“本日閉店。”
そう書かれた紙を店の正面のシャッターに貼り付けるのが、本日の一護の最初の仕事となった。

「んー・・・お世話になりっぱなしってのも悪ぃから手伝わせてくれって言ったのは俺だけど、 まさかその最初の仕事っつーのが、店を閉めることだとはなぁ・・・」
『コッチに専念してくれるってことだから良いんじゃねェの?』
「まぁね。」

ポツリポツリと傍から見れば独り言、本人達にとっては立派な会話を続ける一護は 昨日の夕食の際に手伝いを申し出た時のことを思い出した。

初めのうちは、そんな気使いする必要も無いと浦原・テッサイの両名から言われたが、 それでは此方の気がすまないと一護が頼み込み、最後の最後に仕方ないと折れもらったのだ。
ただし、任されたのは今のようなかなり軽めの仕事ではあるが。

セロハンテープでペタリと紙の四隅を貼り付けた一護は弛みの無いことを確認して「よし。」と小さく呟いた。
それから再び相棒に語りかける。

「この店閉めるってことは、その間死神の客が来ないってことだろ? 駄菓子屋の方の売り上げはいいとしてソッチはどうするんだろ。結構な損失だと思うんだけど。」
『それほどまでに取り返してぇものがあるってことなんじゃねぇの?』
「お前まだ言うか。そのこと。」

先日、ルキアの義骸の異常さに気づいたときに口に出した「仮定 」のことを掘り返す相棒に、 自分もそうかもしれないなと思った事とはいえ、一護は呆れた声を出す。

「ま、いっか。」
『ま、いいじゃん。』

この話題は終了と言うように、少し強めの風が一護の頬を撫でた。












ヨユウトユダン 1











「ここから“勉強部屋”に降りるんスよ。」

商店のシャッターにビラを貼って一護が戻ると、浦原は店番の際にいつも腰を下ろしている箇所を指差して言った。
三畳ほどのその空間は、現在、奥の方にある畳一枚だけが位置をずらされ、地下へと続く梯子らしきものを覗かせている。

「地下でやんのか?」
「ええ。地下ならどれだけ暴れても上には支障ありませんし。」
「ふーん。」

そう軽く返事を返して、一護は畳一枚分の穴を覗き込んだ。

「おー・・・結構深いな。」
「深いだけじゃァありませんよ?」

一護の呟きにクスリと笑って浦原が言い、そうして「そんじゃ、降りましょうか。」と促す。

「テッサイ達は先に行ってるんで、残るはアタシ達だけっス。」
「おう。」

一護が返すのを聞き、浦原は「それじゃァお先に。」と梯子を使わずその穴に飛び込んだ。

「黒崎サンはちゃんと梯子使ってくださいねー・・・」

ドップラー効果で徐々に低くなる声を残しながら小さくなる浦原の姿を見つつ、一護は感嘆の意を込めて呟く。

「おお。スゲースゲー。」
『所詮、アレは人の形を模したものにんぎょうだ。』

相棒の冷めた言い様に「まぁそれもそうか。」と考えて一護は梯子に手をかけた。
















「どっひゃーーーーーー!!なんだこりゃーーーっ!!?」

とてつもなく広い空間に一人の人間の叫びが響き渡る。

「あの店の地下にこんなバカでかい空洞があったなんてーーー!!」

くわっという効果音がつきそうな勢いで声を出す人物に一護は軽く溜息をついた。

「あーハイハイ、わかりましたよ。わかったから、俺の代わりに叫ばなくてもイイって。」

これでも充分ビックリしてるから・と呆れた声を出す一護。
しかしそれをサラッと躱し、叫んでいた人間―――浦原が「フフフ・・・そうです!」と満足そうに此方に振り返って続ける。
その目がキラリと光ったように見えたのは気のせいだろうか。

「なにを隠そうこの“勉強部屋”! 黒崎サンの為に我々のオーバーテクノロジーの粋を結集して、たった一昼夜で完成させたシロモノなのです!」
「・・・ワー嬉シイナ。本当ニ何ト御礼ヲ言ッテ良イヤラ。」
『無視されたからって拗ねない。拗ねない。』

抑揚の無い声で淡々と言葉を紡ぐ一護に相棒が苦笑し、一応は自称保護者として声をかける。

「・・・ちっ」
『舌打ちもしない。』

更にわざとらしく拗ねて見せる一護に笑みを深めて、白い彼がその行為をたしなめた。
一護はリョーカイ・と心の中だけで返事を返してから一度大きな溜息をつき、 そうして隣に立つテッサイに声をかける。

「・・・あれか?あんたらの店長はヒトを無視して話を進める主義なのか?」

一護の問いかけにテッサイは冷や汗を流すことで返した。
そしてタイミングを見計らってのことかそれとも偶然か、浦原が上空もとい空色の天井を指差して告げる。

「閉塞感を緩和するために、天井には空のペイントを!」
「刑務所と同じ考え方だな。」

呟く一護を他所に、続いて浦原はカラカラに乾いたまま地面に突き刺さっている木々を指す。

「心に潤いを与えるために木々も植えておきました!」
「一本残らず枯れているところを見ると、これは俺に対する嫌がらせか?」
「・・・・・・」
「冗談だ。」

恨めしそうに視線を向けてきた大人に一護は速攻で、ただし淡々と返した。

「頑張ったんですよ?」
「こんだけデカいものを他人様の家の地下に作ったのは・・・まぁ犯罪だろうがいいとするか。」
「随分ときつめの評価っスねー」

と笑い、それから浦原が杖を取り出して構える。

「そんじゃ、まずはキミの魂を抜きますね。」

コツン、と杖の先端を一護の額に当てて浦原が力を入れようとするが、 しかし「自分でやる。」という一護の台詞に動きを止められた。

「・・・え?」

呟く浦原。
その目の前で一護の体が二つに分裂―――否、死覇装を纏った魂魄体が現れた。

「なっ!?」
「えぇ!?」
「っ!!」
「なんと!!」

四通りの驚きを感じつつ、一護は浦原に視線を合わせる。

「これが、昨日俺の言ってた理由だ。」

死神化と同時に開放された霊圧により、無風のはずの地下空間に強烈な風が吹き荒れた。






















一護君、ちょっとだけヒミツを公開。











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