私は貴方を護りたい。
・・・ううん。違う。 私は貴方を護るよ。絶対に。 ソンザイノショウシツ 2
終業式もその後のホームルームも終わって、さぁ帰ろう・とした時、啓吾が夏に皆で合宿をしたいと言い出した。
しかし明日から例の“勉強会”があるため、一護は集まったクラスメートの先陣を切って断った。 続いて織姫、竜貴、みちる、チャド・・・と誘いを断り、それに言葉をなくした啓吾が隣を見れば――― 「あ。僕・明日からプーケット。」 年上キラー水色のセリフに啓吾がキレた。 騒がしい二人を皆と一緒に少し離れた所で傍観しながらも、一護は目の前の事とは別の事で苦笑する。 ルキアが居ないのにちっとも違和感がない・という考えに。 (当たり前だ。アイツは元々現世の人間じゃなかったんだから。) それから小さく溜息をついて、一護はその場を後にした。 「黒崎くん。」 呼び止められて、後ろを振り向く。 「井上・・・?どうしたんだ?」 振り返った先に居たのは井上織姫。 いつもの柔らかな感じがしない彼女に一護は何事かと思う。 織姫はそんな一護の視線に促されるように口を開いた。 「・・・朽木さん・どこ行ったの?」 「覚えてたんだ?」 へぇ・と感心するような口ぶりで一護が言う。 (ある程度霊力があると忘れねぇのかな。) ということはチャドも覚えてるんだろうか・と思いつつ続ける。 「みんながルキアを忘れた理由、知りたい?」 「やっぱり黒崎くんは知ってるんだね。」 織姫のいつになく強い瞳に一護は苦笑した。 そして。 「知ってる。・・・俺が、原因でもあるから。」 呟き、織姫に背を向けた。 場所を移動しよう・と言って、一護は歩き出す。 その背中を見ながら、織姫は「そんな悲しそうな顔・しないでよ。」と小さく呟いた。 「そっか・・・元いた世界に帰ったんだ・・・。それで、黒崎くんはそれを助けたいのね・・・」 自力で死神になれることなどは全て伏せた上で、 ルキアが死神であること、そして彼女が尸魂界の者達に連れて行かれたことを一護が話し終えた後、 織姫は一護に確認すると言うよりは自分の中で物事を整理するようにそう呟いた。 「ん?まぁな。・・・井上はさ、俺らのこと見えてたんだよな?」 「うん。それに記憶も消えてないよ。 朽木さんが学校に来たばっかりの頃、黒崎くんがあたしのお兄ちゃんと戦ったのも全部覚えてる。」 織姫の手が膝の上できつく握られるのを見て、一護は立ち上がった。 「そっか・・・・・・忘れてた方が良かったか?」 その問いに、織姫はふるふると首を横に振る。 「そんなことないよ。」 (そんなこと、あるはずがない。あたしは黒崎くんの事を少しでも多く覚えておきたいの。忘れたくなんかない。) 一護の背中を眺めながら織姫は口に出さずに思う。 そうして思いを口に出す代わりに織姫は別のことを言うため口を開いた。 「黒崎くんは朽木さんを助けに行くって言うけれど、それって正しいことなのかな? 朽木さんは元々そっちの世界の人で、家族も友達も何も、全員むこうに居るんでしょ? ・・・それを助けて・・・家族や友達と引き離して、またこっちに連れ帰るなんて・・・ホントに正しいことなのかな。」 織姫の問いかけに、一護はそちらを振り返って苦笑する。 「さぁな。・・・これが正しいかどうか、俺はそれを判断することが出来ない。 でも俺は目の前にいるヤツを護りてぇって思うんだ。だから助ける。 それに、生きてりゃそのうち家族でも何でもまた会えんだろ。死んだら全部オシマイだしな。」 返ってきた答えに織姫が優しく笑った。 そして一護に向かい合うように立ち上がる。 「黒崎くんらしいね。・・・うん。行ってあげて!がんばってね! あたしだって友達が死ぬのなんかイヤだもん!・・・ごめんね、変なこと言って。」 「いいよ。俺も思ったことだし。・・・じゃあな、井上。」 眉間にシワを寄せたまま笑って、一護は階段を駆け上がって行った。 それを見送り、姿が完全に見えなくなったところで織姫が静かに呟く。 「・・・うん。バイバイ、黒崎くん。・・・・・・でも、貴方だけで行かせたりなんかしない。 あたしだって朽木さんには死んで欲しくない。・・・そしてそれ以上に、護りたいんだよ。黒崎くんを。」 織姫は目を閉じ、風に髪を遊ばせながらしっかりとした口調で告げた。 「怪我なんかさせない。絶対に護って見せるから。」 |