姿が消え、風が舞い、砂塵が渦を描く。
そして最後に声。 「甘く見てると怪我するぜ?」 その言葉を理解したのは剣が交わった後だった。 ヨユウトユダン 3
「・・・ッ!」
思っていたよりも強い力に浦原は目を見張る。 「言ったろ?甘く見てると怪我するって。」 「確かに。遊んでちゃァいけませんね。」 浦原の台詞に一護が薄く笑みを浮かべた。 「そうそう。俺だって少しは虚を斬ってきたんだから。」 キンッと剣を弾き、後方に大きく跳んで互いに距離をとる。 一護の口がニヤリと弧を描き、その瞳には楽しそうな色が現れた。 (やべぇ、テンション上がる。やっぱ人型は違うね。) 『ほどほどにしとけ。』 以前、覚悟を教えて欲しい・などと言っておきながら、今の一護の心情は全くもってそれとは異なっていた。 覚悟もなにも、どちらかというと戦いを楽しんでいるような節がある。 それもそのはず。 もとから一護には“覚悟を教えてもらう”などという気は無かったのだから。 (どれくらいやりゃ良いかな。) 『力加減を知るためにあの浦原喜助を使うんだから、お前も大したもんだよ。』 わざわざ此方が思ったことに反応を返す相棒に、一護は心中で笑って返す。 (だってそうだろ?俺が相手してるヤツって言えば、虚か・・・それよりもっと怖ぇ化物じゃねーか。) 死神という名の「ヒト」相手にちゃんと戦ったことなんて無い。 でも今、此方がどの程度の力で戦えば望む結果が手に入るのか、それをきちんと知る必要が出てきた。 『ほう?その化物って一体誰のことかねぇ?』 (鏡見てみな。会えるから。) 自分とそっくりな形を持ちながら、此方がその足元にも及ばないほどの実力を持った精神世界の白い彼に、 一護はふざけた調子で言ってのける。 『そうか。そう言うか。・・・よし、一護。あとで覚悟しとけ。』 (げ。) 言われたことを理解して、一護はしまったと僅かばかり顔をしかめた。 その表情の変化に気づいた浦原が帽子の影でこっそりと片眉を上げて「どうかしました?」と声をかける。 「いや、なんでもねぇよ。」 おっと顔に出てたか・と口の中だけで呟いて一護は浦原を見据え、再度斬月を構え直した。 浦原も右足を後ろに引き、紅姫の刀身に左手を添える。 腰を落として重心は前に。 「「・・・っふ、」」 まったく同じ呼吸のタイミング。 地を蹴り、その一瞬後、烈風が吹き荒れ剣が打ちあわされた。 高い金属音が響き、その音が消える前にもう一撃。 一拍置いてさらにもう一撃。 三度の金属音を響かせて二つの影が離れる。 そのまま並行に走り出し、岩山の陰で互いに相手の姿を見失ってから、 浦原は上へ飛び、一護はそのまま走り抜けた。 「・・・はっ!」 岩山の頂上に足をつけた浦原が剣を大きく横に振り剣圧を飛ばす。 それを気配で感じ取り一護は急に方向転換。 スピードを落とさぬまま無理矢理直角に曲がってそれを躱す。 一発目を回避された浦原はもう一度一護に向けて剣圧を飛ばした。 一護がこっそりと口を歪める。 恐怖でも焦りでもなく、ただ楽しげに。 「行くぜ、センセイ。」 砂塵を巻き上げて一護が足を止め、振り返り様に岩山の上の浦原に向けて斬月を振るった。 放たれた不可視の刃が浦原のそれを巻き込み更に突き進む。 そしてその足元に衝突。 足場を大きく崩された浦原は素早く飛び退き地面に着地した。 一護と浦原の間を隔てるかのように遅れて降って来た岩と砂が煙幕を張る。 「・・・なかなか。」 まさかここまでやれるとは・と続ける浦原に急に声が届いた。 「そりゃどうも。」 土煙を突っ切って現れた黒い影にすかさず応戦。 少年の声と同時に受けた衝撃を横に流し、浦原は大きく後ろに跳ぶ。 しかしそれに追随して、土煙を纏いながら一護が飛び出した。 「本気出せとは言わねぇけどさ、それでも遊ぶのはそろそろ止めてくんない?」 (目的が果たせねーじゃん。) 剣を合わせたまま一護が浦原を見据え不満を口にする。 それに苦笑し、浦原が「そう?」とおどけて見せた。 「あんまり遊んで無いっスよ?これでも。」 「あんまり、ってなんだよ。ホントに斬るぞ?」 「ありゃ。ちょっと怒っちゃいました?」 「まさか。これは忠告だぜ。」 言って一護は斬月を振るう。 今までで一番力が込められていたそれに浦原が吹き飛んだ。 そうして別の岩山の中腹に激突。 「ったく。」 遠く離れた所で「店長!」と叫ぶ声がする。 前方で上がった砂埃を視覚で捉えながら一護は短く溜息をついた。 「早く動かねぇと、上からデッカイ岩が降って来るぞー。」 そう言った一護の見据える先で、直後、岩山の一角が大きく崩壊。 「あーあ。言わんこっちゃ無い。」 言い残して、一護は“真面目にやらなかったために罰を受けた下駄帽子”を救出に向かった。 勉強会一日目、終了。 |