・なになに?・・・P.S.・・・今これを見てダイイングメッセージみたいとかありきたりな事を思った人は・・・」
『ツッコミの才能がない人です。』

一護の続きを口にした相棒はそのまましばらく黙り込み、そして―――

『・・・・・・別にツッコミの才能はいらん。』

そうポツリと零した。






















静かな〜この夜に〜あなたを〜待ってるの〜(違)











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